参加型デザインの理論
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都市環境デザインにおける参加

改行マークさて、 都市環境デザインをこのように理解すると、 都市環境デザインにおけるデザインの有り様は従来の「主体」と「客体」という枠組みでは捉えきれないことは明らかです。 ではどう考えるべきかですが、 システム論においては二つの問題に整理できます。 一つは「最適化」という問題であり、 二つ目は「自己組織化」とか「自己言及」と言われる問題です。


最適化問題

改行マーク「最適化問題」とは、 例えば「システム」の「目的」を、 デザイナーなり行政なりが外から与えて、 それがある環境に置かれてうまくいくかどうかを実際にいろいろやってみる。 そして最終的に適合するというパターンと考えます。

改行マークつまり、 「環境」に最も適応したシステムを作りましょう、 というのが「最適化問題」です。

改行マークその場合のポイントは「デザイナーがシステムや環境から自分を切り離すことができる」ということと、 「システムの目的を外的に与える」ということになるであろうと思います。

改行マーク例えば、 小冊子では「歴史的町並み保存」の話が出ており、 会場ではそれを例にお話ししたのですが、 例としては不適切という指摘がありましたので、 「駅前広場にパブリックアートの制作を依頼される」という例でお話しします。 これはある駅前広場に、 街の象徴になるモニュメントをたてようというという「目的」が、 行政からポコンと与えるわけです。 言い換えれば外から「目的」が与えられるとも言えます。 それが実際にうまくいくかどうか試行錯誤していくなかでシステムを適合させていくわけです。

改行マークそういう最適化は、 例えば次のように言えると考えています。

 テーゼ:最適化問題
(1)対象のシステム化
 保存対象のシステム化とは、 例えば、 どういうモニュメントがふさわしいか、 それがその広場にちゃんと建てられるかかどうかを考えるという段階です。
(2)システムとその環境との適合性の検討
 モニュメントのデザインを決めたら、 それが周りのものと適合するかどうかを考えるということです。
(3)保存対象を環境とした、 新しいシステムの構築
 今度は逆に、 広場に新しくショッピングセンターをつくろう、 その看板をどうかしようといった場合に、 モニュメント(対象)を含む周辺を環境として、 新しいセンターを「システム」としてどういうふうに作っていくかが問題になる段階です。
(4)システムとその環境との適合性の検討
 さらに(3)で新しく作ったショッピングセンター(システム)と、 「環境」になったモニュメントとその周辺を、 決定した行政がどうやって適合させるかという段階です。
 
改行マークこれは一種の無限連鎖と言いますか、 モニュメント、 その広場、 ショッピングセンター、 またその周辺と、 隣の街区の隣にはまた隣の街区があるわけですから、 (1)の保存対象のシステム化も含めてずっと続く、 その一断面を捉えてみたものです。 まちづくりでは時間という視点が大事だと小浦さんから指摘がありましたが、 システム論は時間を扱えませんので、 “フィードバック”とかそういう言い方になります。 遡及効果といってもいいですが、 システムが機能して、 その結果を再びシステムが取り入れて、 システム自身がまた改変していくという言い方しかできません。

改行マークいずれにしても、 こういった営為は、 完結はしないとしても、 デザイナーとして最適化した解答を出すべき問題です。 あるいは出しうると言っても良い問題です。

改行マークただここでの問題として、 最適化した回答を出すことは楽にできるとしても、 最適化した回答として出されるシステム(技法)が沢山あるということです。 こういうシステムをつくっても環境と適合するだろうし、 こういうものでも適合するだろう……と。 こういうモニュメントやセンターをつくっても適合するし、 また別のものをつくっても適合する、 と。

改行マークその沢山ある回答の中でどれを選択するかという問題に至って、 参加型のシステムがニョキニョキっと顔を出してくるだろうと思います。 あるいはそのうちのどれがベターか、 例えば買い物客にアンケートするとか、 というレベルにしても、 みんなの「合意」という事で解決しなければならないだろうと思います。

改行マークすなわち「最適化問題」はデザインの領域で解き得ても、 どの解答を選択をするかが最後に残るだろうという事です。 これが都市環境デザインにおいて参加が避けられない一つの理由です。


自己組織、 自己言及問題

改行マーク二つ目は、 「主体」や「システム」と「環境」を分離して扱えない場合に発生する問題です。

改行マークこの問題は、 システムの「目的」自身が内的に構成されると、 それはつねに変動するし、 情報が異なってくるというものです。

改行マークこの場合の「システム」とは、 さきほどの「切り離せるシステム」というのと同じで、 人間でもモノでもかまいません。

改行マーク建物でもかまいません。 内部空間はとりあえず構成したけれども、 実際に運営していく中で、 当初使用していた空間を、 別の目的が発生したため、 三人でコンピュータを単独で使っていたけど、 フロアー全体でネットワークを張り、 印刷機は一台にしてしまう、 といったかたちで、 構成し直していくというのは日常的によくあることです。

