住宅時事往来No.10
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ミニシンポジウム

本音で語ろう! 大久保のまちと人

−あなたは隣人についてどれほどご存じですか

1996年11月30日に、 新宿区大久保で、 地域のまちづくりを考えるグループ、 「〈共住懇〉外国人とともに住む新宿区まちづくり懇談会」主催による「本音で語ろう! 大久保のまちと人−あなたは隣人についてどれほどご存じですか?」と題されたシンポジウムが行われた。

第1部では、 大久保の現状報告と問題提起がなされ、 それを受けた第2部では、 地域で活動する方々によるパネルディスカッションが行われ、 活発な意見交換のもと、 これからの大久保のまちづくりに向けての課題が浮かび上がった。

大久保の住民を中心に大勢の参加者が来場し、 シンポジウム閉会後の懇親会でも活発な交流が行われ、 盛会であった。

まち居住研究会のメンバーも共住懇の活動に以前から参加しており、 当日は、 ホールの一角で、 大久保のまちのパネル展示を行った。

 

〈第1部〉
「大久保のまちと人・現況報告」

◆基調報告と問題提起 川村千鶴子

「大久保の人とまち―地域に共に暮らしていくために」
 百人町1丁目生まれの川村さんは、 愛用の地球儀を片手に持って登場し、 グローバル化が進む日本の現状について、 まず説明をした。

そして、 3000人以上の人々が外国人登録をし、 住民の5人に1人が外国人である「世界の縮図」と言われる大久保のまちの歴史と現状を、 「ともに学ぶまち」「ともに祈るまち」「在日の方々とともに歩んだまち」「ともに働くまち」「ともに子どもを育てるまち」という5つのキーワードで紹介した。

 

   次に、 大久保が今日のようなシンポジウムを開催できるまでには紆余曲折があったことにも触れた。

1992年から隣接する歌舞伎町を中心に外国人が関係する麻薬、 殺人、 テレホンカード偽造、 街娼が増えたことや、 外国人住民の増加で生活習慣の違いから来る様々なトラブルが多数発生したことが、 古くから住む日本人住民と外国人住民との間に確執を生んだと説明。

この10年間に共生を妨げる要因が地域内に噴出したと指摘した。

しかしながら、 94年になり、 これらの問題は、 地域に根付いていた問題や地域レベルの問題が複雑に絡み合って発生していたことに気づき、 自治会、 警察、 新宿区が協力し、 問題解決に向けて、 様々な活動が行われ始めたことを紹介した。

また、 古くから活動していた「アジア友好の家」に加え、 大学のフィールド調査の場となったり、 共住懇やグローバル・アウェアネス等の地域のNPOも育ってきたことを強調し、 全国にマイナスのイメージで報道されてきた大久保が、 確実にプラス思考にかわる共生型まちづくりを模索し始めている姿を紹介した。

写真

熱心に報告に聞き入るシンポジウム参加者

◆ビジュアル報告 山口善久(稲葉佳子・塩路安紀子・山本重幸)

「大久保のエスニックレストランや食材店の状況『おいしいまちガイド』作成調査から」
 当日参会者には、 共住懇が作成した「おいしい“まち”ガイド」が配布された。

これは、 まちを歩いていてエスニック料理店や食材店を見かけ、 「読めない文字で何と書かれているのか知りたい」、 「共生は楽しいこと=食べることから始めよう」と、 メンバーが調査を行った成果であると説明された。

 

   この報告では、 取材の過程で撮影した色とりどりの装飾を施した店構えや店内の様子、 注文して出された料理をスライドで映しながら、 1軒1軒訪ね歩き、 経営者や店員に聞いたエピソードを紹介した。

このガイドは、 大久保地区内の店舗などで、 無料配布されている。

〈第2部〉
「パネルディスカッション」

 第2部のパネルディスカッションでは、 現在大久保地区を中心に活躍されている4名のパネリスト(写真参照)が、 大久保との関わり、 現状、 これからの大久保を語った。

 

