南芦屋浜
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南芦屋浜団地について


場所柄

画像ho012 改行マーク次に、 南芦屋浜団地です。 場所は南側の埋立地の色が塗ってあるところになります。 JRの芦屋駅が真ん中あたりで、 西の端が芦屋川、 真ん中に宮川が流れています。 南芦屋浜はアステムの高層団地の南側になります。 広大な埋め立てがほぼ終わっていたという場所です。 今は、 南芦屋浜団地以外はほとんど更地ですが、 南側のマリーナは既にかなりしっかりできております。 今の時代だと難しいかもしれませんが、 なかなか魅力的で広大な環境の資産がつくられている場所です。

画像ho013 改行マークあくまでまっさらな更地ですので、 周辺の環境なんかは簡単にいえばありません。 それでも、 その場所の意味を、 かなり広域から敷地の内外に向けて、 構想していくということからはじめました。 芦屋の構造はそう簡単には語れませんが、 ごく簡単に言えば六甲山の方から宮川沿いにまちの軸が流れています。 ちょうど今回計画した敷地が宮川のつきあたったところにありますから、 川に架かっている橋から海側を見ますと、 湾岸道路沿いに団地のスカイラインが見えるということです。

画像ho014 改行マークこれが、 南芦屋浜の全体の埋立地の図です。 宮川の軸が行き着いたところで、 かなり集落的に配置するという方法もあれば、 一番シンボリックな場所にかなり明快な配置をするというようなことも、 場所の構想の仕方によってはあるのかもしれません。

改行マーク団地の配置で考えたことは、 まず、 全ての住戸からこのマリーナとか海の方が見渡せるということです。 普通にやると2列の平行配置になってしまうのですが、 そうすると、 後ろ側の人は、 眺望が何もありませんし、 空地自身もほとんど終日日影に近いような団地内広場になってしまいます。 それを、 どうしようかというところから配置計画が始まったわけです。


基本テーマ

画像ho015 改行マークまず、 8つの基本的なテーマをあげてみました。

改行マーク1つめは、 これは、 阪神間全体についてもいえることですが、 山から海への見え方とか、 海から山への見え方とかを、 空間的にも活かしていくということです。

改行マーク2つ目が、 公共的な空地空間をまち全体で豊かにつないでいくことです。 例えば、 このスケッチにあるように、 敷地内で作った空地空間が、 まち全体としてどういう構造を作っていくのかということを構想しながら作っていくということです。

改行マークその次は、 復興住宅ゆえに求められたことなのですが、 短期で、 しかもPC工法でやるということなので、 早く作れて、 システマチックで、 分かりやすくて、 簡単な構造でありながらも、 空間的には豊かであらねばならないという難しいところです。

改行マークその次は、 マリーナ型環境構造というふうに結果的に名付けたものです。

改行マークこの様にして模索してきた配置がスライドのものです。 駐車場棟を北側に1階建で配置し、 6階と9階建の中高層の建物が交互に、 横方向に、 隙間を持ちながら並んでいきます。 それに対して、 12階建の高層住棟は、 縦方向に配置しています。

改行マーク南側から見たときには、 六甲山のスカイラインがほとんど残っています。

改行マーク南側にある、 ヨットの着くマリーナの、 ピアとヨットのかたちに非常に酷似した形になったので、 結果的にマリーナ型と名前を付けました。

画像ho016 改行マークあとは、 日照条件と空地の関係や、 同じ箱でも、 高い箱と、 中位の箱と、 低い箱を混ぜていこうだとか、 隙間をできるだけとっていこうとか、 建物をできるだけ小さく切ってとっていこうといったことを考えました。 駐車場は残ったところにとるというよりは、 構造を形成していくものとして、 積極的に考えています。


大きな模型で場所性をつかむ

画像ho017 改行マークこれは、 写真に入りきらないぐらいにでかい、 1/1,000の模型です。 南芦屋浜団地のために、 これだけ大きなものを作って、 みんなで眺めながらはじめたわけです。 模型で見ると、 場所のダイナミックさだとか、 北側のアステムの高層住宅とのつながりとかが、 実感的に分かってきます。

