阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
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27)新長田駅北地区

久保都市計画事務所 久保 光弘

「きんもくせい」33号、 35号、 37号、 46号

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明治18年の長田
戦災復興土地区画整理事業区域と震災被害状況(「区画整理9505」日本土地区画整理協会)
生活の復旧―個人レベルの生活を早期に取り戻す
まちの新生―産業と生活の新しい展開
 

1)条里制都市としての長田

 震災地域最大の土地区画整理事業である新長田駅北地区(42.6ha)は、 平成8年7月9日「事業計画」が決定し、 事業がスタートした。 そして、 当地区内のそれぞれの町丁単位で生まれそれぞれ特徴あるまちづくり活動をし、 まちづくり提案等を行ってきている21のまちづくり協議会は、 「新長田駅北地区まちづくり連合協議会」を結成した。 今、 相互に連携、 協力して、 より総合的なまちづくりに取り組もうとしている。

 この地区は耕地整理が行われたものの、 戦災による焼失が比較的少なかったこともあって戦災復興区画整理事業の区域には入っていない。 この戦災復興土地区画整理事業に含まれていない区域は、 古い木造家屋が集中していることもあって、 今回地震により広範囲に倒壊、 焼失等による集中的な被害がみられた。 震災後の市街地開発事業として都市計画の対象区域は、 主にこれらの区域となっている。

 長田の100m四方の条里制街区は、 町丁の単位としてそれぞれのコミュニティの基礎単位となり、 震災時の助け合いの場となり、 それぞれの条里制街区からまちづくり協議会が生まれ、 新長田駅北地区では協議会数は21に及ぶ。 気心の知れた近隣の人々がつくった多数の協議会は、 大勢の住民が身近なまちづくりとして参加する機会をつくった。 ・条里制都市・長田の文脈を生かした復興まちづくりのツールとして、 土地区画整理事業手法の新しい展開が試みられている。


2)生活の復旧とまちの新生

 復興まちづくりは地域の人々の生活を短期間で回復させなければならないという切実な「生活の復旧」と、 インナーシティ化が進行する状況の中で将来に向けての「まちの新生」との両面をあわせて取り組むことが求められている。

 ・生活の復旧:震災は人々の人生の生活設計を大きく狂わせてしまった。 長田は高齢者の割合が高く、 零細企業が多い街であるだけに、 もとの街に帰れるか、 もとの生活に戻れるかという個人レベルの「生活の復旧」が最も切実で緊急な問題である。 人々のこれまでのつながりを含め、 これまでの生活をいかにとりもどすかという個人レベルの問題を復興まちづくりは担っている。  「生活の復旧」に関してまちづくりとしての考慮すべき重要なポイントとしては、 (1)「早期再建」、 (2)「安い住宅の供給」、 (3)「コミュニティ・人間関係の継続」があげられる。

 ・まちの新生:ケミカルシューズ関連産業を中核として、 住工商が連環して成り立ってきた当地区においての復興は長期的な視点を踏まえた産業の再構築を図らなければ、 にぎわいのある街を取り戻すことはできない。 当初からの個人の生活復旧についてのストレスに加え、 産業基盤としての地域の発展性の心配からくる事業者のストレスもある。


3)長田駅北地区における市街地空間の再構築−居住環境街区(安心安全街区)の形成

 ・1次都市計画決定
 平成7年3月、 都市計画決定された新長田駅北地区土地区画整理事業(1次都市計画決定)においては、 (1)南北及び東西方向のおおむね200mメッシュ(1部分300m)に幹線的道路(都市計画道路)を配置。 (2条里制街区毎に幹線道路を配置)、 (2)1haの近隣公園(防災公園)を1ヶ所配置が決定された。 (3)また、 主要コミュニティ道路と街区公園は計画決定ではないが、 おおまかな位置が示されている。

 この1次都市計画決定の意図について行政から直接耳にしなかったものの、 2階層性の計画システムが採用されていることは容易に理解できる。 これは広域と狭域、 中長期と短期の間の計画上の整合性をとるとともに、 計画の規範性と住民参加による実現可能性をリンクさせることを意図するものであろう。

 1次都市計画決定の内容は、 地域的(広域的)で中長期計画タームからのいわば骨格計画であるとともに、 対象区域内の空間形成の規範を形成する軟らかい計画であるといえる。

 その場合1次都市計画決定後から始まる協議会のまちづくりは、 その骨格の中で具体的な肉付を行う比較的狭域的な街区計画が主となるだけに、 その前提となる骨格計画である1次都市計画決定の内容が、 これまでの市街地形成過程や状況との関係、 また新しい骨組みによって形成される空間システムが住民にとって望ましいものであるかどうかという点についての評価がまず問われることになる。

 ・地区状況からみた評価
 1次都市計画決定における幹線的道路計画についてこれまでの地区の状況に照らしてみると、 次のような事が言えるのではないかと思う。

 (1)現在の市街地構成は、 約100mメッシュに8m道路が配置されており、 それぞれの道路は地域の産業交通を含めた自動車交通に対して一方通行で対応しており、 車の渋滞、 歩行者交通の安全性からみると不十分であったといえる。 200mメッシュに歩道と2方向車線を備えた幹線的道路を配置することは、 自動車交通の集約化を図ることになり、 200m四方(4条里制街区)を1単位とする自動車交通に対して安全な「居住環境街区」(安心安全街区)を形成することを可能とする。

