長田市街地を含む神戸市西部市街地域は、 大化改新における班田収授に関連して知られる条里制地割が実施されていたことが、 大正期から始まった「摂津国八部郡条里復元」としての研究により確かめられている。
同じ大正期から行われたこの地域の耕地整理は、 単なる区画の整理でなく、 条里制地割を復元した文化性のある耕地整理であった。
そのおかげで、 同じ古代の計画手法である「方位線」「風水モデル」でこの地域の構造を読むことができる。
風水都市―ながた
環境共生思想を過去から未来へ(神戸市長田市街地)
久保都市計画事務所
久保光弘
文化性のある大正期の耕地整理―条里制地割
現在神戸市の長田市街地では、 区画整理や再開発等の大規模な震災復興事業が進行中である。
高取山・葛城山方位線
長田のシンボル、 神奈備山高取山に対する遥拝所をもつ長田神社(この地域一帯の産土神)には、 古代ナガタノクニが、 大和朝廷の勢力下に組み入れられた頃、 大和国葛城山山麓から移されてきた事代主尊が祭られている。 この高取山山頂と大阪湾を越え30km離れた葛城山山頂とを結ぶ方位線は、 この地域の条里制地割の方向(正南北から約38.5°傾いている)とはピッタリと一致する。 すなわち「高取山・葛城山方位線」が存在しているのである。
風水都市構造
条里制地割からみた長田市街地の都市構造 |
五位池線を朱雀大路に見立て、 さらに震災復興区画整理事業によって形成される東西方向コミュニティ道路(計画幅員14m)とで形成される十字型の軸線を「天心十道」と見立てると、 長田市街地は、 「風水モデル」(風水思想による造形空間)に適う都市構造となっている。
長田の先人たちは、 長田の町を固有の周辺自然環境に呼応した都市構造を遺してきた。
これを基盤に、 長田は、 「環境共生型都市宣言」をし、 官と民が環境共生まちづくりの知恵を出し合っていくことが大切でないだろうか。
梅原猛は、 人間が自然を支配することを文明とする西欧の思想を批判し、 自然崇拝の古代神道、 又それを受け継ぎ「山川草木悉皆成仏」という原理をもつ日本の大乗仏教思想こそ、 21世紀最大の危機である環境破壊に対応する思想でないかと述べている。 そのような思想を背景とした、 かつての日本の計画手法を我々は忘れている。 これを今、 掘り起こさなければならない。
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