   長い間、 蔦の教会で親しまれてきた、 大久保通りに面して建つルーテル教会。

ここの牧師を務めている内海さんは、 ルーテル教会が関東大震災後に大久保に来た経緯をまず紹介し、 ここ10年ほどで外国人住民が急増する状況に対応するために英語のミサを始めたことを報告した。

「性別、 経済状況、 国籍で区別することなく、 地域を構成する住民が喜び悲しみをともに担っていくことこそコミュニティである」という発想から、 可能な限り様々な国の人と一緒に祈りたいと努力していると語った。

「ともに担って行こうとする人が一人でも多くいて欲しい、 都市計画だけではまちはできない」と語り、 人間が生きることを考えた都市づくりを展開していく必要性を訴えた。

 

   民族衣装の鮮やかなサリーで登場したジャヤンティさんは、 1980年に留学生として来日、 その後日本人の男性と結婚した。

結婚、 出産を境に、 日本に住む意識が大きく変化したこと、 出身国ネパールのことを小学校で子どもたちに話した経験等から、 外国人として遠慮して生活してきた自分を反省し、 自ら積極的に行動することで、 生活の不安が消えたということを発言された。

「静かな文化では理解し合えない。

語り合う中で、 お互いに理解することが大事です」と指摘された。

一緒に来ていた幼いお嬢さんが、 笑顔を振りまき、 会場の雰囲気を和ませていた。

 

   大久保で飲食店を営む許さんは、 1987年に在日韓国人と結婚し来日した。

夫妻で飲食店を経営し、 4年前から大久保で焼き肉店「アリラン」を開業。

連日韓国からの団体客で賑わっているという。

許さんは、 当初は近隣の日本人経営者との確執を体験したが、 毎日の挨拶や受け入れられるための努力を重ね、 現在では、 生まれ育った韓国よりも日本の方が好きだと言えるようになったと語った。

「何かあった時には私を呼んで下さい。

すぐに飛んでいって協力します」という言葉に、 大久保を担う住民としての心意気を感じた。

また、 許さんは、 外国人が部屋を借りる際の困難さについても指摘し、 改善の必要性を自身の経験から強く説かれた。

 

   小柳さんからは、 現在新宿国際交流協会で取り組んでいる、 海外の姉妹都市との交流、 交流活動の資金助成、 日本語教育活動等について紹介があった。

行政ではなく「財団」という民間の立場で何ができるのか、 日常の中に溶け込んだ交流にどこまで迫れるか、 真にみのりのある交流のために何をすべきか等の課題に直面しながら、 事業を進めている状況を報告された。

 

   会場からは、 新宿区の小学校での国際教育のカリキュラムについてや大久保のまちをどんなまちにしたいと日本人住民が考えているのかという質問が出た。

意見としては、 外国人留学生・就学生の保証人探しの困難さについての指摘、 大久保のまちに散在するゴミの問題や違法駐車の問題についても出された。

 

   また、 標題にある「本音で語る」ことの必要性が論じられると同時に、 日本で暮らす外国人が直面している様々な状況を考慮すると「本音で語る」だけでは問題解決に向かわないという難しさも浮き彫りになったシンポジウムであった。

 

   外国人とともに住むまちをきちんとイメージし、 議論していくことが必要であるという共通の結論に達し、 次回のシンポジウムの開催をまつことになった。

(報告:小菅寿美子)

写真
左からコーディネーターの常見佳代さん。
パネリストの内海望さん、 ジャヤンティ湊さん、 許蓮桃さん、 小柳俊孝さん

ミニ・シンポジウム
 本音で語ろう!大久保のまちと人
 ―あなたは隣人についてどれほどご存じですか?
1996年11月30日(土)14:00〜18:00
大久保 龍生堂ホール
主催:〈共住懇〉外国人とともに住む新宿区まちづくり懇談会
協力:まち居住研究会、 グローバル・アウェアネス
後援:財団法人まちづくり市民財団、 財団法人新宿区国際交流協会

 

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