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環境共生の都市デザインの目指すところ

街が生き生きと存続し続けるために

大阪大学

鳴海邦碩

環境と環境共生

 環境というのはそもそも相互的な関係を意味する言葉である。 つまり、 環境は環境だけで存在しているのではなく、 常に、 「何々のための」あるいは「何々が生存するための」環境という意味で、 存在している。 例えば、 その中に人間がいて、 人間と外界との関係が環境として認識される場合、 その環境を人間環境と呼ぶことができる。 また、 その中に鳥のような生物を想定すると、 そこに鳥と関係をもつ環境が存在する。

 人間にとって鳥は環境を構成する一要素であり、 鳥にとって人間は環境を構成する一要素になる。 つまり、 互いに環境を構成し合っているのである。 そのような相互関係をもたない環境、 あるいは相互関係を認識できない環境は、 環境でありえないということになる。

 環境は相互的であってはじめて存在しうるのだから、 環境は常に〈共生〉的なものであるといえる。 したがって、 環境を独立して考えるよりも、 〈環境共生〉としてとらえると、 環境の意味がより判りやすい。

 共生という言葉には、 「共に生きる、 共に補い合いながら生きる」という意味がある。 こうした共生の関係は、 「人間と人間」「人間と自然」「人間と技術」「人間とそれぞれの場所」において存在することが期待され、 その結果として、 「人間が生き続けて」いけることが望まれる。 これが環境共生の真の意味であると思う。 そう考えると、 環境共生という概念は、 共生的、 協同的、 持続可能的、 再生産的、 といった概念を併せ持ったものであると考えられる。

 従って、 環境共生の都市デザインの目標は、 「都市が、 街が、 生き生きと生き続ける」ための環境を形成する、 という点にあるととらえられるべきである。


都市環境の質と都市の魅力

 1998年、 EUの都市計画家協会が新アテネ憲章を提唱した。 この憲章が示す21世紀の都市づくりの基本方針は、 持続可能な都市づくりを目標にしており、 そのためには、 狭い意味での環境のみではなく、 環境の多面的な領域に着目することの必要性を説いている。 とりわけ、 〈都市の質〉〈質の高い都市環境〉〈都市の魅力〉〈小さなビジネス群を生み出す環境〉〈活気のある昔からの都市がもっている特質〉〈市民が交流できる環境〉〈街区、 近隣といった身近な環境〉といった、 具体的な都市環境のあり方に着目している。

 また、 1999年、 イギリスで極めて挑戦的な再開発計画論が出版された。 これは具体的な地区の再開発を論じたもので、 〈エコロジカルなまち〉〈和やかなまち〉〈活気と交流を生み出す空間構成〉〈まちを再生する仕組み〉の4つの領域が計画の重要な枠組みとなっている。

 この中でも、 都市の空間的な質の重要性が繰り返し強調されている。 例えば、 古くからある街には、 新しい街にはない魅力がある。 その魅力を「都市の木目」として重視しており、 それを生み出すようなデザインの仕組みに工夫を凝らす必要がある。 この都市の「木目」を魅力あるものにするために、 小さな開発を組合せること、 一人の設計者が大きな地区を設計しないこと、 また、 一つのディベロッパーで大きな開発をしないこと、 などがあげられている。


経済との連携の必要性

 先に示したヨーロッパの二つの都市づくりの考え方は、 経済を重視している点でも共通性がある。 とりわけ後者では、 「新しい都市経済を認識し推進することは現在では学校で教えられていない都市計画技術を必要とする」「経済活動の新しい形を考え出したりするようなことを、 都市計画はもっと積極的に行うべきである」と述べている。 このような考えは開発をどんどん進めていくべきだ、 ということを主張しているのではない。 「街が生き生きとしていること」、 その基盤の重要な要素の一つが経済活動であるという最も基本的な認識である。

 以上の考え方は、 環境共生を狭い分野にとじ込めてしまいがちな日本の状況に対して、 大いに示唆する点があるのではないだろうか。

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