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惣村に見る環境共生

八日市市快適環境整備計画から

都市緑地研究所

横山宜致

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惣村の掟書き(今堀口吉神社文書)
各集落の鎮守と「のう」の位置図 布引丘陵周辺の空間構成模式図
 

 近江湖東地方の農村集落は、 中世の惣の伝統に基づくもので、 平坦に広がる田園の中で家屋がコンパクトに密集した「塊村集落」を形成している。 明治元年の「地検取調総絵図」に見られる八日市市の集落宅地は、 今日に継承され、 集落の位置・形態も大略一致する。 すなわち一定の家屋立地圏の中で建て替えを繰り返し形成してきたもので、 これは各集落で継承してきた「惣の掟書」等によって、 農地を無秩序に宅地化し、 つぶしてしまうことを禁止してきたことに由来している。

 自治的集落の惣は、 集団でもって自衛すると同時に共同の管理を通して、 惣村特有の効率の良い集約的土地利用を展開する。 例えば、 各集落の鎮守は、 水源地の山手側に必ず位置し、 山を有さない平野部の集落では、 愛知川洪水に備える形で、 鈴鹿山系を望む集落東側に共通分布する。 塊村のため自家用菜園は、 家屋単位ではなく、 集落単位で水かかりの悪い微高地に設け、 屋敷とは別地目の菜園団地となり、 八日市では「のう」と呼んでいる。 集落内に導かれる用水は、 集落の利排水に利用しやすいよう東側の鎮守との結界を構成しながら、 東南側の水田と集落家屋の境界に配され、 蒲生野特有の逆S字型流路を展開している。 逆S字にする事で水路延長を長く取り、 貯水量を確保したもので、 現在も愛知川産の丸石で築かれた玉石護岸と供に特有の景をつくり出している。 この他惣村経営のための惣堂や太鼓楼、 集落内に分布する妻入り地蔵堂、 集落境に息づく平入りサイの神や集落ゲートの勧請縄等、 惣村特有のシンボル施設が一定の秩序の基に配されている。 惣村のこうした共有施設の運営管理にあたっては宮座に代表される年齢階梯制集団を組織し、 今日の祭りや集落慣行に色濃く継承されている。

 八日市の惣村は、 布引丘陵に代表されるように水系圏域と符合する形で共通の文脈圏域を構成しており、 自律した環境単位となっている。 こうした伝統的環境単位は、 コンパクトシティが叫ばれる今日にあって八日市の環境共生の原型として益々重要な時空を提供している。

    惣;中世後期組織された村落共同体。 惣は固有の法(掟)と自営・警察機能を備えた自律組織であり、 ひとつの行政単位として公的な自治活動を展開した。 大和や近江等の近畿圏に多く関東圏にはほとんど伝えられていない。
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