短絡的にその土地の名所や物産をモチーフとして表現することが、 問題の多いことは理解しやすいところである。
しかし、 環境デザインがその土地、 場所に関わるものであるとすれば何がアイデンティティを表現し、 アイデンティティとは何なのかを考える必要がある。
私は、 アイデンティティというのは、 その環境の複数の要素が情報として人に伝えられた結果であると考える。
現在、 その情報のほとんどは視覚的情報が多く、 あるいは視覚的情報の方が第三者に伝えやすいことから、 ものの形、 色彩として表現され、 その物が評価の対象になってしまう傾向が多く見られる。
実際に、 認識されるアイデンティティは視覚的要因のみでなく、 気候や温度、 人とのふれあい、 土地の食べ物など触覚、 味覚、 嗅覚、 聴覚等、 五感の全てを通して感じられたことの総体が、 その土地の特徴的印象を形成している。
私は、 アイデンティティについて考える時、 次の3つの見方があると考える。
はじめの2つは視覚的な要素から受ける印象に関するものである。
ひとつは人が街を見る場合の距離の違いによる要因である。
人が街を見る時、 大きく遠景、 中景、 近景によって街の印象をつくる要因が違う。
遠景では街のシルエット、 スカイライン、 混ざり合った全体の色彩が、 中景では人の視線から見た空間のプロポーション、 建物や窓、 門、 塀等の形や色彩が、 近景では人の手や体に触れる対象の、 温度や素材感等が街の印象を決めている。
ふたつめは、 その地域が持つ条件や性質による要因がある。
その街の自然や歴史、 文化の結果として現れた街の表情がある。
日本の中でも良い景観といわれているもののほとんどは、 その土地の気候や、 立地、 社会的条件としての必然が景観的表情として現れたものである。
又、 住宅地区、 商業地区、 工業地区、 オフィス地区等の地域が持つ性格的特性、 同じ商業地区でも業態の内容や住んでいる人、 訪れる人の性格も街の表情をつくる大きな要因となる。
みっつめは、 時間的な要因によるもので、 短時間、 旅行や観光で訪れた街の印象からは、 主に視覚的要因から街の印象がつくられ、 ある一定期間その土地に滞在したり、 知人や友人などがいて度々その土地に訪れるような場合は、 視覚以外にも触覚や味覚等を含めた、 体感的要因から街の印象がつくられる。
又、 自分の一生や親子代々その土地に住んでいるような場合、 思い出や記憶、 一生の中での出来事など、 歴史的経過を通して感じられる経験的要因が街のイメージ、 アイデンティティをつくる。
これらの場合は視覚的な要因だけでなく、 五感の全てと記憶や思い出などの歴史的要因が複合されて街のアイデンティティが形成される。
以上のように、 すぐ理解できるアイデンティティなんてものはなく(あったとしたらそれは表層的なものでしかない)、 アイデンティティとは多面的で複雑なものではないだろうか。
まちづくりにおけるアイデンティティ形成は、 設計者がその行為の結果として短期間につくれるものではなく、 そこに住む人々が時間をかけて、 自からつくりあげるものだと思う。
私たちはそのための効果的な仕掛けをつくらなければならないのではないか。