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図16は昔の名残を残した上海の住宅地です。 上海にはヨーロッパや日本の租界があって、 美しい住宅地が作られました。 上から見ていると美しい景観ですが、 今はどんどんつぶされて再開発が進みつつあります。
(出典:中華人民共和国建設部編『邁向新世紀的中国城市』中国建築工業出版社、 1997)
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そうした上海の昔の住宅地も、 地面の高さから見ると図18のような光景です。 1家族用のユニットに2〜3家族が住んでいる場合が多く、 急激に増える大都市の人口をそうして吸収しているのです。
ただこうした生活感あふれる光景を好む中国人も多いようで、 この写真はカラー版の立派な写真集に収められていた作品です。 今では、 どんどん消えていく光景です。
(出典:郭博『正在消逝的上海弄堂』上海画報出版社、 1997)
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図18も同様に、 上海の住宅地です。 日本でしたら保存運動が起きそうな立派な建築物です。
(出典:郭博『正在消逝的上海弄堂』上海画報出版社、 1997)
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図19(a)を密集市街地と呼ぶと怒る人もいるかもしれませんが、 京都・西陣です。 20年ぐらい前に撮影したものですが、 そのころは瓦の家並みが相当程度残っていました。 マンションがポツポツ建ち始めたころで、 この写真もそうしたマンションの屋上から撮ったものです。
図19(b)は、 韓国の大邱(テグ)の街並みです。 韓国の市街地も戦災で焼けたところが多いですが、 戦後に伝統的なL字型の家(もともとは身分の高い人が住んだ家)を庶民が真似するようになり、 その結果味わいのある街並みが生まれたのです。 これは15年前に撮った写真ですが、 一昨年同じ場所を訪ねたらこういう家々は建て変わって、 ほとんど見られなくなっていました。
(出典:撮影/鳴海邦碩)
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図20はジャカルタのカンプンです。 瓦の家並みが続くこの風景には、 先に見た京都や韓国の街が持っていたのと同じ質の空間を感じます。 木造低層の密集市街地の典型だと思います。
(出典:Edited by Dana Lam,"Indonesia, from the air",PT Humpuss and Times Editions,1988)
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図21はカンプンの内部です。 ジョグジャカルタなどいくつかの街のカンプンの内部ですが、 こうした生活感あふれる空間で、 車が通らないから大変静かなところです。 一番怖いのは火事ですが、 それさえなければ大変住みやすい所だと思います。
(出典:撮影/鳴海邦碩)
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図22の漁村のカンプンも同じような空間構成で成り立っています。
(出典:Edited by Dana Lam,"Indonesia, from the air",PT Humpuss and Times Editions,1988)
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図23はスマトラのカンプンの例です。 手前に見えるのは王様の屋敷で、 その裏側にマレー系の人達がカンプンを作っています。 しかし、 これは国の土地を不法占拠して出来た密集地で、 この写真を撮った2年後には、 国の事業のためなくなってしまいました。
(出典:Edited by Dana Lam,"Indonesia, from the air",PT Humpuss and Times Editions,1988)
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図24はジャカルタの別のカンプンを真上から撮影したもので、 密集の様子がよく分かります。 ほとんど車が通れない細い道ですが、 地域の水路や道の舗装、 公衆トイレなどを住民自身で整備するプログラムがこうした地区を対象に行われました。
(出典:Edited by Gretchen Liu,"Indonesia, Paradise on the Equator", Times Editions,1989)
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同じ密集市街地でも、 歴史的なヨーロッパの街になると大事に保存されています。 図25は、 イタリアのシエナにあるカンポ広場です。 どうしてヨーロッパの街は残せて、 アジアの街は残せないのかと思ってしまいます。 火事が起きたら大変なのはこの街も同様のはずです。 しかし、 なぜかこの広場は世界中の人がいいと思い、 アジアの市街地は取るに足らないという認識があるように思われます。
(出典:加藤晃規『南欧の広場』プロセス・アーキテクチュア、 1990)
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図26もシエナの街角です。 日も当たらないから住み難いし、 大きな地震があれば被害は甚大だと思います。
(出典:撮影/鳴海邦碩)
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図27は再びアジアです。 これは中国の事例です。 イタリアのような伝統的な景観を持つ市街地は各地に残っているのですが、 景気のいい地域ではどんどん壊されていくのが現状です。 幸い、 山奥とか地方都市には図27のような光景が残っていて、 伝統的な家並みで街が構成されています。
(出典:中華人民共和国建設部編『邁向新世紀的中国城市』中国建築工業出版社、 1997)
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図28は伝統的な中国の家並みです。 こういう家は、 ちゃんと利用して修理しさえすれば、 百年、 二百年と長持ちして住み続けることができます。 ところが、 いったん気を緩めると全部壊れてしまうのです。
それに対し、 シエナのカンポ広場は世界中の人が見ているから、 国も金を出すし、 建物を直そうという気にもなるのでしょう。
(出典:Alfred Schinz, "Cities in China", Gebru¨der Borntraeger Berlin・Stuttdart, 1989)
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図29は昆明(クンミン)の街並みです。 山を背にして街並みがきれいに残っていて、 面白い街並みを作っていると思います。
(出典:Alfred Schinz, "Cities in China", Gebru¨der Borntraeger Berlin・Stuttdart, 1989)
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図30は台湾の市街地です。 大陸から来た人達が造った街で、 かつては本国よりも立派な伝統的な家を作っていました。 しかし、 それもどんどんなくなり、 今では数えるほどしか残っていません。
(出典:Alfred Schinz, "Cities in China", Gebru¨der Borntraeger Berlin・Stuttdart, 1989)
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そういうことをいろいろ見てきた後、 考えさせられるのが図31の図面です。 これは大阪、 長吉瓜破地区の土地区画整理計画図ですが、 伝統的な農村集落が真ん中に残されることになりました。 これは何を意味するのか。 いろんな見方ができるのでしょうが、 初めて見たときは計画地区と旧集落があまりにも無関係なので、 驚きました。 おそらく、 計画段階で住民の「残したい」という主張が通ったのでしょうが、 残すのはいいとしても、 新しいものとどうつなぐかのデザイン的解決がうまくいかなかったのではないかと思われます。
(出典:『大阪のまちづくり:土地区画整理事業』大阪市建設局、 1995)
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最後に、 密集市街地がだめならばこういう街がいいのかということで、 図32にアメリカの郊外住宅地をあげておきます。 きれいに健康的に作っていて、 いかにも売れそうな住宅地ですが、 暮らしが作り出していく形が何もない市街地です。 インパクトが非常に小さい。 百年たっても面白い街にならないという気がします。
(出典:Spiro Kostof,"The City Shaped",Thames and Hudson,1991)
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