JUDI関西 私の考える「アイデンティティとまちづくり」
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「らしさ」についての雑感

大阪産業大学

榊原和彦

 京都ワークショップにおける『京都の生き残る道はテーマパーク化か』という刺激的なフレーズに触発されて書く。

趣意をよく読むとほぼ曲解だなと思いつつ敢えて記すが、 このフレーズを見て直感的に思ったのは、 (1)都市は(テーマ)パークでよいのか、 (2)テーマパークの「場所」との関わりの希薄さ(いかにも日本的な風景を呈する山々に囲まれたハウステンボスの奇妙さよ!まちづくりはそうであってはいけない)、 (3)定型的なつくり、 維持するシステム(京都ワークショップの趣意書中のことばでは『マニュアル化』、 あまりに人為的な「つくる」方向、 「成る」ことはどうなるのか、 あるいは、 人々はつくり手として、 市民としてどう関わるか)、 などである。

   

 「らしさ」には、 二様の側面があろう。

「(種としての)固有性としてのらしさ」と「個別性・独自性(あるいは個としての固有性)としてのらしさ」である。

前者は、 たとえば、 「町らしさ」「川らしさ」「男らしさ」と言う場合のそれであって、 ある種に属する事物が共通、 普遍にもつ本来的性質である。

町や川が公園であってはいけない。

町は町、 川は川であるべきだろう。

これが(1)の抵抗感の理由である(と理屈を後付けした)。

   

 ところで、 まちは、 言うまでもなく建築物やインフラなど構成要素の集合体であり、 その「らしさ」や「アイデンティティ」は、 その集合体の全体から読み取り、 抽出することのできるある特性である。

構成要素の個々は個性あふれるものであるが、 それぞれが独自の成り立ちを持ち、 勝手に自己主張しているような場合、 それらを全体として見ればそこからもひとつの「らしさ」を見出すことはできようが、 それはポジティブに評価し得るようなものではないだろう。

したがって、 望ましい「らしさ」には、 構成要素に一貫して流れるある何かが必要である。

それは、 「コンテクスチュアリティ」(contextuality 脈絡性:この語は辞書には載っていないがcontextualism があるのだからよいだろう)であると言えるだろう。

   

 コンテクスチュアリティは、 構成要素間のものと、 要素とそれが存在する基盤や周辺・状況との間のものとを区別できよう。

前者は、 相対的に固有性の方に、 後者は個別性により大きく関わると思われる。

たとえば、 ハウステンボスの場合、 要素の意匠のコンテクスチュアリティが表層の固有性(オランダのまちらしさ)を表出する。

ところが、 基盤であり周辺・状況である自然や歴史などにおいてあるべきコンテクスチュアリティの欠如が、 かけがえのない独自のまちのもつ「らしさ」から程遠い印象を与え、 「場所」から離れて浮遊する虚構と見える状況が現れているのだろう。

京都では大丈夫だろうが、 「インスタント・シティ」ではありがちである。

以上、 (2)に関連して。

   

 さて、 それにしても、 個別性を生み出すのは、 自然とか歴史とかの場所性のみなのであろうか(フォーラムの趣意書にも『地域風土に根ざし、 歴史的に継承されてきた「まちのアイデンティティ」』とある)。

人や文化、 体制(社会)の問題はどうなのか。

   

 体制(社会)や文化的状況は、 未だに個別性を押さえ込み、 画一性(コンテクスチュアリティはこれに向かう危険性を孕むが)または非コンテクスチュアリティの方向に向かっているように思える。

とくに、 たとえば、 インフラづくりでは、 体制の号令一下皆が同じ方を向き(シビック・デザインと言い出せば一斉にそれに向かって走り、 内実あるデザインより表層の装いに意をこらし、 「多自然型」というとそればかりで、 すぐ隣りにある「親水型」とのコンテクスチュアリティはどこへやらといった状況が見られる)、 個々の行政マンは莫大な予算の消化に忙しくてデザインや住民との対話など考える暇もないと洩らす。

そして、 生産・流通システムは、 個性あるものづくりの行方を阻む。

   

 コンテクスチュアリティを担うのは、 個々の構成要素であるから、 まずは、 それをつくり出す個々人の意識を高め、 個の集合たる集団に共通の意識・価値観を育て、 そうして、 文化・社会的状況の全体が、 画一化と非コンテクスチュアリティ化に抗するようになることが必要だろう。

そのためには、 人づくりからはじめなければならない。

私自身は、 私の関わる分野で更なる努力を続けなければならないと改めて思う。

これが(3)に関連しての雑感である。

   

 時間が無くて、 粗雑な論理展開となってしまったことをお許し願いたい。

   

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