その理由としては、 バブル経済崩壊以降、 東京の賃貸住宅に空室が増加し、 「外国人お断り」どころではなくなっていること。 ここ数年来日する留学生数が減少し、 80年代後半のように一時に多くの就学生・留学生が押しかけてくるといった状態ではないこと。 各自治体などが外国人向けの「生活ガイド」を各国語で配付するなど、 日常トラブル改善への努力がなされていること。 家主・不動産屋も留学生の側も、 お互いどのような点に配慮する必要があるのかがこれまでの経験から習得されてきたこと。 などがあげられる。
しかし「留学生相談室」の福島さんが言うように(次頁参照)、 留学生の住宅問題が解決したわけではない。 景気が回復すれば、 また留学生の住宅難が再燃しないとは言えない。 けれどもきっかけはどうであれ、 留学生に部屋を貸すことで、 家主が日常的に外国人に接する機会ができることは、 改善への第一歩になるかもしれない。 実際内外学生センターのアンケート結果からも、 外国人への賃貸経験のない家主ほど拒絶反応が強く“外国人”に対する漠然とした不安を抱いているが、 逆に留学生を受け入れている家主は、 抵抗感が少ないということが示されている。 私たちのこれまでの取材や調査の経験でも、留学生に好意的な家主は、 娘や息子が留学していたり、 親族が国際結婚していたり、 海外生活の体験のある人が多かった。 外国人と身近に接っするうちに、 単なる“外国人”ではなく、 留学生ひとりひとりの顔が見えてくるようになるのだろう。
一方、 民間住宅を借り上げ留学生に提供するための方策としては、 「特定目的借上公共賃貸住宅制度」の活用が期待される。 この制度では住宅建設費の一部や留学生が払う家賃に対して補助があるので、 家主と留学生の双方にとってメリットがある。 制度が発足して2年目の今年、 ようやく高崎市で、 初めてこの制度を活用した留学生宿舎が実現することになった。 しかし現実には、 住宅を借り上げた後の管理・運営を誰がどのように荷なうのか、 国や地方自治体からの補助として税金が投入されるだけに政策的な優先順位や、 日本人と留学生間の公平性をどのように担保するのか等が今後の課題とされている。
留学生の住宅問題を解決するためには公的な支援体制の充実が不可欠だが、 そこに公的な資金が導入されるとなると、 結局、 留学生の受入れに対する一般の人びとの理解がどこまで深まっているのかという問題に直面することになるのである。
留学生は確かに「学生」には違いないが「生活者」でもある。 だから留学生の受入れや対応を考えることは、 日本で暮らす他の外国人の問題を考えることにも繋がっていくと言えるのではないだろうか。
留学生住宅確保のために公的制度の整備を
留学生の住宅確保を円滑にすすめるためには、 民間住宅と公的宿舎の両面から取り組んでいくことが必要である。 文部省の計画でも、 留学生の6割は民間で受け入れる前提になっている。 そのためには、 一般の家主が留学生の受入れに対して抱いている不安や懸念も取り除く努力が重要だろう。 公的機関が直接宿舎を建設供給する以外に、 もっと積極的に家主に対する支援方策を検討していく必要がある。 具体的には大学など公的機関が保証人になる、 公的機関が留学生宿舎として民間住宅を借り上げる、 入居後のトラブルに対応するため公的な相談窓口を設置する、 外国語の賃貸借契約書の作成する、 外国語で日本の賃貸借契約の約束事や住まい方の注意事項を解説したパンフレットを作成する、 などが考えられる。 板橋区や神奈川県・横浜市・川崎市では、 既に外国語による標準契約書やパンフレットを作成しており、 先進的な取り組み事例といえるだろう。留学生を「生活者」として受入れていくことが必要
ところで留学生というと20歳前後の学生をイメージするかもしれないが、 実際には、 大学卒や社会人がより高度な専門知識を得るために留学する場合も少なくない。 また高卒で留学してから、 日本で大学院の博士過程まで進む人もいる。 留学生の年齢階層は幅広く、 結婚して妻子と共に留学生活を送る人も珍しくない。 留学生期間が長期化する過程で、 日本人と結婚する人も出てくるだろう。 日本で就職する留学生も去年は 2,000人以上に達している。 従って、 留学生は若年単身の一時的滞在者とは限らない。 留学生を受け入れるということは、 本人ばかりでなく、 その家族も含めて受け入れることであり、 将来的には、 日本に生活の拠点を置いて活動しようという人や、 定住していく人も生まれてくるということである。(文責:稲葉佳子)
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