「青少年のための科学の祭典 実験解説集」(京都,大阪)掲載,京都市中学校理科教員研修会等で多数紹介。
手法の一部は「物理教育 Vol.48 NO.2」掲載。
(サイエンス展示・実験ショーアイディアコンテスト 日本科学技術振興財団会長賞の受賞理由である「安全性を特に高めた手法」として評価されたものの一つ)
◆安全上の注意(くれぐれも!) 本ページでは当初より「必ず炭酸系ボトルを使用すること」という注意を載せています。(このページ最後の「注意!」をご覧下さい) しかし,他の方のページや実験本には未だに「非炭酸系ボトル」を使っている例(写真等含む)が見られます。 左の写真は1.5リットルの非炭酸系ボトルを用いて,適正量の無水エタノールを噴霧して,発射したもののなれの果てです。新品ボトルを利用して1回目の発射はうまくいきました。2回目もうまくいきましたがややボトルの底が白濁したような気がしました。そして3回目発射の途端,大音響とともに点火の瞬間破裂しました。写真の通り底部が破損し,破片は最大で10mも飛びました。目に当たったりすると大事故になります。非炭酸系は内側からの圧力には耐えられないのです。燃焼による高熱が加わるとさらにもろくなります。 |
メタノールなどをペットボトルに詰め点火し、その爆発の反動により飛ぶロケットは以前から全国各地で行われています。アルコールランプなどの開放系での緩やかな燃焼と異なり、閉鎖系でのアルコール気体は爆発的に燃焼することを示すために、授業で取り入れている方も多いと思います。文献やホームページを調べてみると、実験演示方法を紹介する物は多いですが、「実験のコツ」まで触れた物は私の知る限り数えるほどしかありませんでした。それも「ペットボトルは必ず乾燥している物を使う・・・」と言った類で、「どうやって乾燥させるか」という親切な物はありませんでした。(H11.4現在) それらの方法を真似した方の中には、「連射」に失敗したり、飛距離が出なかったり、逆に暴発して非常に危険な目に遭ったりした人もいるのではないかと容易に想像できます。また、水平でなく垂直に飛ばして火のついたアルコールを真下で浴びたり、水平に飛ばしていても暴走して思わぬ方に飛び、やはりアルコールを浴び火傷をするなどの事故報告がありますので細心の注意が必要です。
ここで紹介する物は、すべてケニス株式会社の米谷彰さんと村田直之さんが多くの方の演示を参考にして実施していた手法を、海老崎が改良、追試しこれまで事故なく100%の成功(H14年末まで実施回数200回超)を収めた方法です。以下の特徴を備えています。
1.実験室程度の広さでは1.5Lは必要なし。500mlのペットボトルを用いる。軽いので糸との摩擦も小さい。
(教室の教壇程度の実験ではもっと小さい245mlの「ちびレモンロケット」でも十分です。)
2.毒性のあるメタノールでなく、薬局などで購入できるエタノールを使用する。
3.しかもその量はこれまでの多くの文献にある量の1/5〜1/10程度でよい。
(過去の文献には10mlというとんでもない量を記載しているものもありました。)
4.糸に沿って実験室の端から端程度は簡単に飛ぶ。(糸に沿って走る、と言った方が適切かも・・・)
5.1分もあれば連射可能。
6.ダイナミックな演示が可能で、授業だけでなく各種実験教室や実験ショーに使える。
この演示方法はもちろんどんどん参考にして下さって構いませんが、やり方を間違うとやけどや火災などにつながる可能性も当然あります。予備実験を十分して、消火器やバケツ、濡れ雑巾などの準備をしてから行って下さい。また、この方法は他の方の方法と違い小さいペットボトルを用いるなど安全にも十分配慮していますが、万一、この方法を参考にして火災等の事故が起こっても当方は責任を負いませんので悪しからず・・・
