街の遺伝子・その後
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南船場ワークショップの報告

 

小浦

 ちょうど南船場の話も出ましたので、 次は藤川さんにお話いただきます。

 南船場は新しい街と言われていますが、 実際にはどんな動きがあって、 どんな街の姿が見えつつあるのでしょうか。 それではお願いします。

藤川敏行

 藤川です。 前回フォーラムで私が担当したワークショップでは、 南船場をフィールドとして「創る」という行為で都心に関わっている方々にいろんな意見を伺いました。

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南船場の位置
 そのワークショップの中で、 なぜ南船場をフィールドとして選んだのかと聞かれたときに、 「良い匂いのする街だと思った」と答えたのですが、 今回は一つその「街の匂い」というものをキーワードにしながら、 「都心」と「遺伝子」について考えてみたいと思います。


南船場の街の様子

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アマークドパラディ
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雨がかりを避けて
 6、 7年前に南船場のこのあたりの通りで最初に店ができ始めました。 他にも壁が後退しているところに客席を設けたりしている洒落た雰囲気の店があり、 若者が集まってきています。

 一方で、 実はこんなところに雨がかりを避けて人が住んでいます。 もしかすると新しく入ってきた人より長く住んでいらっしゃるのかもしれません。 アンテナが立っていて、 電線から電気まで引いてカラーテレビを見ておられるそうです。

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OLなどで賑わう平日の南船場
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若者でにぎわう休日の堀江
 南船場の平日はこんな感じで、 昼時になると私達を含めてOLやサラリーマンがランチを求めてうろうろしています。 気候も良くなってきたので、 ますます人も増えています。

 どちらかというと北から南へ人が流れているように感じます。

 逆に休日になるとサラリーマンがいないかわりに情報誌片手にうろうろしている若者を多く見かけます。

 この写真は実は堀江ですが、 南船場も同じで、 どちらも平日と休日の違いのある街です。

 その街が実は今、 北の方へとエリアをどんどん拡大しているのです。

 数年前までは北端と思われていたマンションのあたりまで新しい店がどんどんできはじめるという現象が、 ここ半年ほどの間に起こってきています。

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高速道路
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古いビルを使ったカフェ
 南船場をずっと上がっていくと、 中央大通りに高速道路が走っています。

 エリアとして、 この中央大通りと大きな構造物を超えて拡大していくのはなかなか難しいだろうと我々は思っていたのですが、 そんな事はなく、 これらを軽々と飛び越えてどんどんと店が北上していっています。

 例えば、 これはフォーラムにもご登場いただいた間宮さんが設計なさった店舗で本町のすぐ裏の方にあります。 古いビルを使ってこのようなお洒落なカフェにしたもので、 昼も夜も賑わっています。

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木造建築を利用した店舗
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同上
 実は北エリアは南船場と違って木造建築が多いらしく、 なかなか利用しにくいらしいのですが、 例えばこの写真の建物では1階部分に昔からの商店が残っているのですが、 二階を入れ子みたいな形で店にしています。

 この写真も同じく木造の店ですが、 壁一面をこのように可愛くしつらえています。

 他にも、 建物の瓦屋根の部分を囲って雰囲気を変えている店などもあり、 これらは全部南船場から北へ上がったあたりにあるものばかりです。

 このように木造の建物も非常にうまく使いながら店が北進しているようです。

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古いビルに入居した店舗
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1階が利用されるかもしれないビル
 この店自体はどこにでもある感じなのですが、 実はこういった古いビルの一階にうまく入っており、 窓などを見るとおよそ店らしくないのですが、 ビルの壁面にこのようなサインをかなり無理してつけているところなど、 主張している面白い建物だと思いました。

 これはまだ使われていない建物で、 現在は問屋さんの物置になっているようですが、 こんなビルがひょっとしたらまたお店に生まれ変わるかもしれません。

 先ほど休日の南船場エリアを見ていただきましたが、 実は休日の北側のエリアはほとんどの店が閉まっていて、 開いている店は2割くらいでした。

 やはり店の創り手は中央大通りを軽く飛び越えて元気いっぱいでも、 なかなか人がついて来ないという状況だと思います。

 それから最近は本町通り沿いにも雰囲気の良いお店ができていますし、 御堂筋沿いにもカフェやコーヒーショップ、 コンビニなどが沢山出店してきていますがが、 今まで紹介した店とちょっと違うのは、 建物に惚れ込んでつくったわけではなく、 どちらかというと家賃が下がったなどの立地条件によってできているようです。


良い匂いのする街

 さてこれから「良い匂いのする街」が一体どんな所なのかという話をしようと思います。

 「良い匂い」といっても、 創る人の感じる匂いや、 訪れたり食事したりする人の感じる匂い、 あるいは商売しているときの気分で感じる匂いなど、 いろいろあると思います。

 例えば、 創る人は街を徘徊して建物に惚れ込んでここにしようと決めるのでしょうが、 一方食事する人などは、 今日はちょっと豪華にしようとか、 今日は横丁で食べようとかいうふうに、 街を気分で使い分けていると思います。

 しかしワークショップのテーマが「創る」でしたので、 今回は「創り手」がどういうふうにその匂いを感じているのかということにポイントを絞って話したいと思います。

 何を感じて「創る」意欲が湧いてくるのかということについて「宝探し」「ハコがいい」といった意見がありました。

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階段でアプローチするバー
 「宝探し」についてですが、 先ほど出てきた高速の下にある不法占拠家屋のすぐ横に、 このような店があります。

