奇跡の星の植物館とまちづくり
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植物園の歴史

 

辻本

 今日は「奇跡の星の植物館と花のまちづく」というタイトルでお話しさせていただきます。

 都市計画をされている方は、奇跡の星の植物館に限らず、植物園がまちづくりに役立つと思っておられないと思います。ただの見世物小屋のひとつとして認識されているのではないでしょうか。今日は、そうではなくて植物館はまちづくりの鍵であるということをお話ししたいと思います。

 2007年のJUDIフォーラムでは、私があちこちの町で、実際に行った花のまちづくりの事例を紹介しました。それは実践編のようなものでしたが、今日はもっと植物園について基本的な内容から、お勉強していただきたいと思います。


植物館の歴史と現在

ヨーロッパの植物園の歴史
 これは植物園の歴史を振り返ってみたいと思います。

1) 食糧としての植物を収集保存する。

 人間は地球上に生まれてきて食糧を得ようと植物を集めました。中国では紀元前2500年頃、神農が有用植物を収集栽培したと言われています。また、アレクサンダー大王も紀元前310年、征服した地からバナナ、ニンニク等有用植物を持ち帰りました。これらを植物学的に整理したのがアレキサンダー大王の家庭教師であったといわれるアリストテレスです。

2)薬を収集保存する。

 ヨーロッパの歴史の中では、薬用植物だけを集めたのは、13世紀、ローマ法王がバチカンの薬草植物園を作ります。16世紀頃には修道院に薬草園が作られるようになりました。

3)教育機関。

 13世紀、ローマ大学で植物学の授業が始まるという動きがやっとでてきました。16世紀なかば、大学医学部とは別に植物学が体系付けられます。

4)遺伝資源収集。

 ヨーロッパは氷河期に多く植物を無くし植物相が乏しいことから、大航海時代以降、18世紀になるとアジアなど他の地域の豊富な植物をどんどん収集保存する植物園を作り始めました。有名なキュー植物園もこのころできたものです。

 このようなヨーロッパの歴史をみていくと、18世紀までの植物園は基本的に医学、食料、有用植物のジーンバンクとしての機能を持ち、国の経済戦略のために植物を集めていたことがわかります。

5)観賞用施設としての植物園。

 産業革命後、1851年世界初の博覧会で鉄とガラスで作られたクリスタルパレスが登場し、キュー植物園にも海外の珍しい植物を見せる観賞型温室が作られるようになりました。

6)交流型。

 その後アメリカのロングウッドガーデンのように、フラワーショーを行ったり、美しい庭園をもつ観賞型の植物園が登場してきました。そして、そこではパーティーや結婚式が行われる交流型の植物園が生まれました。

現在の植物園のタイプ
 このようにヨーロッパの植物園の歴史をみると、植物園はGene Bank(遺伝子銀行)であり、経済的視点から植物収集を行ってきたものが主流でした。しかし、18世紀や19世紀になると、珍しい植物を「観賞」したり、植物に囲まれた空間で人々が憩う「交流の場」としての機能をもつように変わってきました。

 20世紀後半より植物園は社会状況の変化により、その内容がさらに分化していきます最近の主要なタイプをあげると次のとおりです。

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 「健康型」植物園は高齢化の進展、バリアフリー化に伴い、80年代にはアメリカで「バリアフリーガーデン」「園芸療法ガーデン」を展開してきました。

 「遺伝子源収集Gene Bank型」は地球環境の悪化により地球脱出を視野に入れ80年代後半「宇宙開発型」を展開しました。アメリカでは1980年代に、宇宙において地球と同じ環境を保つために必要な植物と4組の男女8人をミニ地球に入れ生活させた「バイオスフェア2」が作られました。最近は、イギリスでエデンプロジェクトという地球を再現した「環境教育実験型植物園」がオープンしました。


海外の植物館の機能―事例

 「遺伝資源保存型」のイギリスのキュー植物園では、ジーンバンクとして「情報収集機能」「研究機能」、キュレーターを養成する「教育機能」だけでなく、「観賞機能」ショップ、レストランなど「サービス機能」持っています。「遺伝資源収集保存・環境教育型」のシドニーの植物園では、6000万年前に切り離されたというオーストラリア大陸の特殊な遺伝資源を市民「参加」で収集保存するとともに、またその環境を守るための子供への「環境教育」に重点が置かれています。

 そして「遺伝資源収集保存・産業振興・まちづくり型」のニューヨーク市立植物園はもっと実践的です。薬品会社や食品会社と協力して「研究開発」を行い、植物園を運営していくための資金調達も行っています。大学院と言う「教育機能」、ニューヨーク市の街路樹等の「緑のコンサルテイング」もしています。また同じニューヨーク市でもブルックリン植物園は「参加型植物園」の代表と言えます。「研究機能」を持ち、地域への「緑化指導」も行います。それに加え、世界で最初のチルドレンガーデンをつくり、大都市に生活する子供に「環境教育」を行っています。また、ここはボランテイア活動がアメリカでもっとも盛んな「参加型植物園」で、ボランティアが主体的に植物園運営を行っています。

 エプコットはディズニーワールドの中にある施設で「エンターテイメント機能」を持ち、また、フロリダ大学とアリゾナ大学の研究所がパビリオンの中にあり、宇宙の農業を展示として見せる「研究機能」を持っています。ディズニーの施設であるけれども、大学の研究室でもあるのです。

