アメリカにおける歴史保存トラストと都市づくり
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はじめに

 

街を大切にするヨーロッパ

 ただ今から2001年の第1回都市環境デザインセミナーを始めます。 この3年間ほど、 第1回目はこれから1年間進めていくセミナーの糸口となりそうな話題を私が報告しております。

 今回のテーマは「アメリカにおける歴史保存トラストと都市づくり」です。 一昨年だったと思いますが、 新アテネ憲章を皆様にご報告しました。 新アテネ憲章とは、 かつて1930年代にCIAMによって提唱されたアテネ憲章の21世紀版をめざし、 EUの都市計画家グループがつくったものです。 その中で既存市街地への回帰が強く謳われていたことを出席された方は覚えておられると思います。 またそれは伝統的な街の評価について積極的に組み立てられたまちづくり方針でした。

 昨年の春は、 兵庫県まちづくり部の難波さんから21世紀の都市計画の課題という問題提起のセミナーがありました。 そのとき私は“Building 21st Century Home/The Sustainable Urban Neighbourhood”という、 イギリスのマンチェスターを例にした都市計画の考え方についてご紹介しました。

 一昨年の新アテネ憲章と昨年のサステイナブル・アーバン・ネイバーフッドを通じて共通する認識が議論されてきたので、 その延長線上でお話しするのが今日の狙いです。

 サステイナブル・アーバン・ネイバーフッドでは二つの都市モデルが述べられていました。 アングロサクソン・モデルとフランス・モデル(ラテン・モデル)です。 まず、 アングロサクソン・モデルは郊外開発に象徴されるような開発で、 イギリスやアメリカ、 オーストラリア、 カナダといった国々で進んでいます。 それに対して、 フランスを中心とするラテン・モデルは都市に対するイメージが異なり、 伝統的な街を高く評価するモデルです。

 この本はマンチェスターの再開発の基礎になった理論ですので郊外開発に対して批判的です。 アメリカの郊外開発についても批判しています。 しかし、 アメリカでここ10年くらい盛んになった「アーバン・ビレッジ・キャンペーン」とか、 「ニューアーバニズム」には影響を受けています。 このようにヨーロッパは、 アメリカを批判しながら、 アメリカの新しいアイデアを受け入れたりもしています。

 このように、 ヨーロッパとアメリカはキャッチボールをしながら進んでいます。 それに対して日本は、 ヨーロッパとかアメリカからアイディアを貰いますが、 キャッチボールをやっていません。 いずれはそういうキャッチボールに挑戦して行きたいと思いますが、 今日はまずこの10年ほどで出てきたアメリカの新しい考え方について、 大学院の学生と一緒に勉強してきた成果をお伝えしようと思います。


アメリカにとっての地方都市の意味

 今日の話の中心はナショナルトラスト(National Trust for Historic Preservation)です。 1949年に創立されました。 その後、 地方都市の商店街の活性化を支援するメインストリート・センター(National Main Street Center)という組織がナショナルトラストの下に20年ほど前に設けられました。 それに関連して、 アメリカでは1966年に歴史的保存法が成立しています。

 ところで、 我々はニューヨークといった大都市はよく知っていますが、 アメリカは大都市だけではないんだということを、 堤清二さんが数年前に出された本の中の一文から紹介します。

     
      アメリカに出かけるたびに、 1日、 2日の時間をもらって地方都市や田舎に行ってみることにした。 そこここに、 ヨーロッパの古い町の名前を持った通りが、 突然のように現れたりする小さな町で、 人々は静かに、 あるいはやや頑に自分流の生き方をしていて、 昔の姿が生きているという点では、 日本よりも歴史が残っていると感じたこともある。
    〈中略〉
      そうしたある日、 私は急に、 アメリカがベトナム戦争を敗北のままでやめなければならなかったのは、 この戦争を続けていれば、 合衆国を無言で支えている、 こうした地域が崩れてしまうという、 内なる危機感を政府も無視できなくなったからではないか、 と気づいた。
    辻井喬(堤清二)
 
 アメリカは地方都市をとても大事にしているということが、 良く伝わってきます。 また、 「無言で支えている」という表現に、 いわゆるアメリカの草の根の人々のコミュニティに対する関心がよく表れていると思います。


今日の話しの枠組

 こういう地方都市への愛着を念頭においていただいたうえで、 今日は次の四つのテキストに基づいてお話しします。

     
     1。 スプロールを打ち返そう
      Striking back at Sprawl, by Arnold Berke, Historic Preservation, 1995 Sept/Oct
     2。 アメリカのスプロール現象
      The Sprawling of America, An Address by Richard Moe, Historic Preservation, National Press Club, Washington, DC,22 Jan. 99
     3。 3州地域でより賢い開発を進めよう
      Growing Smarter in the Tri-State Region, An Address by Richard Moe, Historic Preservation, Regional Plan Association New York, 29 Apr. 99
     4。 メリーゴーラウンドの大プロジェクトからの離脱
      Getting off the Big Project Merry-Go-Round : Mansfield, Ohio, "Cities : Back from the Edge, New life for Downtown", Roberta Brandes Gratz with Norman Mintz, Preservation Press, John Wiley & Sons, Inc., 98
 
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図1 本セミナーで紹介する州
 四つめの「メリーゴーラウンドの大プロジェクトからの離脱」からはオハイオ州のマンスフィールドという小さな街の事例を紹介する予定です。 また今日の話に出てくる州はこちらの地図に示されている通りです。

 

 

 

 
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