住宅時事往来No.10
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外国人にとって分譲マンションとは何か

大久保の分譲マンションにおける
外国人居住実態調査から

大久保地域の外国人の住まい

 まち居住研究会は、 5年ほど前に、 東京の大久保地域(東京都新宿区大久保1・2丁目、 百人町1・2丁目、 北新宿1・2・3丁目)の外国人の居住実態を調査した。

その結果は、 外国人は日本の住まい方に慣れるのに苦労しているだろう、 という事前の予想に反するものだった。

木賃アパートでは、 最も身近な存在である家主が、 外国人に住まい方を教えてくれる頼もしい存在だったのである。

 

   けれども、 大久保地域では、 木賃アパートの建替えがすすみ、 どんどんマンションに姿を変えている。

こうした建物では、 管理会社に管理を委託されることが多く、 家主は外国人の身近にはいなくなってしまう。

そこでは、 外国人は、 誰から日本での住まい方のルールを教えてもらうのだろうか。

 

   管理問題の深刻化が叫ばれている分譲マンションでは、 外国人はいっそう複雑な状況におかれているであろう。

そんなことから、 大久保地域の分譲マンションを対象として、 外国人居住の実態調査*をはじめたのである。

 

   大久保地域の分譲マンション91棟すべてを調査してわかったのは、 分譲マンションの多様な姿であった。

全体の3分の1を占める管理員がいるマンションでは、 調査は比較的やりやすい。

管理員がいないマンションでも、 管理会社の連絡先や組合役員の所在を探し出せたところは、 調査を行うことができた。

それ以外のマンションは、 管理上一番問題がありそうなのだが、 全体の3分の1を占めるにもかかわらず、 十分な調査ができない結果となった。

マンションでの外国人の住まい方

 大久保地域は、 都心部はどこでもそうであるように、 80年代後半のバブル期にはマンション分譲が事業として成り立たなくなったため、 80年代前半までに建設されたマンションが主体であり、 とくに70年代後半以降のものが多い。

住戸数が100戸を超えるマンションはほとんどないが、 住戸規模はワンルームからファミリータイプまで平均的にばらついているのが、 大久保地域の特徴である。

グレードが高級なマンションもあまり見あたらない。

図1
図1 建物完成時期(大久保地域全マンション、N=91)

図2
図2 住戸数(大久保地域全マンション、N=91)

 管理員がいるマンションは、 比較的古くて戸数の多いものばかりである。

人件費の高騰により、 新しいマンションでは、 相当に戸数が多くなければ、 管理員を設置する余裕はないのである。

また、 管理会社への業務委託はほとんどのマンションで行っており、 約半数は全面委託となっている。

そのほか見逃せないのが、 賃貸率の高さである。

ワンルームなど住戸規模の小さいマンションでは、 8割以上の住戸に賃借人が入居している。

 

   外国人は、 8割以上のマンションに何らかの形で居住している。

なかには、 半数の住戸に外国人が居住しているマンションもある。

外国人は、 バブル期以後に日本人入居者が転出したあとに入居する例が多く、 増加基調にあるようである。

ただし、 外国人入居者に対する選考・管理を厳しくしたマンションでは、 減少に転じた例も見られる。

図3
図3 外国人居住者の有無(大久保地域全マンション、N=91)

図4
図4 外国人居住割合(ヒアリング調査実施マンション、N=55)

 外国人の国籍は、 韓国が最も多く、 次いで台湾、 中国、 さらにフィリピン、 タイなどの東南アジア諸国が続く。

全体的には飲食サービス業従事者が多いが、 韓国人のみは、 企業駐在員や学生なども少なくない。

飲食サービス業者のなかには、 マンションの住戸を寮として使用し、 数人を詰め込む例もある。

 

   外国人の居住者は増加しているものの、 外国人の区分所有者はごくわずかしかいない。

しかも、 区分所有者の大部分は、 在日韓国・朝鮮人や日本人と結婚した外国人であり、 ニューカマーズはほとんどいない。

外国人居住への管理組合の取り組み

図5
図5 居住者把握状況(ヒアリング調査実施マンション)

