大きくは宇宙感や宗教感が存在し、 また、 どの時点を切り口に語るかといった時代性を決める必要があるのであろうが、 直接的に我々の仕事に視点を据えて、 思いつくまま乱暴に次の事項を挙げる。
・大地の条件(山、 川、 平野、 海辺)
・風土性 (気候、 素材、 手法)
・地域構造 (街道、 鉄道、 河川)
・成り立ち (政治、 避難、 NT)
・基盤産業 (農業、 流通、 研究)
・シンボル性(山、 教会、 城)
・住民性 (生活習慣、 気質、 階層)
以上の要因を素直に受けとめて、 素材性の良さと良質なデザイン工夫によって造られた街はどこも個性的であり、 アイデンティティを持っているものが多い。
また、 主な要因が同じであれば、 必然的に個性と言うか、 形態は似たものとなる。
同じ平地の街であるから京都と東京の下街はアイデンティティは異なるもののどちらもグリッドパターンの街である。
超個性的といわれるイタリアの山岳都市も、 成り立ちの必然性が同じであると、 細部の構成の違いを越えて、 それらの個性は概ね同じである。
ただ、 我々の身近な文化と比べて、 アイデンティティは感じられるものの、 個々の差は深くは理解できない。
ともかく、 街をつくりあげている諸要因に正直につくられた街は、 結果として、 要因を反映した形態的類似性(同一性)と、 動体性や歴史性を加えた個別性としてのアイデンティティを持つのではないか。
現代における街づくりのアイデンティティとは何か。
街づくりにおける現代性とは先の街をつくりあげている諸要因を近代技術によって克服し、 合理性において均一化することであると考える。
そこにおけるアイデンティティは独立した目標として掲げられる。
代表例としては新幹線の駅、 及びその周辺や、 ほとんどのNT計画が挙げられる。
駅前には合理的に均一化された建築群と広場計画に、 桃太郎の石像や天神祭りのレリーフが付加される。
NT計画では、 近代的な土木技術によって、 大地の制約を克服し、 合理的な道路パターンと街区割りがなされる。
その後、 大地の条件とはまったく別のせせらぎが流され、 水紋模様の舗装が張られる。
そして、 この後付け方向の工夫が昂じると、 デザインによるストーリー化が始まり、 個性化は最悪の状態となる。
最近の目障りなマンホールの蓋には弱ったものだ。
私の専門とするランドスケープの世界では、 常に大地を代表とする基本要因からすべてを組み上げる。
したがって、 私にとってアイデンティティとはまじめな街づくりの結果生じるものであり、 目標として語るにはどうも肌合いが悪いものである。