21世紀の都市計画の課題
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報告2

広義と狭義の都市計画

兵庫県都市計画課 小松原祐二

改行マーク私より前の二人の方が偉い人で、 私がほんとの担当者です。 前の二人のレポートは県として公式のものですが、 私のレポートは小松原個人のものです。 役所では個人のレポートを紹介する機会が滅多にないので、 非常に楽しく感じております。

改行マークお持ちした資料は、 兵庫県都市計画課で「人間サイズのまちづくり」と都市計画のかかわりについて勉強していた際に私のつくったレポートです。 「人間サイズ」を考慮した都市計画と、 私たちが日常一般的にやっている「都市計画決定」との関係をどう考えれば良いのか。 これを議論するための一つのきっかけとして書いたものですが、 ひょんなことからこういうことになりました。 役人の都市計画についての問題意識の一端、 というつもりで聞いていただければいいと思っています。

資料目次
 

いままでの都市計画とまちづくり都市計画

改行マーク
(1) 都市基本計画にはタイトルでいいます「広義の都市計画」、 つまり一般的な概念としての都市計画について書いております。 広辞苑では、 都市計画とは「都市生活に必要な交通・区画・住宅・衛生・保安・経済・行政などに関し、 住民の福利を増進し公共の安寧を維持するための計画」とあります。 日本語としての都市計画はここまで広い概念で捉えられているのかと、 私も驚きました。

 

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図1 楕円の部分が、最も広義の都市計画
 
改行マークしかし、 専門家である日笠先生の本には、 「都市というスケールの地域を対象とし、 将来の目標に従って、 土地の利用と施設の配置と規模を想定し、 これらを独自の論理によって組成し、 その実現をはかる技術である」と書かれてあります。 このあたりが役所の常識、 あるいは専門家の常識としての「広義の都市計画」の範疇だと思います。 広辞苑にある最も広い都市計画の概念と、 我々が使う広い意味での都市計画の関係を示すと図1のようになります。 ここでは、 広議の都市計画を物的計画という部分に限定して話を進めたいと思います。

改行マークこのレポートでは、 これを勝手に「都市基本計画」と名付けております。


都市基本計画の構成(体系)

改行マーク
(2)「都市基本計画の構成(体系)」というたいそうなタイトルが付いてますが、 ほとんど本の抜き書なんでお恥ずかしい限りです。

 

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図2 土地・施設計画
 
 
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図3 環境計画
 
 
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図4 地域計画
 
改行マーク今までは私を含め大抵の方が、 図2に示す土地・施設計画という体系で都市計画を捉えていたと思うんです。 しかし、 図3の環境計画という捉え方もあるんだという趣旨を伝えるため、 ここで書きました。 これから人間サイズのまちづくりを考えていくとき、 二つは切り口が違うだけで実は同じもので都市基本計画も環境計画のような切り口から攻めていく必要があると考えます。 これを議論するきっかけにしたいと思って書きました。


都市基本計画と都市計画決定(都市計画法)

改行マーク
2「都市基本計画と都市計画決定(都市計画法)」からは、 都市計画法に基づく都市計画決定とは一体なんなんだということを考察しています。 役人の得意分野になるわけです。 役所で「都市計画」といえば、 普通の人はこの法に基づく都市計画あるいは都市計画決定された道路とか公園とかをイメージします。 これを狭義の都市計画と言っていいと思います。

改行マーク都市計画法でいう「都市計画」は、 「適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」を基本理念とし、 「都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための土地利用、 都市施設の整備及び市街地開発事業に関する計画」で、 整備・開発・保全の方針、 線引き、 地域地区、 都市施設、 市街地開発事業、 地区計画等を、 法に規定する縦覧や審議会のような手続きに従って定められたものということになります。 このように定めることを都市計画決定といいます。

改行マーク都市計画決定をする法定都市計画の最大の意味は、 私権の制限を伴うことにあると私は思います。 例えば、 ゾーニングをして用途地域を決めると、 自由に好きな建物を建てることができなくなります。 道路とか公園など都市施設が計画された場所では、 その土地を使うこと自体が制限される場合もあります。 市街化調整区域に指定されると一番大きな制限を受けることになります。 しかし、 私権を制限できるということが、 法定都市計画の範囲を狭めているともいえます。 日本では、 公共の福祉のために必要な限り私権を制限できることになっているので、 何でもかんでも都市計画決定するというわけにはいきません。

