ランドスケープ・デザインの現在
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風景の造景作法

 

■1)つなぐ/境界を消す、中間領域、完結しないで連続〜「曖昧性」

 桂離宮に行くと素晴らしい例を見ることが出来ますが、「曖昧性」も造園の手法としてよく使われる言葉です。境界を消す、中間領域、完結しないで連続させるなどの手法です。

 ここではその実例を写真で紹介していきます。

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京都・碧雲荘
 小川治兵衛が作庭した「碧雲荘」の建物入り口部分です。こういう大胆な形で、外部と内部をシンプルな岩だけでつないでいます。

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大阪天王寺・タワーレジデンス
 今までとは少し考え方が違いますが、外部の自然を何とか内部のロビー空間に取り込みたいという思いで、水面をロビー空間に入れました。もちろん水自体は外とつながっているわけではありませんが、イメージ的につなぎたいと思ってデザインした例です。

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東京・衆議院議長公邸
 衆議院議長公邸の庭です。写真右側部分が洋風の庭、左側が和風の庭になっていまして、それらをつなげるために石の透廊としてデザインしました。佐々木葉二のデザインです。

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HAT神戸・灘の浜
 神戸の震災復興事業で建設されたHAT神戸・灘の浜です。ここでは、3つの空間について、「つなげる」というテーマでデザインしています。中央の「灘の浜モール」エリア、外部の歩道と敷地との境界領域、中庭空間の3つの空間です。

 特に中庭では、ここから外部空間にも避難できるような道を、内外を貫通する形で、デザインしています。

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HAT神戸・灘の浜・モール
 ここにはポルティコというアーケードのような空間が両サイドにあり、真ん中がパブリックスペースになっています。ただ、このパブリックスペース(モール)は管理車輌だけが通行する空間でしたが、セミパブリック・中間領域のような空間が必要でした。そこで、ポルティコとモールをうまくつなげるためにベンチを置いて滞留スペースを作っています。

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HAT神戸・灘の浜・街路
 ここでは街路と歩道との境界領域をデザインしました。写真に見える白い線、本当はこれをなくしたかったのですが、これが官民境界線です。左側がパブリックな街路空間で、右側が敷地内ということになります。

 しかし、この官民境界線をなるべく目立たせたくなかったので、マウンドを造ったり、街路の舗装を中に引き込んだりといった工夫をしました。

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HAT神戸・灘の浜・中庭
 写真に見える白い直線の道が、灘の浜モールや歩道につながっていく道です。それを中庭に貫入させていることで、内部と外部をつなごうとしました。

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大阪・南桜塚レジデンス
 ここは囲い込み型の住棟になっています。北に車のロータリーがあり、そこが敷地との境界になっています。プライベートガーデンが住棟で囲まれていて、回廊で仕切られていますから一般の人は中に入れません。そこで、敷地と外をつなげる工夫をしてみました。

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南桜塚レジデンス・夜の光景
 外と中を光でつなぐというデザインです。1本の光のラインを床に埋め込んでいます。

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南桜塚レジデンス・ロータリー側から
 ロータリー側から見た夜の光景です。回廊のガラスの壁の向こうにプライベートガーデンがあるのですが、それを透かして見せる、中には入れないんだけど光でつなぐという工夫をしてみました。

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東京・赤坂タワーレジデンス
 左がエントランスになりますが、ここを入ると大きな細長いロビーとラウンジ空間があります。南側には細い通路があり、その隣地が別のオフィスになっています。

 ここの設計では、ロビーと外部のスペースをどうつなげるか、また東側のパブリックスペース(公開空地)とプライベートをどうつなぎ、どう区分するかを考えながらデザインしていきました。

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赤坂タワーレジデンス・東側パブリックスペース
 ここには大きな池があり、一般の人も入れるパブリックスペースになっています。池の向こう側にも別のタワーマンションがそびえています。外部からサブ・エントランスが伸びています。そことマンションをつなぐ道を強引に池の中に通すことによって、パブリック空間とセミパブリック空間を「つなぐ」というデザインです。