 ここのマスターが店をやりはじめた5年前は、 ここは南船場の北端でこれ以上は全然店も無かったそうです。 なのにこういった鉄骨造の倉庫に使っていたような建物の、 しかも二階にバーを開いたのはなぜですかと尋ねると、 「この階段に惚れ込んだんだ」とおっしゃっていました。

 この人の感覚は僕に近いなと思います。 実は僕もこの階段が非常にいいと思って、 それからお店にも惹かれたのです。

 これについては賛否両論だと思います。 こんな所に人は来ないよ、 という意見もあると思うし、 これに良さを感じる人もいるかもしれません。

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倉庫を改造したカフェレストラン
 これも倉庫を改造して使っている店で、 もう5年目になります。

 こんな形で、 南船場というのは割と「ハコ」が良いという事で、 かなり爆発的に店が増えたという背景もあるようです。

 二つ目としては、 わかりづらい街や中身がわからない方がいい、 という意見があります。 これは「俺だけが知ってるんだぞ」という関西人独特の感覚かもしれませんが、 例えば看板が小さいとか、 さっきの階段を上って入る店のような「ここで何やっているんやろう」というような仕掛けがある街です。

 繁華街に繰り出して簡単に楽しめるのとは違った「上級者向けの街」だからこそ面白いというわけです。

 南船場は現在どんどんそのエリアを拡大していっていますが、 この街もそんな「わかりづらいけど面白い」といった感覚で人気があるのかなと感じました。

 それから「動きのある街」とか「変化する街」が良いといった話がありました。

 常にどこかで何かが起こっているので非常に魅力的だとか、 そこからさらに感覚が刺激されて動きが起こるといった良い循環ができているのだと思います。

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新しい店がどんどん開店
 これは南船場のど真ん中にあって周りが立体駐車場ばかりの中、 取り残されているかなり小さなペンシルビルです。 普通なら取り壊して一体として大きなものをつくろうというのが良くある話でしょうが、 そんなことは全く考えないで、 また新しい店を開く工事をしていました。 南船場というのはそんなパワーのある街だという気がします。

 それと、 これは皆さんからわかりづらいといわれたのですが「手のかかるやっかいさ加減」というのがあります。

 私は不便のない街というのは面白くないと思っていまして、 初めて来て「わあ、 こんなとこあったんや」という面白さというのは、 やはり何かしらの不便がないと感じられないのではないかと考えています。


街を感じる遺伝子

 少し話が変わりますが、 早稲田大学人間科学部の山元大輔教授が「恋愛遺伝子」という本を書いておられます。 要は男女間では匂いによって相性が決まり、 その匂いの好き嫌いというのは遺伝子の働きによるのだという話で、 非常に面白いと思いました。

 実はこれはフェロモンの作用で、 要はフェロモンの違いというのが遺伝子の違いでできているというわけです。

 人は無意識にフェロモンの匂いに反応して恋心が芽生えるそうです。 またフェロモンは、 女性同士なら匂いを認識できる大脳新皮質に働きかけるらしいのですが、 相手が異性の場合は直接視床下部に働きかけ、 本能の中枢にダイレクトに届くのだそうです。

 要するに、 女性が男性にフェロモンを出すと男性はなぜかしら惚れてしまう。 しかし女性は認識できるので「あ、 この人はフェロモン出してるな」というのがわかるのだそうです。

 この「異性」というのを「街」に置き換えると、 「良い匂いのする街」というのが、 少しわかりかけたような気がします。

 「良い匂いの街」というのにどんな遺伝子があるのかというと、 先ほど「わかりづらい街の方が面白い」という話をしましたが、 純粋な遺伝子だけで街ができていたら多分テーマパークみたいになってしまうという話がフォーラムでもありました。

 役に立たないジャンクな遺伝子というのも実は必要で、 それが作用して多様な街を生みだし、 いろんな人が集まる面白い街になっているのだという事です。

 そういうものが排除されていくと、 どんどんテーマパークに近づいて個性が無くなってハード優先になったり、 あるいは個性やテイストが似通って同じような人ばかりが集まっている没個性化した街になっていくというような話でした。

 「創る」という行為に関して「遺伝子」についてや「どのように惚れ込むか」といった話をさせていただきましたが、 多分賛否両論、 いろんな意見があると思います。 「恋愛遺伝子」の話からも個人によって好き嫌いがあり、 良い匂いに感じる人もいればそうでない人もいるという事がわかったと思います。

 逆に言うと10割が「この街良いね」という街は問題外で、 7割が良いねという街よりは3割しか支持しない街の方が実は面白いのではないか、 という感じがしています。 3割だと過半数に達していないのですが、 街に関してはそのくらいでいいのではないでしょうか。

 今日の話を聞いても3割くらいの人が「なんとなくわかった気がするな」と思うでしょうが、 7割くらいの人は「なんや、 ようわからん」と思ってらっしゃるのではないでしょうか(笑)。 でもわからなかった7割のうちのさらに3割くらいの人は、 後で議論していくうちにわかってくるかもしれない。 7割と3割を乗じて21%、 これと最初の3割を足すと51% と過半数になります(笑)。

 ということで、 こういう議論も街もそのような感覚で良いのではないかなと申し上げて終わらせていただきます。

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