住宅時事往来NO.8
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留学生受入れ家主訪問記

 うららかな春の日差しがさす日曜日。

東京都大田区の閑静な住宅街で、 自宅を改装した部屋に留学生等を受け入れている家主さんを訪ねた。

   

 気さくな笑顔で迎えてくれた金(こん)文子さんの自宅は、 約 300m2の敷地(借地)に庭を囲むように、 2階建ての母屋、 元工場だった2階建ての離れと平屋の居室が建っている。

いずれも建築年数はかなり経過しているが、

   

 手入れが行き届いた住み心地の良さそうな住宅である。

現在一人暮らしの金さんは、 建築設計の仕事に在宅で携わりながら、 賃貸部分の管理をしている。

   

母屋外観

妹の紹介で外国人を短期受入れしたのが契機

 通された居間で、 まずは、 外国人に部屋を貸すことになった経緯をうかがった。

   

 「妹の一人が国際結婚してカナダで暮らしていてね。

彼女が20年位前から『ホテルの宿泊料も高いし、 日本旅行する友人を泊めてあげて』と言ってきて。

部屋が空いていたから、 ハイハイなんて引き受けていたの」という。

その後、 宿泊依頼が頻繁になってきて、 本格的に部屋を貸そうかと思い立ったのだそうだ。

   

 それ以来、 外国人が東京で部屋を探すのは大変だということを聞き「こんな古い家で良かったら」と、 不動産屋を通さず、 口コミで来る人に部屋を貸すようになって15年ほど経つ。

以来ずっと、 不動産屋を通さずにやっているという。

口コミ以外には、 国際交流組織のメッセージボードに募集のメモを貼ったり、 近くの大学の厚生課に募集を依頼したり、 英字新聞に記事を出したりしている。

   

 入居する人の職業は、 留学生以外にも、 語学教師やジャーナリスト等バラエティに富んでいるという。

   

 「最近はアジア人が多い気がするけれど、 アメリカ、 カナダ、 アイルランド、 フランス、 アジアではフィリピン、シンガポール、 マレーシア、 ミャンマー、 中近東出身の人も入ったことがあるわね」入居者の国籍も多様である。

   

独立後の子供部屋と離れの元工場を賃貸用に改装

 現在金さんは、 母屋の1階部分に居住している。

きょうだいが多かったため、 独立した後の部屋が空いており、 母屋の2階部分を、 6畳と台所・シャワー・トイレ付きの3部屋に改装した。

お父さんが経営していたという離れの工場部分は、 2階を区切って、 4畳半程度の居室を3つ造り、 工場の続きの平屋の10畳部屋と、 キッチン・シャワー・トイレを共同で利用できるようになっている。

   

 設備専用の部屋の家賃は1カ 月6〜7万円程度、 設備共用は2〜3万円という。

冷蔵庫、 暖房器具、 机とベッドはほぼ各部屋に備えられており、 その他に、 前住者が残していった鍋釜等の台所用品から、 布団・エアコンまでの生活用品がある。

希望すれば無料で使わせてくれるそうで、 来日間もない人や外人ハウスに居住していた人、 短期で滞在したい人にはとても喜ばれているという。

   

 「大家と同じ玄関の間貸しじゃ、 今どきの日本人の若い人は嫌がるでしょ」と金さんは分析する。

しかし、 日本の生活を体験したい、 日本風の住宅で暮らしたいと思う外国人にとっては、 日本の普通の家屋に家主さんと一緒に生活できるというのは、 日本理解への近道である。

   

 現在は、 たまたま日本人が2人入っている。

一人は離れに入居している男子学生で、 もう一人は母屋の2階に部屋を借りている「かおりちゃん」。

彼女は、 オーストラリア滞在経験を持ち現在は外資系の企業に勤めている。

彼女は「ちょうどこんな住宅を探していたんです。

大家さんが近くにいれば何かの時に頼れるし、 安心できるから。

オーストラリアでもこんな感じの家に部屋を借りていました。

時々、 夕飯のおかずをもらったり、 一緒にお茶しています」と現在の生活に満足そうである。

この日も、 少し離れた店まで買い物に行きたいのでと金さんから自転車を借りていた。

欧米人や海外帰国子女の方がかえって間貸しを好むというのは面白い現象である。

   

入居者選定は宅建資格を持つ妹が担当

 金さんの場合、 入居時には、 一応パスポートと外国人登録証を見せてもらうようにしているが、 保証人はいれば記入してもらう程度で強制はしていない。

日本人は親族の住所を聞くくらいだそう。

選考基準は「とにかく人物本位」。

特に外国人は短期間の滞在が多いので、 契約は1年とし、 退室時の現状復帰が条件。

もちろん更新は可能で、 何かあった時のための保証金だけ預かり、 そこから退室時に業者に依頼する部屋の清掃代だけ負担してもらうようにしているという。

   

 実は、 金さんは、 最近まで宅地建物取引主任者の資格を持った妹さんと同居していた。

現在は、 北海道に住んでいるが、 実際の契約や人選は今でも彼女が担当している。

   

 用事がある時に上京してくる場合を除いて、 必要なやりとりは電話がたよりだという。

   