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赤坂タワーレジデンス・南側通路
 南側にある細い通路です。写真では暗くなっている左部分がロビーです。ロビーの床と外部通路を一体的に扱って、通路もロビーの一部に見えるようなデザインにしています。

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赤坂タワーレジデンス・ロビー
 これは、内側のロビーから外側を見た光景です。


■2)透ける/視線を隠しながら向こうの風景を見せる〜「垣間見せる」「曖昧性」

 ここでも「曖昧」という言葉がキーワードとなっています。桂離宮「笑意軒」にも素晴らしい例があります。

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埼玉県・けやき広場
 建物の中から外を見ている写真です。このようなガラスのデザインもしました。

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北大阪・レジデンス
 これは、竹林で透かすという手法です。

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北大阪・レジデンス
 住区の中庭の中に、アプローチの回廊があります。ここでは防風機能を持ったウォールが必要でしたが、それを透かせて見せるというデザインにしています。


■3)隔てる/空間領域を仕切り、視線を防ぐ〜「囲い」「結界」

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京都・桂離宮
 桂離宮の穂垣です。

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京都・桂離宮
 こちらは桂川沿いにある笹垣です。余談になりますが、この笹垣は笹垣の上に見える伐採していない生きている竹から、枝をぐぐっと手前に寄せて生垣を作っていることで有名です。

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大阪府吹田・JR吹田駅
 これはJR吹田駅南口の線路際に作った壁です。レールの古材を利用して、透かしながら隠すという手法をとりました。

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東京・桜堤レジデンス
 レジデンスの中の庭空間です。こういう黄色い壁で庭空間を分節化しています。

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東京・赤坂タワーレジデンス
 図のようにマウンド、池を作り、外部からの視線が直接レジデンスのラウンジに向かないよう工夫しました。逆にラウンジからもマウンドで囲まれ守られたプライベート空間をつくる役割を果たしています。

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 マウンドと池です。

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大阪天王寺・タワーレジデンス
 ここでは住棟の回りをずっとマウンドで囲い込んでいます。パブリックな街路の喧噪をマウンドと水面で防ぎ、住空間の静けさを守っています。

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大阪上本町・タワーレジデンス
 これも同様に住棟の回りをずっとマウンドでカバーして、中に水面、それからロビー空間になるという構成です。いわゆる邸宅のような構成で、タワーマンションではあるのですが昔ながらの邸宅の静けさを生垣に代わってマウンドで守っているというやり方です。

 1階部分にラウンジのような居住者用の空間があると、どうしてもこういう手法をとることになります。逆に1階が店舗などの商業施設であれば、ここはオープンなスペースにすることができるので、1階の内容によって風景が変わってくると思います。

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 街路から見たマンションの風景で、マウンドで守られていることがお分かりかと思います。

 実はここは公開空地です。そのような所に一般の人が入れない池やマウンドを作っていいのかという議論もあるのですが、何とか行政的に認めていただいて出来上がった空間です。

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札幌幌北・公営住宅
 この事例は「結界」という要素に関係してきますが、公営住宅の入口部分です。公営住宅は一般の人も自由に中に入れる空間ですが、この住宅の門構えとしてこのような結界を表現してみました。


■4)道行き/空間の見え隠れ、シークエンス景観〜「折れ曲がり」「雁行」「奥性」

 これについては、たくさんの要素があるのですが、時間の都合もあるので「道行き」という言葉でまとめてみました。日本庭園で言うと回遊式庭園がこの道行きの代表的な庭園手法になるかと思います。

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京都・桂離宮
 御幸門を入って進んでいくと、このような衝立松が見えてきます。向こうの風景を隠しながら先へは行かせないという構造です。

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京都・修学院離宮
 ここは上の茶屋へ向かう階段です。奥へ奥へと引き込まれていくようなデザインがされています。