 ロングウッドガーデンでは、「観賞型」、「エンターテイメント型」のショースペースですが、園芸専門学校や大学院としての「専門教育機能」も持っています。ナイアガラ公園(カナダ・オンタリオ)は世界有数の観光地で、「レクリエーション機能・エンターテイメント機能」をもつ公園です。ナイアガラ公園協会は3年制の園芸学校を持ち、ここは淡路景観園芸学校のモデルにもなっています。単なる園芸の技術者教育と言うよりは、カナダの公園管理技術リーダーを育てる「専門教育機能」も持ちます。

 このように外国の植物園は社会貢献施設として、観賞・レクリエーション機能だけでなく、参加や研究、教育等の機能が必ず入っていることがわかります。


日本の植物館の機能

1)珍種植物の見世物小屋から研究型植物園への展開
 日本で最初にできた植物園は、江戸時代、徳川幕府が作った「小石川御薬園」。8代将軍徳川吉宗の時代には「養生所(あるいは施療院ともいう)」が設けられました。これは明治になり、東京大学附属植物園となります。一般に開放されていませんが、「遺伝資源収集保存機能」「専門教育機能」をもつ施設と言えます。

 しかし、一般の人々に開放され、西洋化の象徴として生まれた植物園は大正6年に開園した「大典記念京都植物園」、現在の京都府立植物園です。国家戦略として植物収集が行われてきた欧米とは違って、日本では「パーク&レクリエーション機能」の一つとして植物園が創られました。そのため公園との違いが明確でない、研究・教育機能を持たないものになりました。

 失礼な言い方かもしれないですが、昔は、日本の植物園といえば動物園のように見世物小屋的観賞施設でした。パンダがやってくるように、サボテンがあるとかバオバブがあるといった、見世物小屋的要素がないと人が来てくれないため、3年に一度くらい、新しい植物を購入しなければいけなかったのです。

 近年、公共施設の指定管理者制度も始まり、珍種植物を売り物にしてきた大きな植物園も、社会貢献や経済性を考えねばならなくなり、地球環境の悪化も伴い研究型植物園を目指している所が多くなりました。研究型の高知県立牧野植物園は、ニューヨーク市立植物園に勤務されていた小山先生が園長をされていることから、有用植物の「遺伝資源収集保存機能」を高め、科技庁や薬品会社の委託研究、カンナ酒等の地域の特産物の開発など、「環境保全」のための研究だけでなく「産業振興」「産業創出」に貢献しています。また有用植物の遺伝資源の収集のため、ミヤンマー、ソロモン等に植物収集に行く等、非常にアメリカ・ヨーロッパに近い植物園の形態をとっています。

2)フラワーパーク型・ライフスタイル提案型・参加型植物園の誕生
 大阪花の万博(1990年)の開催、バブル景気により豊かさが実感される時代を迎え、花き振興のために作られたフラワーセンターも民有地緑化をすすめるために作られた緑化植物園も、また、熱帯温室で珍種植物をコレクションする従来型の植物園も花をテーマとする観賞型の「フラワーパーク型」になっていきました。

 花の植物館の誕生、大阪花の万博開催から、まちづくりにおける「花の役割」に対する認識が急速に変わってきました。花を使えば人が集まるという認識になり、1990年以降、行政は住民参加の花のまちづくりを積極的にすすめ、全国にたくさんの花緑施設が生まれました。

 1995年に私が設計に関わった春日井都市緑化植物園「花と緑の休憩所」もそのひとつです。ここでのは、花の好きのボランテイアたちが、月に一度デザインや植物について学習および花修景施工作業を行い、日々の日常管理はボランテイアが行います。園芸、地域の読み取り方などを含めたまちづくりの授業を受けたボランテイアは、駅、病院、学校、市街地空地などの公共スペース場で緑化活動を展開し、共生のまちづくりをすすめます。きれいな花やライフスタイルの提案を見て感動した市民は、自らのライフスタイルを変えて、自然・生活環境まちづくりへの関心を高め、個人として共生のまちづくりに参加していくという場合もあります。つまり、植物園が「まちづくりインキュベーター」となっているのです。

 それに比較し、園芸振興目的でつくられたフラワーセンターは農林水産省の花き振興も終わり、現在多くの施設は目標を見失っている状態です。


花と緑の7恵

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 植物は私たちの社会波及効果をもたらしています。それを私は「花と緑の7恵」と呼びます。植物は基本的にはきれいだと「感動」を与えるものです。そして、人間は感動がないと生きていけません。そして人々が感動を分かち合うことで、「交流」が生まれるのです。植物は薬、食物として「健康効果」もありますし、環境浄化や環境緩和などの「環境効果」もあります。また植物を育てることには「教育効果」があります。そして「研究開発効果」。バイオテクノロジーだけでなく、昔の建築デザイン、例えば、世界で最初の温室建築であるクリスタルパレスの屋根構造は、40kgぐらいの重さの子供を葉っぱの上に乗せることができるオオオニバスの葉脈の構造に学んだのです。植物をじっと眺めることは「研究開発」につながるのです。そして、花は花その物として「経済効果」も持ちます。

 これらの7つの効果があれば、まちづくりは上手くいきます。花緑はまちづくりの「鍵」というのはこの点です。

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