ランドスケープ・デザインの現在
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事例(2) みんな集まれ南山探検隊!

 

■ワークショップ

 次の事例は、兵庫県の東条町(現加東市)です。のどかな田園風景が広がる地域ですが、ここには当時都市公園がなく、そこに新しい公園を作ろうというときに、誰でも参加できる組織を作って公園づくりを進めていこうとしたことがプログラムの重点となりました。

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南山探検隊の人々
 
 どういった組織を作ったかですが、この地域は3世代居住が多いことから、3世代が参加できる地域学校のような組織にしようと思いました。この参加型の公園づくりをする組織は、「南山探検隊」と名付けられました。また、この探検隊では総合学習や生涯学習、青空教室、南山の環境学習ができるような組織にしようと思いました。

 ここには誰でもが入れるようにしました。大人だけでなく子ども、近くにある兵庫教育大の学生さん、仕事を終えたシルバー世代など幅広い方々に参加してもらおうと思いました。

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1年をかけた南山探検隊の活動
 
 このワークショップは、公園が出来るまでのプロセスをみなさんで体験していただく、いわば公園の先取りをするという内容で、1年をかけて行いました。春夏秋冬の季節ごとにいろんな体験をして公園の可能性を探っていったということです。春は東条町の主要産業である鯉のぼりづくりをし、夏は地元の生物の先生に講師になってもらって自然環境を観察、秋は町の花であるコスモスの企画、冬は兵庫教育大の自然クラブの学生さんにきてもらって「エコなゴミ拾い」という企画をしてもらいました。

 なぜ、兵庫教育大の学生さんたちがこのワークショップに関わったかと言うと、当時の東条町の担当の方がいきなり軽いフットワークで大学に出かけ、自然クラブの部長さんを引っ張ってきてくれたのですね。このぐらいフットワークの軽い行政担当者がいますと、プロジェクトが活気づき、活動が前進していくということを体験いたしました。

 その間、私たちはプランニングを別途進めていきました。


■プランニング

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プランニング全体図
 
 以上の活動をどうやって空間にしていくかですが、公園の敷地は図のような形になっています。対象の公園は赤枠で囲った1.8ヘクタールの近隣公園です。それに隣接して調整池があります。このような立地の中、公園だけを考えるのではなく、隣接の調整池、その周りに残っている現況の森、地域に点在してつながっているため池、その向こうに見える町の景観が続いていますので、みなさんが公園にイメージされていることをプランに落とし込んでいくと同時に、眺望点が重要だということが見えてきました。

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公園プラン図
 
 町のみなさんが公園にすごく期待されていたのは遊具でした。ただ広いだけの場所だったらいくらでもあるんだよという土地ですから、公園というイメージ=遊具という期待は強いものがありました。ですから、誰でもが遊べるようなユニバーサル的な遊具を作るという設計課題が一つ目にありました。

 それとネックになっていたのが、公園内の現況林と多目的広場との間に10メートルの高低差があったことです。「埋めてしまって広場と一体的にしたらどうですか」というアドバイスもいただいたのですが、しかし、一方で南山探検隊の活動もありましたので「現況林との高低差があることで、この組織が育つきっかけになるのでは」と活かすように私たちから働きかけて、現状の地形を守っていこうということになりました。

 ですから、この公園は二段構えになっているのですが、遊具でつながっているという構造になっています。それから、眺望点も作り、こいのぼり広場にみんなで作った鯉のぼりを上げました。

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公園の外周
 
 公園のポイントとして、公園の外周をどうするかということがありました。「花の散歩道」が延長200メートルぐらいありますが、その散歩道をどうやって作っていくかがこの公園の重要なポイントになってくるだろうと考えていました。

 敷地は、道路と接する面が長いので、やはり歩道と公園との境界をどう作るかを考えました。そこで公園側に1メートルセットバックしまして、歩道空間を豊かにすることを提案しました。公園側は1メートル分面積が少なくなりますが、歩道を歩く空間が公園と一体化されて共有できれば、公園にとっても歩く人にとってもプラスの効果があるのではないかと思ったのです。

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公園の外周
 
 公園側は緩やかな築山にして、公園と町が物理的には境界があるけど視覚的には仕切らないという形にして共有空間を作り上げました。

 その空間を作るためにコスモスを植えるというプログラムを企画したり、みなさんと一緒に作った陶板を上の写真のベンチにはめ込んでいます。ベンチは照明灯と一体的に見せています。


■開園後に向けて

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管理棟
 
 二つ目に重要なポイントが管理棟です。公園はこの町に初めてできるものですから、南山に管理棟を作ることになりました。この管理棟は、公園のゆったりトイレと一体化した施設になっています。

 この管理棟が、今後の公園の活動拠点になっていくだろうと思いましたので、ここにみんなの手づくりの何かを持ち込みたいと思って鯉のぼりをモチーフにした陶板作りを行いました。

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名前を付ける
 
 また、私たちは公園づくりの時によくやるプログラムなのですが、公園に名前を付けようという催しをいたしました。公園の名前を考えることは町の未来を考えることとつながってくるものなんです。

 公園の名前を広報誌で募集したところ、150もの案が集まりました。みなさんが寄せてくれた案には、拾い上げられそうな要素がいっぱいありました。みなさんが思い描く公園の姿が名前を付けることによって、とても鮮明になってきました。例えば、地名や町名を大切にしたいという考え、コスモスなどの花や木、鯉のぼりなど地場産業を考えたもの、森や水につながってくるもの、仲間たちとの集いの場、自然、憩い、夢、幸福、環境、活動、未来といった要素が見えてきました。自然や憩いのイメージだと「大空散歩公園」という名前だとか。1人1人の思いが、公園の名前に濃縮されていました。

 集まった名前を人気投票で選び、名前を公園に付けるときに、子どもたちが地域のアーティストにお願いして陶板に焼き付けていただきました。

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公園内の施設
 
 公園内にはその他、こいのぼり広場、ユニバーサル遊具、水辺のテラスなどの施設があります。写真は公園の開園式の模様です。地域のブラスバンドが来てくれて、みんなでコンサートを聞いているところです。

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花や緑と親しむ
 
 あと、これは重要だと思って施設化していったものに、花や緑と親しむということがあります。地域の方は農作業はされても、園芸的な楽しみというつながりはなくて、自分たちもガーデニングをしてみたいと思われていたようなんです。また、子どもたちもワークショップに参加するまでは、学校の先生から「自然の中にはあまり行かないように」と言われていたようです。ですから、みなさんに公園の土に親しんでもらえる施設が必要かなと考えました。

 ここでは、ベンチを花壇にしたフラワーベンチとか、ユニバーサル的な花壇を作っています。公園の中にできる一部の造成法面については、「家族の木を植えましょう」と提案して家族の名前を名札にした苗木を植えています(左の写真)。こうすることで、ここの森がみんなの森になっていくようにプログラムをつくりました。

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南山探検隊記念撮影!
 
 最後は、記念撮影で締めくくりました。南山探検隊はこの後も兵庫県の助成をもらいながら公園を主体にした活動を続けられているようで、今年は夏祭りを開催したということも聞きました。

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