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京都・修学院離宮
 こちらは下の茶屋です。建物の庭と向こうの風景を飛び石と道のデザインでうまくつないでいます。

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京都・詩仙堂
 これは詩仙堂の入り口部分です。

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東京・六本木ヒルズ
 ここは、けやき坂コンプレックスという劇場が下にある建物の屋上部分です。この屋上庭園の最初のアプローチをモミジの路地として創りました。「秋路地」という名前です。

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東京・赤坂タワーレジデンス
 南側の通路部分です。「竹の透き廊」とネーミングしていますが、竹でつくった路地空間です。

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東京・赤坂タワーレジデンス
 同じタワーレジデンスです。赤い矢印は、この敷地内での回遊性をもたらそうとした部分です。入口部分から引き込まれるような曲線の道が始まっています。

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 その曲線の道を歩くことで、いろんな風景が見えてくる様子です。さらに進んだ所で振り返ると、それまでとはまた別の風景が見えてくるようになっています。最先端の所まで来て階段を下り、振り返ると「赤坂どんどん」の滝が見えるというストーリーです。

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東京・六本木ヒルズ・けやき坂コンプレックス屋上庭園
 ここの屋上庭園には、4つの路地を作っています。それが「秋路地」「春路地」「夏路地」「冬路地」です。中央はゲストガーデンになっています。茶席もできるような芝生やデッキもあるのですが、なんと言っても目玉は田んぼとキッチンガーデンを作ったことです。エレベータから出ると階段を上って屋上庭園に出ます。

 ここでは、グリーンダンパーという特殊な装置を使用して、屋上と下の建物をつなげています。荷重をかけることによって免震機能を確保したということです。

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 秋路地、桜の春路地を通り過ぎると、突き当たりにパントリーがあります。パントリーから左に折れるとサルスベリの咲く夏路地があり、池の風景が広がります。最後の冬路地では日本的な要素を取り入れています。

 ここでは、四季の回遊性を演出しています。


■5)生けどる/見せたい風景を切り取る、景の広がりを連想させる〜「借景」

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京都・円通寺
 比叡山を借景としたことで有名な庭園です。

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京都・無鄰庵
 ここも小川治兵衛が手がけた庭です。東山を借景として活用したと言われております。

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京都・碧雲荘
 同じく小川治兵衛による碧雲荘です。東山の山と緑を借景に庭に取り込んで、かなり雄大な庭を作っています。

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広島・基町クレド
 ここは広島市にある複合商業施設の6階にある屋上庭園です。ここに4本の柱を立てたモニュメントを置き、そこから広島城と対峙するような配置となっています。ですから、広島城を生けどったというデザインになります。

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北海道・長沼町コミュニティ公園
 公園の一角にオートキャンプ場のデザインをしたものです。回りには牧草地が広がっている所で、その牧草地に溶け込むような形でデザインできないかと考えて作ったものです。本当にどこからがキャンプ場でどこからが牧草地か、境界が分からないような風景となっています。

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 パブリックスペースです。背後の緑を借景として取り込んでいます。

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京都・同志社大学寒梅館
 寒梅館の屋上です。ここは本当に何もしなくて芝生だけのスペースなのですが、その中に唯一5本の軸線を配置しています。その視線をずっと向こうに走らせると、遠方に見える送り火の五山とつながって見ることができます。

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京都・造形芸術大学
 これは、隈研吾さんが設計し、最近竣工した造形芸術大学の学生会館です。その屋上部分を手がけました。上から見ると、結果的に京都の市街地を借景にしたと言えると思います。ただし、これは最初から意図したものではありません。

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兵庫県西宮・阪急西宮ガーデンズ
 ここは阪急西宮ガーデンズの4階にある屋上庭園です。竹中工務店さんとの共同設計です。私どもで基本デザインを手がけ、竹中さんの方で実施設計・施工をされました。