改行マーク都市計画決定と私権の制限の関係にもいくつかパターンがあります。 公共の福祉としての必要度が高ければ高いほど制限がきつくなります。 例えば市街地開発事業等予定区域という都市計画の場合、 期限付きの制限になります。 地区計画の場合、 都市計画法の中での私権の制限自体は届出をする程度の話ですが、 議会で認められると建物自体の制限に変わります。


都市基本計画と法定都市計画

改行マーク次に
2(3)「都市基本計画と法定都市計画」では、 狭義の都市計画(都市計画決定)と広義の都市計画(法定都市計画)はどういう関係にあるのかを考えいます。

 

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図6 基本計画と法定都市計画の関係
 
改行マーク広い意味での都市計画は当然実現を目指してつくるものですが、 基本計画自体はどうやって実現させるかという手だてを持っていません。 基本計画の内容の一部を、 都市計画法に定める線引き、 地域地区、 都市施設、 市街地開発事業等の法定都市計画にそれぞれ組み替えて、 私権の制限や強制的な規制、 補助金等の力を借りてやる方法が大きな力を持ちます。 しかしさっきもいったように、 基本計画の全てが私権の制限ができるほど公共の福祉度が高いか、 といわれると一般的にそうではありません。 図6がそれを表しています。

改行マーク基本計画のうちどうしても必要な部分が法定都市計画として決定されて、 そこに私権の制限がかかってくる、 そのかわり優先的に補助金を受けたり事業が実施されたりしていく、 という概念を表しています。

改行マークただ、 この「どうしても必要」という部分がくせものです。 どうしても必要なものとして定めたものを住民が反対したからといって簡単に変えられるのかと考えた場合、 「変えられない」と言いきるとそれは役人じゃないので、 「変えられないという話になるんじゃないか」ということです。 どうしても必要と簡単に変えられるというのは裏返しの関係というか、 なかなかに難しいところがあると思っています。

  都市計画決定しなくても補助金がもらえてどんどん事業してることはどう考えるのか、 という疑問が出されたこともあります。 これは珍しいことではありません。 当然都市計画にない事業をやるわけはないし、 都市計画決定をしないでやる公共事業もやっぱり広い意味での都市計画に乗っ取ってやっているからです。 都市計画決定をしないということは「どうしても」そこを整備しなければならないほどの必要性がない施設か、 既に地権者が合意している場合のように私権の制限をしなくてもできる状況にあることだと思います。

改行マークあくまでも都市計画決定は、 広義の都市計画を実現するための手段のひとつにすぎないので、 私権を制限せずに実現できるのならばそれに越したことはないと思います。


人間サイズのまちづくり(まちづくり都市計画)

改行マーク次に
3「人間サイズのまちづくり」では、 人間サイズのまちづくりを考えたときに都市計画決定はどうあるべきかを考えました。

 

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図7(a)
 
 
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図7(b)
 
改行マーク図7の左の図(a)が私の結論です。 このレポートではまちづくり都市計画と書いていますが、 「人間サイズ」という新しい概念で都市基本計画を組み立てるように広義の都市計画のかたちが変わっているにもかかわらず、 狭義の都市計画、 つまり都市計画決定の考え方だけが変わらないことはきっとないと思います。


いま、 必要なこと

改行マーク以上のように、 新しいまちづくり都市計画の考え方のもとで公共の福祉と私権の制限についてきっちり議論し、 成熟社会における都市計画決定のあり方を市町に示して、 また自らも実行することが県に求められているこれからの役割だと考えています。 あくまで私個人の考え方です(
2(4)「いま、 必要なこと」)参照)。

改行マーク最後にどうしても言いたい部分があります。 私は新しい都市計画決定や新しい規制をするために議論が必要だと言っているのではなくて、 いわゆる「まちづくり」のなかでの規制のありかた自体を含めて考えるための議論が必要だと思っているということです。

改行マーク横浜国立大学の行政法の三辺先生に教わった「権力に担保され、 強制的に創り出された地域環境が果たして人々の生活の場となり得るのだろうか」という言葉があります。 この言葉をご紹介して私の発表を終わりたいと思います。 ありがとうございました。

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