阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク
英語へ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

28)築地の区画整理−住宅地区改良事業との合併施行

まち景観・山口研究室 山口 憲二

「きんもくせい」16号、 42号、 50号

1)計画決定まで

画像s196a
築地町並み写真展風景('97.4)
画像s196b
築地地区改良住宅街区説明会
 旧尼崎城の外濠の南側に位置する築地地区は今回の震災による液状化現象により多くの家屋が被害を受けた。 この地区でのまちづくりの取り組みは震災後の始まったものではない。 阪神工業地帯の中心部に位置し、 戦後の産業活動の進展による環境悪化、 地下水汲み上げによる地盤の沈下、 国道43号線(昭和38年開通)による市街地の切断と沿道公害という背景のもと、 昭和48年に築地地区を全面的に再開発して住宅団地にし、 ここに中在家地区の居住者に移ってもらい、 その上で中在家地区を工業用地にするという地区整備案が作られるが、 築地・中在家両地区からの反対により白紙撤回されていた。 その後、 住民と修復型の住環境整備や沿道環境整備についての参加型まちづくりが試みられた。 昭和53年には、 ゆるやかな住環境改善を重視し、 住環境整備事業の新しい展開をケーススタディすることを目標に「尼崎市南部住環境整備モデル事業」に関する報告書が作成されたが、 この整備計画案も住民の積極的な賛同をえず不調におわる。

 震災による液状化は、 個人では対応しきれない課題であり、 その整備を期待して市の整備に賛同するという地元住民の意識のもと、 平成7年8月8日に土地区画整理事業区域等の都市計画決定後、 同年9月14日に住宅地区改良事業の地区指定がされ、 10月18日には築地地区復興委員会が「築地地区まちづくり案」を尼崎市長に提出。 その後、 区画整理の事業計画決定と第2段階都市計画決定が平成7年12月27日および28日になされ築地復興まちづくりの第1段階を経過している。


2)本格的整備への課題

画像s198
1995年8月まちづくり計画案
 第1は改良住宅(公営受皿住宅)の整備計画と入居条件に関連した課題である。 まず、 全体整備計画戸数約500戸のうち第1期建設約100戸については、 43号沿道騒音の問題等でその適否について議論があったが、 結局他に選択肢がなく地区に隣接した旧国鉄尼崎港駅跡地に建設が決まった。 2期以降の地区内建設については、 当初、 日影の条件等から有利な北側庄下川沿いの街区への集中配置案が示されたが、 景観面からの反対や、 人口のバランス、 これからの町の発展という観点からの意見・提案もあり、 南北の分散配置に落ち着いた。 この間、 復興委員会やブロック会議で何度か議論を重ね、 最終的に築地地区福祉会館で300分の1模型を展示した。 まちの表通りである本町通り(旧中国街道)に沿った部分には1階を店舗等とした低層型の建物がならぶことになる。 このような中で、 あたらしい住宅に対する期待が高まると同時に、 入居条件等に関して具体的な要望や意見が出てきた。 たとえば、 世帯人員等と入居住戸規模の対応が機械的すぎないか。 普段はいいが、 息子家族など親戚が来たときに対応できない。 また、 長年いっしょに暮らしてきたペットの飼育を認めてほしいなどなど。 人情と非人情が交錯する微妙な問題提起が多かったが借家人分科会はこれらを集約し、 市の回答を得ながら基本的な理解を拡げていった。

 つぎに事業用地の先行買収開始を契機として出てきた課題がある。 買収補償額が一定額に満たない零細権利者世帯の改良住宅入居を認めることになったこともあり、 とくに小規模宅地所有者から土地・建物の補償額を早く知りたいという声が強まった。 家主と借家人の意向対立も顕在化してきた。 家主が用地買収に応じない限り借家人は改良住宅に入居できないためである。 家主といっても規模など千差万別である。 小規模な賃貸住宅の経営によって暮らしをつないできたという老婦人は、 借家人の気持ちは分かるが手放せないという。 大きな地主の心配も潜在している。 はたしてこの築地で賃貸住宅の再建経営がやっていけるのか。 将来展望が見えてこない。 今まで650世帯が民間賃貸住宅に住んでいたまちが、 505戸の公営住宅を抱えることになるのだ。 賃貸住宅市場は窮屈になるだろう。

 特目入居(地区限定)型の改良住宅建設は、 短期的には人口の流出を防ぎまちの安定に貢献するが、 長期的なまちづくりの観点からはどうか。 活力あるまちとしての一定の開放性・流動性を確保するための取り組み、 仕掛けが必要となっている。

英語へ
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク

(C) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク

阪神大震災復興市民まちづくりへ
学芸出版社ホームページへ