画像ho018 改行マークこれは、 先ほどの模型をもう少し近くから見たものです。 人は真ん中の橋でここへ渡ってくることができます。 車は、 両側で幹線道路につながっています。

画像ho019 改行マーク建物は6階建と12階建、 6階建と9階建の親子のペアになっています。 構造的には別になっていて、 あいだに階段をはさんでいます。 いつもあることですが、 これは絶対にこうしなければならないかというとなかなか難しく、 例えば10階建の建物だけではどうしていけないのかということがあるわけです。

改行マーク公営住宅ですから、 コストの合理的な根拠の問題ですとか、 色々あります。 そこのところは、 よほどがんばっていかなければなかなか通りません。

画像ho020 改行マーク配置図です。


手間ひまをかけた議論

画像ho021 改行マーク県の方、 市の方、 公団の方20人ぐらいの定例会議がずっと行われていたのですが、 箱を積み上げるにしても、 少し分節していくことによって、 まちの構造、 イメージが変わっていくということを、 口で説明していたのですが、 なかなか難しい。 そこで徹底的に模型を作ってみました。

改行マーク全く板状のものから、 今回のものぐらいに分節したものまでたくさんの模型を作って、 みなさんに一緒に眺めていただいたのです。 その結果、 分かっていただきまして、 6階と9階、 6階と12階がペアでワンセットになるというところまで行き着きました。

改行マークこの南芦屋浜団地については、 マスボリュームがこのようなスケールと分節で配されたということで、 重要なことが50%以上実現できていると思っています。

画像ho022 改行マーク南芦屋浜全体のマスタープランの方からもいくつか注文がありました。 例えば、 幹線道路沿いは幅20mの緑化ゾーンを敷地内から供出し、 それ以上建築が出てはいけないという話が当初ありました。 公営住宅が来るから、 後ろに下げて隠してしまえというような話があったらしいのです。

改行マークしかし、 こういう構想を最初に持つということの意味は、 そのとおりやることではないはずです。 色々出入があったりしながら、 場所場所の豊かな空間が結果的に出来てゆけばいいわけです。 ですから、 マスタープランの通り作ればいいということではないはずだと信じて、 かなり思い切って道路側に出てくるところと、 思い切って空地を豊かにとる部分と、 両方でよくなるんだということも、 かなり時間をさき議論しました。


決定案の遠景の検討

画像ho023 改行マークこれは実際に見える山の稜線を描いた立面図です。 山の景色が残っていることがお分かりいただけると思います。 南芦屋浜は先ほど紹介しましたようにリゾート的なまちなので、 マリーナの方に接した幹線沿いの景観は、 県の企業庁が重要視していました。 そこで南側の方に、 ちょっとしたテラスだとか、 階段を持ってきて、 かなり都市的な表情を作りました。 奥の方は緑地のまわりに6階建が並んでいるというような使い分けをしています。

画像ho024 改行マークこれは宮川から見たときに、 こういう具合に見えるというコンピュータグラフィックスのシュミレーションです。 9階建部分と12階建部分だけが湾岸道路越しに見えて、 板状になってないということがいえます。

画像ho025 改行マークこれは、 南側から見たときのCGです。 後ろの山がどのように残るかといったことをチェックしていったわけです。 ちょうどアステムが後ろに見えています。


ディテールの検討

画像ho026 改行マーク住棟を分節していったあとに、 さらにもう少し小さいスケールを出していくというスタディをしました。 これは、 屋根のかけ方だとか、 ファサードの作り方だとかに関係するものです。 PC工法ですから、 屋根のスラブ自身を変化させることはそぐわないということなので、 主体構造は単なる箱ですが、 バルコニーだとか廊下という中間的な部分の屋根のかけ方で、 群の景観を作っていこうというスタディです。

