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都市環境の自然史的視点―伊丹緑地
大阪芸術大学
松久喜樹
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日本における都市の観念は古来より、 自然を基盤に形成しており、 山々は神聖なるものであり、 都市には鎮守の森に見られるような山のメタファーが見られる。 環境共生のデザインを思考するためには場所の持つ固有な象徴性の再生産が必要であり、 都市のイメージとして認識される。 こういった場所の連なりとして空間に秩序を持たせることは一つの効果的なデザイン手法である。 都市のなかには名所として残る場所あるいはかつて象徴的に意識された場所が多く存在している。 失われつつある、 地域のアイデンティティを再生するためにも自然への言及が残る象徴的な場所は土地の記憶として欠くことができない。
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伊丹緑地平面図
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伊丹坂トンネル付近を下方から走る道路から見上げると緑地は一層際立って見える。
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ここで取り上げる伊丹緑地は兵庫県伊丹市のほぼ中央に位置し、 猪名野神社から国道171号線を結ぶ約1.2kmの伊丹台地斜面を背景に、 自然林に近い姿を残している緑地である。 伊丹緑道が緑地を貫通しており、 伊丹市の誇る緑のオアシスとなっている。
伊丹緑地のある崖地は猪名川の河岸段丘として形成され、 大阪国際空港は猪名川左岸の広大な氾濫原に盛り土をして建設されたものである。 かつて台地は洪水の影響からまぬがれたため、 河岸段丘上に集落が立地しており、 戦国時代には敵の攻撃から守るため、 段差をたくみに利用して居城と一体化した城下町を築いていた。 現在はクスノキ、 アラカシ、 ムクノキなど、 およそ30数種の樹木がうっそうと繁って、 照葉樹林の名残りを見ることが可能である。
伊丹緑地に見られる水系と微地形を生かしたかつての象徴的な場所は自然史的背景を知る手がかりになるであろう。
私は以前に伊丹緑地の今後のあり方について参画する機会を得て、 基本計画を立案した。 現実は必ずしも私の意図した整備が進んでいるとは思えないが、 緑地は現在も保全され、 幅員は大変狭いがこんもりとして山のように見える森は地域の自然のランドマークとして貴重である。
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