 「姉妹だから他のこともペチャクチャ喋っちゃうからだけど、 お家賃もらっていても電話代が結構かかるのよね」と笑う。

金さんが一人で賃貸経営を続けられるのも、身近な人が専門家としてサポートしており、 何かあればすぐに相談できるという状況があるからであろう。

   

 日常生活の注意点については、 滞日外国人向けの日本での生活情報を掲載している『ひらがなタイムズ Housing in TOKYO 在日外国人の住宅問題の総て』の切り抜きを見せて説明しているという。

書いてあることは極シンプルで、 同居、 部屋の改造、 音、 ゴミ、 挨拶、 退室時の清掃等について簡単に日本のルールを説明している。

   

 実際の生活面で最も多いのが、 ゴミの問題だそうで、 気づけば本人に注意するが、 日本人と同じで若い男性はなかなか徹底しないことが多いそう。

出された袋を開けて分別しなおしたり、 敷地内にまとめておき、 決められた収集日に金さんが所定の場所に出すようにしている。

   

 音の問題は、 比較的常識的に生活する人が多く、 あまり感じないとのこと。

ただ、 アジア人は友人を部屋へ連れてくることが多く、 話し声が大きいなと感じたことはあったという。

気になれば直接注意することもある。

「他には特に深刻な問題を起こされたことはないわねえ」経験上、 特に欧米人の場合、 契約さえしっかりしていれば、むしろ日本人よりきちんとしている人が多いのだそうだ。

   

 日本語がまったくわからない入居者も時々いるが、 日本語ができる入居者に通訳してもらったり、 片言の英語でやりとりしたり、 上手くコミュニケーションをとっている。

かつては、 誕生日やクリスマスや花見などの行事に合わせて、 母屋の1階でお国料理を作り合ってパーティをよくしていたという。

別の住宅に越していったテナントや友人などを呼んで頻繁にやっていたが、 現在は金さんが一人暮らしとなってしまったため、 回数は減っている。

しかし、 かつてのテナントとの年賀状のやりとりなどは続いているという。

こんなところにも金さんのきめ細かい住人への対応が窺われる。

一方で、 必要以上には生活に干渉しないという姿勢も大事で、 それがお互いの関係を長続きさせるコツだということも語ってくれた。

   

近くの家主仲間と情報交換も

 かつて、 近くに住んでいる金さんの同級生から、 部屋が空いているのでどうしようかと相談されたことがあったそうだ。

間貸しのノウハウを話したところ、 同じように大学に募集を出したりして、 今ではその同級生も学生を受け入れている。

彼女とは、 日常的にいろいろと情報交換をしているそう。

   

 「今の日本には、 私たちのように、 家の中に部屋が空いていて、 誰かに貸してもいいと思っている人は結構多いんじゃないかしら。

ただ、 部屋をどう改装すればいいのかとか、 入居者の募集はどうするのかとか、 日本語ができる人ならいいがそうでないとどうやってコミュニケーションとるのとかが分からないのよね。

でも、 ターゲットはたくさんあるはず」と言う。

   

 最後に、 今後について尋ねた。

   

 「敷地の借地権が切れるのは10年後だから、 今は具体的には考えていないわ」とのことだが、 高齢になって収入を得る方法としては、 間貸しやアパート経営は魅力的だとの意向も語ってくれた。

「入居者については、 その時の社会事情にもよるけれど、 『外国人はもうこりごり』とは思っていませんね」とのこと。

   

 ある時、 中近東出身の人が訪ねてきたことがあった。

ちょうど部屋が塞がっていたが、 話は聞き、 部屋が空いたら連絡すると言うと、 「こんなに自分の話を聞いてくれた人ははじめて」となかなか帰らなかったことがあったという。

金さんは、 この時、 外国人が東京で部屋を探すのがいかにに大変かを実感したという。

「見聞きする範囲では、 日本人入居者の方がトラブルが多いんじゃないかしら。

『外国人は』と十把一からげで扱われたんじゃ外国人に気の毒。

私は、 人物本位で対応しようと思っているの」と心情を語ってくれた。

   

今回の取材を終えて

 金さんの事例は、 日本に古くからあった「間貸し」の形態である。

しかし、 従来の大家と店子の良き人間関係を保ちながら、 設備を各戸に設置するなど分ける部分は分けるというようにアレンジしている点が現代的だ。

金さんが語っていたように、 住宅の中の空き部屋を貸してもいいと思っている高齢者が多いとすれば、 このような事例は、 留学生への住宅供給の新しいかたちを示すものとしてとても興味深い。

高齢者にとっても若い学生との交流は生活に活気をもたらすだろう。

金さんの場合、 ご自身が建築設計の専門家であり、 また、 宅建知識のある専門家が身内にいたことで、 住宅の改装、 人選・契約、部屋の管理や運営まで独自にこなしてこられた。

しかし、一般的には、 専門家のサポートなしに金さんと同じような賃貸経営をすることは非常に難しい。

民間家主を発掘するためには、 このような相談を受け付ける窓口の設置、補助制度の充実も有効ではないかと感じた。

また、 こういった需要を引き出すためのPRも重要だろう。

   

 全体平面図
 左三角
@離れ元工場

 左三角A共同空間

 左三角B共同台所

 左三角C母屋

(取材:稲葉佳子・小菅寿美子、 報告:小菅寿美子)

   

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