画像ho027 改行マークこれはCGですけれども、 このように全部にかけるのではなくバルコニー部分の屋根としてかけているわけです。 歩いてみますと、 3段階の高さの住棟が混ざってますから、 非常に複層的な感じで、 歩くにしたがって、 豊かなスカイラインが生み出されているかなと思います。

改行マークもう一つは、 スパンの中も小さく区切っていくということがあります。 先ほど、 生活の発現が景観を生むといったのですが、 元になる仕組みを用意していく努力をしたわけです。


性能発注の実際

画像ho028 改行マーク性能発注ということですから、 実施設計は6社に分かれて、 6人の違う設計者がしました。 基本設計をそれぞれがアレンジして、 違う個性ができていけばと思ったのですが、 実際は工期がないからか、 なかなかできなかったのです。 PC工法だからできないとか、 分かるような分からないような理由なのです。 PCだとPCなりに色々できるように思うのですが、 その議論をしている暇もなく、 ほとんど基本設計通りになってしまいました。

改行マーク逆に、 曲がっていた階段がまっすぐに戻されていたり、 複雑に見えるように工夫していたものが、 全部単純にもどされてしまっているのです。 かなりつらかったですね。

改行マークあとから考えると、 PCだからこそ本体構造と、 階段構造が別に作られていて、 自由におけるとか、 本当はそういうこともある筈なのですが、 いつのまにかこういうことになってしまったというこです。

改行マーク西側の方は、 3工区で一緒に設計(PC化)してしまったからほとんど一緒です。 東側の方は、 それぞれでやってくれたから、 少しずつ違います。 そういうようなこともありました。

画像ho029 改行マークこれは、 北の方から、 真ん中を見たところです。 上から見るのとまた違って、 アイレベルから見ると、 いろんなことが見えます。 我々の基本設計でできることはここまでで、 これ以上の崩しをどう導き出していくのかが課題として残ってます。 例えば、 各棟のエントランスはピロティにしてがらんどうにして残してありました。 これは設計者がピロティのデザインをすることによって、 住棟の玄関の個性を出してもらおうと思っていたのですが、 なかなかそれもできないというあたりから、 あとで説明していただく、 コミュニティ&アート計画につながっていったということがあります。


竣工へ

画像ho030 改行マークこれは、 最終の完成模型です。

画像ho031 改行マーク向こう側が南です。 奥の空地は、 日当たりがものすごくいいところです。

画像ho032 改行マークこれは、 朝日を想定したライトで、 北側から撮った写真です。

画像ho033 改行マークこれは、 北側の駐車場越しに、 6階、 9階の中高層の並びを見たところです。

画像ho034 改行マークこれは、 ほぼ竣工に近いものです。 CG、 模型から、 実際のものに来るにしたがって、 先ほどの代官山の変わりようのようになっていって欲しかったのですが、 かなりそのまま出来てしまっています。

改行マークまた、 手前に見えるエレベータホールの横の廊下部分を少し張り出して、 サンルーム状のスペースを作っています。 単なる廊下ですという説明ですむような範囲のものですが、 求められている都市的な景観を実現するために、 またちょっとしたたまり場ともなる共用空間です。

画像ho035 改行マークこれは、 中庭を見たところです。 奥側に6階建、 左側に9階建、 手前に12階建という形です。

画像ho036 改行マークエレベータ部分には、 ラスタータイルを使っているので、 朝日とか、 夕日とかに光ってくれます。

画像ho037 改行マークこれが、 エレベータホール横のテラスの部分です。 このテラスの表情も、異なるディテールの景観づくりを狙っていた所ですが、東の3棟は共通設計のため同じディテールとなっています。 2層吹き抜けで使える空間になっています。

画像ho038 改行マークこういう具合に、 今できて来ています。

画像ho039 改行マークこれは、 北側の既成市街地側から見た、 朝の景色のスカイラインです。

画像ho040 改行マークこういう具合に、 芦屋浜越しに見えます。 以上です。

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