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至福の時―空中に住む―

今田町の家(兵庫県多紀郡今田町)

現代計画研究所

江川直樹

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第15回日本建築士会連合会賞・作品賞受賞
 自然と共生し、 時と共生する。 「環境と共に生きる喜び」これこそが環境共生型デザインのキーワードではないか。 環境に身をゆだね、 その結果、 わくわくする。 自然ってすごいんだ。 自然への尊敬と尊厳を身を持って体験する。 自然のすばらしさを味わい、 気持ちよさを感じる。 便利から快適へという発想の転換が環境共生の世界の基本である。 自然は気持ちよさのかわりに厳しさも教える。 これに謙虚に応答し、 身を守るのも快適さの裏返しである。 自然を制御するなどというおごりを捨てることが環境共生の基本であると信じる。 その結果得られる『至福の時』。 生きていて良かった。 これからもこんな快適さを大切にしたい。 そういう発想の延長線上に環境共生が有るように思える。 つまりは、 便利さに溺れないことからくる快適性に気づく事だ。 それが環境共生のアメニティだ。 自然の音と暮らしているか?風に揺れる木々のささやき、 ちりじりに輝く葉々の光、 爽やかに吹き抜ける風、 昇る朝日、 沈む夕陽。 雨上がりの抜けるような青空。 虹。 自然は常に動いている。 そして、 常に私と共に生きている。 『至福』というのは、 便利なだけの世界には存在しないと断言できる。 われわれは、 そんな世界でいろんなものものやひとびとと一緒に生きているんだ。

 

 神戸、 東灘の下町で阪神・淡路大震災に遭遇した施主は、 六甲山を越えた三田のアパートに移り住み、 新たな住居のための土地を探し始めた。 気に入ったところが見つかったので見て欲しいと言われて行ったのがこの場所だった。 向かいに山を望み、 間に清流を挟んで水田、 小さな集落を奥にもつ行き止まりの道路の手前の南斜面に見事に雑木が密生していた。 山の1/3を占める1,700坪程の土地だったが、 フラットなところが全くない急斜面で、 「ここに家が建てられるか?」と聞かれて、 「物理的には可能だ」と答えた時には、 どうやったら空中に浮いたような家が出来るだろうかと考えていた。 瞬間に理解できたのだ。 施主と私は暗黙の内に、 この山間の斜面で過ごすことによって得られる『至福の時』を想い、 共有し合ったのだ。

 だから、 山を壊したくはなかった。 土を壊したくなかった。 木々の中に埋もれ、 空中に浮いた庵の気持ちよさ。 深いひさしの下で、 ここだけはまるで夏がないかのように、 風が吹き抜けていく。 差し込む朝日のなかで朝食を採り、 風呂につかる。 冬の寒さもあるけれど、 その『至福の時』を思っていたのだ。

 造成をしない林間住宅地の計画(T新都市・構想中)で、 大きなエネルギーや機械を林間に入れずに、 手作業の延長のようなやり方で家を作ることを条件にすべきだと言っていたことと、 空中に浮かすということが、 どうやったら結びつくかが課題だった。 排水や給水の条件、 集落の了解といった問題を解決し、 土地を購入した。 最終的には、 谷状の部分を跨ぐかっこうで、 2本の1,200径のRC柱を打設し、 樹林を跨いで道路からクレーンで鉄骨のステージを組み、 その上にプレカットされた木材によって軸組乾式工法の空中緑間住宅をつくった。 外壁は、 厚み70mmのスギ板を柱間に落し込み、 ダボとボルトで縫って壁としている。 ソーラーや雨水の再利用もないけれども、 自然との共生感あふれる住宅に仕上がった。

 『朝、 窓の外は雪かと見まがうほどに厚く霜が降り、 それが、 陽がさし気温があがる頃になると白い湯気となり一種幻想的世界です。 今田町で始めての冬、 味わっています』。

―施主からの手紙より―

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