 外国人居住にまつわる日常管理上の問題は、 約8割のマンションで指摘されている。

とくに管理員のいるマンションでは、 さまざまな問題が報告されている。

これは裏返せば、 それだけ状況を細かく把握していることに他ならない。

表1 外国人に関する管理上の問題(ヒアリング調査実施マンション)
上段:実数(棟)、 下段(%)
問題
管理員
合計友人と同居友人と騒ぐ他人に又貸し改造・住み方ゴミの出し方無断退去共用部使い方その他特になし不明
全体55
100
4
7.3
8
14.5
3
5.5
5
9.1
24
43.6
2
3.6
7
12.7
2
3.5
10
18.2
17
30.9
常駐管理あり42
100
3
7.1
8
19.0
2
4.8
5
11.9
22
52.4
2
4.8
7
16.7
1
2.4
9
21.4
9
21.4
なし・巡回のみ13
100
1
7.7
0
0
1
7.7
0
0
2
15.4
0
0
0
0
1
7.7
1
7.7
8
61.5
 最大の問題は、 ゴミの出し方である。

次いで、 問題となっているのが、 廊下での大声やカラオケ等の夜間騒音、 共用部分でのごみ捨てや飲酒などである。

そのほかには、 無断で行う転貸、 改造、 用途転用等の問題がある。

 

   このような実情にもかかわらず、 外国人に対する評価はふたとおりに分かれている。

否定的に見る人は、 外国人は注意しても行動を改めないと強調する。

一方、 肯定的に捉える人は、 日本人も同様な問題を引き起こしていること、 いったんルールを学習した外国人は無責任な日本人よりよく守ることを引き合いに出す。

 

   分譲マンションでは、 賃貸アパートの家主が果たしていた役割を、 誰が務めているのだろうか。

結論からいうと、 家主に匹敵する代役は見あたらない。

かろうじて一部のマンションにおいて、 管理員、 組合役員などが外国人に関心を示し、 外国人の入居の制限、 入居した外国人への生活指導を行っている。

 

   入居を制限する最も穏便な手法は、 仲介業者を組合が指定する業者に限定し、 業者と協定を結ぶことである。

はじめから全住戸を賃貸することを前提としたワンルームマンションでは、 分譲会社が仲介業務を一手に引き受けているところもある。

これがややエスカレートすると、 管理員が入居希望者の面接を行って審査したり、 管理規約で特定国籍の外国人の入居の禁止を定めるようになる。

 

   生活指導で最も力点が置かれているのは、 ゴミ出しルールの周知徹底である。

そのために、 各国語版のゴミ出しルールの解説パンフレットを配布したり、 ゴミ出し時のゴミ袋への部屋番号の記入を義務づけるなど、 さまざまな工夫がこらされている。

さらに、 生活ルール全般にわたって、 新入居者に対してオリエンテーションを行っている例もある。

指導にあたるのは、 多くは管理員であるが、 仲介業者、 組合役員、 管理会社が行うことも少なくない。

図6
図6 入居説明(ヒアリング調査実施マンション、N=55)

分譲マンション管理の構造的問題

 建物の管理は、 会計事務をはじめとした運営を司る運営管理、 建物の物的な保存・改良行為などを行う維持管理、 入居者の生活を規律する生活管理の3分野に区分できる。

さらに、 住戸を賃貸・譲渡する場合は、 入居者や譲受人の審査を行う入居管理がつけ加えられよう。

 

   小規模な賃貸アパートでは、 家主が運営管理から入居管理に至るまで一貫して行うことが多いため、 日本の慣習の理解・受入を期待できる外国人を優先して入居させたり、 日本の慣習を外国人に伝達することにより、 トラブルを未然に防ぐ配慮を行う可能性が高い。

 分譲マンションが、 賃貸アパートと大きく異なるのは、 管理組合が特別な取り組みを実施しない限り、 生活管理は管理組合が統合的に行うのに対し、 入居管理は各区分所有者が独自に行う点である。

各区分所有者は、 管理組合の能力とは無関係に、 外国人を排斥することも受入れることも自由に選択できる。

このため、 無制限に流入する外国人入居者を管理組合がコントロールしきれなくなる可能性がある。

 

   一部のマンションでは、 生活管理や入居管理に管理組合が積極的に関与し、 組合役員または管理員が大きな役割を果たしている。

しかし、 これらは熱心な人材がいた例外的事例に過ぎず、 組合役員や管理員の人柄などの偶然的要素に左右されているのである。

管理組合の取り組みのあり方

 ニューカマーズの外国人は、 渡航目的に応じて、 地位が安定して信用力が高い企業派遣層、 外国での経験に価値を見いだす文化志向層、 高収入の仕事の獲得を目的とする経済志向層に区分することができよう。

日本では、 経済志向層の外国人の流入は比較的最近の経験である。

 

   分譲マンションは、 賃貸マンションに比べて入居管理が甘いため、 賃貸マンションへの入居を拒絶された外国人にも、 分譲マンションなら何とか潜り込めるチャンスが残されている。