 (2)また4つの条里制街区で構成される居住環境街区の中央に南北方向、 東西方向の歩行者優先のコミュニティ道路を配置することを可能とする。

 (3)新長田駅北地区中央に南北方向に配置されている五位池線は、 長田地域のシンボル的地域幹線道路、 地区中央に東西方向に配置されている細田線は、 駅北地区のシンボル的幹線道路として位置づけることができる。 この幹線的道路についての協議会での意見は、 幅員に関するものが主であった。

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道路網の状況(五位池線以東)
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居住環境街区とコミュニティ道路配置についての基本モデル
 ・計画形成・計画決定の過程−段階的プロセス
 協議会による計画形成過程と対応して、 段階的に計画決定が行われているところが今回の土地区画整理事業の特色である。  当地区において、 条里制に基づく耕地整理が既にされていたことが、 この計画形成・計画決定の過程を比較的わかりやすくしていると考えられる。

 ・計画形成のステージ
 土地区画整理手法によるまちづくりのステージを便宜上表-1のように分類することができる。 この分類を基にしながら、 計画形成・計画決定過程を整理すると以下のようになる。

 ステージA:ステージAは、 根幹的都市施設(幹線的道路、 近隣公園)都市計画決定段階のものである。 1次都市計画決定の経緯から協議会においてはまず議論の対象となっている。 ステージAは、 都市の骨格形成であることから、 中長期の地域形成上の視点が必要であるとともに、 これらの根幹的都市施設の位置にある関係権利者が他の権利者に比べて不利益にならない方策が重要なポイントといえる。

 ステージB:ステージBは街区公園や主要コミュニティ道路といった根幹的なアメニティ基盤施設であり、 1次都市計画決定の際の図面におおよその位置が示されているものの1次都市計画決定の対象とせず、 協議会のまちづくり提案を基本に縦覧、 意見書の提出という手続きを経て2次の都市計画として決定された。 また街区外周道路等主要区画道路も2次都市計画決定の対象となった。 街区公園については、 1協議会では対応できない面もありそれも要因となって協議会の合同による検討が行われ決定されている。 主要コミュニティ道路については、 先行する協議会において、 一部の協議会の連携により幅員等を検討されたが、 後続する協議会においては、 先行案を基本に検討するという対応となった。

 ステージC:ステージCは、 街区内の市街地形成であり、 街区単位で結成された協議会においては最も主体的な取り組みの対象であり、 街区内の土地利用と生活道路を計画するものである。 特に工業系区域においては、 住工分離を図るため、 関係協議会が連合して土地利用計画とそれに対応する区画道路が計画された。

 ステージD:ステージDは、 土地区画整理事業による公共施設計画を基本に望ましい生活環境、 産業環境を形成するため、 より具体的な上物利用の検討を図る段階であり、 現在はこのステージの取り組みが始まっている。

 当地区では現在、 地区計画、 共同建替参加者の確定による共同建替区域の確定作業が進められている。

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計画形成のステージと計画決定
 ・まちづくり提案
 各協議会から市長に提出された「まちづくり提案」の内容は、 基本的には上記のステージCを中心にステージA〜Cを含めた計画提案となっている。

 ・計画決定等のプロセス
 平成7年3月の1次都市計画決定後の計画決定過程は以下のとおり。

 (1)新長田駅北地区における設立協議会からのまちづくり提案が過半数以上出された段階で、 まちづくり提案を基本に主要コミュニティ道路、 街区公園等のアメニティ基盤施設や主要区画道路について都市計画決定(2次)を行うための縦覧(平成8年3月)が行われた。 (平成8年7月に2次都市計画決定がされた。 )

 (2)2次都市計画決定のための縦覧とほぼ同時期に、 新長田駅北地区土地区画整理事業の事業計画案の縦覧が行われた。

 この事業計画案は、 まちづくり提案が行われた街区については提案が盛り込まれているが、 この時点で提案が行われていない街区は市案となっている。

 この段階でまちづくり提案がされていない街区について、 以後、 提案が行われた場合は市案をまちづくり提案に基づいた計画に替え、 これを事業計画の変更で対応する。

 この事業計画案の縦覧時点では、 最初にまちづくり提案が行われた街区(協議会)ではほぼ半年近く経ている。 まちづくり提案の先行協議会と後続協議会の双方を配慮した時期を事業計画縦覧のタイミングとして行われた。 (平成8年7月に事業計画決定がされた。 )

 (3)まちづくり提案において共同建替適地を想定し、 それに合わせた区画道路として事業計画が決定されている。

 この共同建替の参加権利者が確定した場合は共同建替区域(共同住宅区)を確定し、 それに伴う区画道路の変更に対応した事業計画の変更が行われることになっている。

 ・仮換地
 仮換地は、 仮換地を行うための諸条件が整った街区(区域)から仮換地が進められると考えられる。 地権者は、 共同建替や住工分離などまちづくり提案に定められた土地利用計画を参考にして、 希望する土地利用計画の区域への飛換地も配慮されることになっている。

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