 ここでは大きな丘を作り、その背後に市街地や六甲の山並みが見えるようにしました。

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 ただし、アイレベルでは、この庭園からは市街地が消されているんですね。近傍にある市街地を消して、囲われた空間を作りたいという希望が当初ありました。しかし、丘に少し上がると、六甲山や甲山が借景となって屋上庭園と一体化していくというデザインです。


■6)見立てる/抽象化された風景〜「連想性」

 ご存知のように竜安寺のお庭は、見立ての代表的な事例ですが、「見立てる」というやり方は私たち日本人が好きな手法でしょうか、けっこう見かけます。

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東京・衆議院議長公邸
 議長公邸の庭園です。白く見える部分を海に見立てて、そこに松林の半島が突き出ているというデザインです。

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名古屋・八事山興正寺
 興正寺の中庭です。ここでも、敷き詰められた白砂に石の棒材を入れて、少し抽象化された荒磯の風景に見立てています。

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 瓦を使って、波のような表現をしています。

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広島・基町クレド
 ここは1階部分です。広島は海にも近い水の都ですから、ここでもそんなイメージを表現できないかという要請があり、こういう波のパターンを床に埋め込みました。

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広島・基町クレド
 先ほど紹介した基町クレド6階の屋上庭園です。この空間は、峠の茶屋のイメージで作られています。

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名古屋・法王町レジデンス
 住宅の中の空間に、遊びで波のパターンを入れた事例です。

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東京・NTT武蔵野研究センタ
 NTT武蔵野研究センタの前庭です。佐々木葉二はここを「田園風景に見立てた」と言っておりました。

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東京・NTT武蔵野研究センタ
 こういうデザインを各所でしております。

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東京・桜堤レジデンス
 緑を入れた荒磯のデザインも、レジデンスの中に取り入れています。

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東京・桜堤レジデンス
 植栽が出来ない箇所には、このように枯山水風のデザインを施しました。

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東京・赤坂タワーレジデンス
 エントランス部分です。ここでは、空間を大きな花器に見立ててそこに紅葉を数本入れて、まるで床の間の上に水鉢があるようなデザインにしています。


■7)くずす、ずらす/自然な調和形〜「非対称」「隅掛け」

 日本の中では対称形のデザインは多くなくて、ほとんどが非対称と言っていいでしょう。そういう事例を紹介します。

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東京・住友不動産三田ツインビル西館
 これは日建設計さんの仕事です。エントランスを入ると、直線軸はあるのですが、右と左で樹木の形や位置が異なっています。これは意図的に非対称のデザインをされたと思います。

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東京・汐留住友ビル
 ここは竹中工務店さんの設計です。写真では分かりにくいのですが、庭の道を雁行させながら左右非対称な形でデザインされています。

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東京・書斎館
 万年筆ショップのエントランスです。入口を正面から入るのではなく、あえて雁行させて横から入っていくという形にデザインしています。

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東京・NTT武蔵野研究センタ
 メインのアプローチ部分を斜めにどんと入れることによって、対称性をくずしています。

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東京・六本木ヒルズ屋上庭園
 これも対称性をくずしながらデザインしている事例です。

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東京・六本木ヒルズ66プラザ
 ここは六本木ヒルズの66プラザのメインエントランスに入っていく部分です。そこをわざと雁行させて、左右非対称の中を通りながらオフィスに入っていくというデザインにしています。


■8)間を置く/余白の美学、時間的・空間的空白〜「間・ま」

 よく聞く言葉なのですが、実はあまり事例が多くないのです。

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京都・建仁寺
 昔の事例ですが、京都の建仁寺、枯山水の庭です。

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京都・東福寺
 京都・東福寺にもこのような、白砂だけの庭があります。この周辺には山や緑があり、その中でぽっかりと間を置くというデザインになっています。

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大阪・南桜塚レジデンス
 南桜塚レジデンスの中庭です。ここでも、間を置くというデザインをしたつもりです。

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名古屋・八事寺興正寺
 ここでは時々イベントがありますので、写真の空間はそのための観客席になります。空間的に何もできないのなら、オープンにして、何もない間を置くというデザインをいたしました。

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