賃貸アパートには留学生など文化志向層が多いのに対し、 分譲マンションには飲食サービス業関係者など経済志向層が多数見られる事

 実は、 こうした事情の反映であろう。

結果として、 オーバーステイなどの問題を抱えることも多々ある。

 

   外国人居住にかかわる取り組みは、 組合役員が粒々辛苦してようやく実施しているものであり、 その意義は評価しなければならない。

しかし、 一部のマンションでは、 審査担当者の一存のみによって、 特定国籍の外国人を一律に排除するなど、 人権の観点から行き過ぎと思われる規定も設けられている。

分譲マンションにおける外国人流入に伴って発生する事象は、 あくまで経済志向層固有の問題とは切り離して取り扱われるべきであり、 家主が恣意的なコントロールをなしうる賃貸アパートとは、 自ずから異なる倫理規範が求められよう。

集会において民主的な討論を重ねたマンションでは、 適正な基準が設定されることが多いのは印象的である。

今後の取り組みの方向性

 外国人居住にかかわる取り組みには、 2つの方向性が考えられる。

第一は、 標準化が可能なものは標準化を進め、 組合役員や管理員の人格への過度の依存から脱却することである。

もう一つは、 組合役員や管理員の個別的な取り組みが必要な部分については、 その活動を支援する仕組みを整備することである。

 

   標準化の推進については、 管理規約や使用細則全般にわたり、 各国語版の標準を用意すること、 仲介業者とタイアップした入居審査システムを管理規約等に規定することが考えられる。

また支援機構の整備については、 各地域に根ざした固有の課題を解決するために、 地域ネットワークの形成を誘導し、 入居審査基準の設定等の課題に関し、 地域内の情報交流の活性化を通じて、 協同的な解決を図ることが望ましい。

 

   今後は、 日本の不動産の価格が下落して国際水準に近づくとともに、 海外投資家による分譲マンション購入も増加するであろう。

その結果、 現在では例外的でしかない外国人による不動産所有は、 一般的な現象となる可能性がある。

このため、 外国人の居住者のみでなく区分所有者とも共存できる管理システムのあり方について、 管理システムの発展という視座から検討を深める必要があろう。

マンション管理に求められるもの

 すでに取り壊された香港の九龍城は、 わけの分からない人間をも呑み込む匿名的空間を都市に提供していた。

こうした空間は、 犯罪の温床となる危険性がある一方、 多様性の存在という都市の魅力を形成する一端を担っていたことも確かである。

 

   分譲マンションのなかには、 たとえは悪いかもしれないが、 九龍城に類似した都市のブラックホールとしての役割を果たしているものもあるように見える。

一部の外国人を含め、 他の空間には入り込めない人々は、 そこでようやく自らの空間を確保することができるのである。

都市の自由は、 現在の日本ではマンションのなかにあるといえるのかもしれない。

 

   ただし、 少なくとも日本の分譲マンションの管理は、 多数の区分所有者の積極的参加という前提の上に成り立っていることに注意する必要がある。

各人の野放図な自由は、 適切な管理を行うという要請を満たすことができず、 結果的に各人に不自由を招来するという矛盾に陥る。

マンションにおいて要請される自由は、 管理に参加する権利と管理に参加する義務という両者の微妙なバランスの上に立つ、 統制された自由なのである。

 

   このことから、 マンションの管理状況は、 区分所有者の精神の反映であるといってもよい。

管理委託がなされない小規模マンションでは、 物的管理が放棄されるなどという直接的な形で、 区分所有者の精神が現れる。

管理委託がなされたマンションでは、 通常は区分所有者の精神は隠蔽されているが、 大久保地域においては、 外国人に対する取り組みなど管理会社への委託になじまない管理業務の実施状況に、 やはり区分所有者の精神が現れるのである。

 

   大久保地域では、 外国人に対する取り組みの実施は、 有志の出現いかんに依存しているマンションが多い。

そこでは、 適切な取り組みをなしうるか否かは、 有志のパーソナリティーに依存している。

つまり、 管理の過程には有志の過重な負担という問題、 また管理の結果としては適正な管理の担保という問題を抱えていることになる。

 

   多数の区分所有者の管理への積極的参加が実現していれば、 一部の有志への依存度は低下し、 このような問題は生じにくいであろう。

大久保地域のマンションは、 外国人居住という窓を通じて、 区分所有者間の民主主義の成熟度をあらわにした。

大久保地域で、 マンションという小さな団体世界の民主主義をいかに成熟させていくか。

それが、 とりも直さず、 分譲マンションにおける外国人居住への取り組みの根本的課題であろう。

(文責:笠原秀樹)

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