改行マークこれは、 システムをモノではなく人間の集まりと考えるときの方が適切かもしれません。 例えば市民グループが集まる、 というのが「システム」です。 集まって話し合いをするときになって、 何を目的にしようか考える、 というのが「目的が内的に構成される」と言う事です。 行政からポコッと与えられるとか、 誰かが言ったから、 それを取り入れてさあなんかしようという先ほどの考え方とは違うということを言っているわけです。 システムとはいいますけど、 この場合は決して固定したメンバーで固まっているわけではなく、 出入りがあります。 そして話し合ったりしているうちにもともとは、 家の前のゴミをどうするか、 のために集まったグループが近所まで巻き込んで、 子供の遊べる道にしよう、 とか公園の整備をどうにかしようとか、 自然食品の共同購入もしよう、 とか次々と別の目的が発生して、 グループのありようが変わっていくわけです。 中には、 そうしたグループがかえって固定化したり、 権威主義的な人が音頭をとりがちなのでそれを嫌って、 グループからでていく人もいるかもしれません。

改行マークこれをまとめると、 次のように言えるだろうと思います。

 テーゼ:自己組織、 自己言及問題
(1)暫定的合意主体の暫定的合意によるシステム=主体形成
 一応何か(誰か)が暫定的に(適当に)集まってきて、 「とりあえずこうちゃうか」という話をし始めるわけです。 そのときに集まった人達は、 みんなで、 つまり彼ら自身としてシステムを作ると同時に、 その人達が主体となって何かしていこう、 デザインしていこうという、 そういうプロセスがあるだろうと思います。 上の例からすれば、 隣近所の何人かがあつまって、 ゴミをどうしようとか、 公園を整備していこうとというケースが当てはまります。
(2)環境のサンプリング
 モノを作っていこうとかいう事も含めて何かをしようとしますと、 我々が取り巻かれている環境についての情報が必要になります。 しかし、 環境は複雑なので、 一気に情報はとれないから、 サンプリングを行うだろうという段階です。 ある安全性とか見た目の美しさとか、 防犯性とか、 ある視点を決めて公園の状態のモデルを書くわけです。
(3)暫定的システムとサンプリング環境との適合性基準の設定
(4)暫定的システムと現実環境との不適合性の評価
(5)評価にともなうシステム改変による暫定的システム=主体形成
 後は、 システムとサンプリングが適合してるかどうかを調べて行くわけです。
 しかし、 調べて行くうちにシステム自身が変わっていくことが十分考えられます。
 簡単に言うと、 話し合いでとりあえずはこう決まっていたけれど、 実は変わってきた、 という話です。 それが「自己組織化」です。
 自分たちで自ら組織をつくる、 あるいは適合性を調べている間に、 自分で言った事が帰ってきて“フィードバック”が起こり、 その結果自分自身が変わってしまう、 そういう問題を「自己組織化」とか「自己言及」とか呼びます。
 集まって話し合っているうちに、 ゴミの話がこうじて、 自分のうちのゴミはどうしてこんなに多いのだろうとか、 過剰包装をやめていこうとか、 反省をするようになって、 個人としても、 グループとしても変わっていく。 子供の安全性から公園の整備をしていくうちに、 安全性だけでいいのか、 めったやたらに柵を作って立入禁止にすればいいのか、 と疑問もでてくるし、 また口に入る食物の安全性はどうなのだろう、 とまた自然食品に対する関心に広がっていく。 個人の意識にとどまらない、 こういうグループのあり方の変わりようを、 「外から」専門家がいうから、 というのではなく、 自分たちで(自己)グループのあり方(組織)を変える(化)、 あるいは安全性に配慮するとか、 実際にしてこと、 してきたことが自分たちのあり方(自己)に跳ね返ってきて(言及)、 別の視点から、 あるいは視野を広くとって安全性を考えるようになる、 というケースです。
(6)新たな環境のサンプリング
 これは(2)に戻ると考えていただいて良いでしょう。
 
改行マークこういう過程をえて自らも変わりながら、 何かをつくってゆくのがシステムの「目的」自身が内的に構成される場合のデザイン・プロセスです。

改行マーク先ほど紹介した目的が外的に与えられる場合も、 どの最適解を選ぶかという段階で参加が必要になってくるわけですが、 こちらの場合は参加型そのものではないかと思います。

改行マークややこしい言い回しが多く、 分かっていただけたかどうか不安ですし、 最適化も自己組織化も概念として両極を示しているものですから、 現実には両方の側面を常にもって物事は動いているのだろうと思います。 しかし以上のように整理して考えると、 先ほどの主体も客体も含まれている環境を扱おうという都市環境デザインには、 どう転んでも「参加」が必然であり、 また本質ですらあるのだということが明らかであろうと思います。

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