また、この方法を冊子等で紹介するときには、オリジナル明記はもちろんのこと、上の「安全上の注意点」もしっかり記載して下さい。
◆実験の概要図 以下のようにします。釣り糸はやや太めの方が滑りやすいようです。またノーズコーンは空気抵抗を削減し、飛距離をかせぐためにつけます。(飛距離が必要ないときはつけなくても構いません。) チャッカマンでの点火は釣り糸を燃やさないように装置の横から火を近づけるか,または釣り糸の端に木の棒などを結びつけ,その棒を横向きに持つと,点火口上部には何もなくなりますので糸切れ等の心配がなくなります。点火するとすごい勢いで15m程度は軽く進みます。糸がほんの少しでも傾いていれば、下り方向では壁にブチ当たるくらいの勢いです。筒は長めの方が直進安定性が増します。 |
左から、エタノール入り霧吹き、風船用両方向空気入れ、ノーズコーンつき500mlペットボトル、釣り糸、穴あきフタ、糸通し用のペンの筒、チャッカマン(ガスライター) |
(写真左) 必要物品。他にセロテープかビニルテープが必要です。 (写真右) 釣り糸、5mmの穴あきフタ、糸通し用のペンの筒 |
5mmの穴はドリルであけます。釣り糸はやや太めの方が良いようですが、滑りがよければ何でも構いません。筒も滑りやすい物を使いましょう。 |
噴霧量が一定している目の細かい霧吹きを用いることにより、エタノールの分量が把握でき,また,気化に時間をかける必要がなくなりました。過去の文献等には記載のない手法で、今回の目玉の一つです。 |
(写真左) 虫除けスプレー容器を用いたエタノール霧吹き。 (写真右) 両方向空気入れにビニルチューブをつけたものとノーズコーンをつけた500mlペットボトル。(かならず炭酸系を用いる) |
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◆実験方法
1.風船用空気入れの先に長さ30cm程のビニルチューブを差し込みPET内に50回ほど空気を送り込み乾燥させます。これによりすぐに連射可になります。(ボトル内が乾燥していないとアルコールが水に溶け,気化せず失敗します。)
2.エタノールは目の細かい霧吹き(虫除けスプレーなどの小さい容器が最適)で数回PET内に噴射します。目安としては,1回の噴霧量が0.2mlの霧吹きでは3回ほどで良いでしょう。これにより気化がすぐに終わりピペットで入れた後のように振り回したり湯につけて温めたりが全く不要になりました。(霧吹きの種類により噴霧回数は異なります。試しに霧吹きに水を入れ,数十回噴霧して噴霧量を量り,1回あたり何ml噴霧しているかを計算して下さい。500mlのボトルでは0.4ml〜0.6mlの噴霧で必要十分です。ボトル内側に少々液体がついていてもOKです。)
3.フタには5mmの穴をドリルであけます。アルコール噴霧後にすぐに取り付けて下さい。
4.釣り糸+使用後のOHP用マジックの筒を利用しました。 (滑りやすい組み合わせなら何でも可)
5.炭酸系500mlボトルの先に紙又はOHPシートで作ったノーズコーンをつけます。(空気抵抗の低減のため。)
6.糸は手持ちだとゆるんだり、飛んできたとき怖いのでピンと張って壁などに固定します。
7.糸に通した筒をボトルにセロテープかビニルテープで貼り付けます。脱落しないように長めにしっかり3カ所以上貼り付けます。
8.フタの穴部分にチャッカマンで点火します。糸を燃やさないように素早く穴の横から火を近づけて下さい。点火時に糸が燃えて切れるのを完全に防止したいときは、点火部分上部の糸にアルミホイルなどを巻き付けておくか、その部分だけ糸の代わりに針金を取り付ければ良いでしょう。また、点火時は絶対に穴のすぐ後ろに顔を近づけてはいけません。かなりの熱風が来ますし,万一,液体アルコールがボトル内に多く残っていれば,火のついたアルコールを顔に浴びるおそれがあります。なお,下図のように点火時に糸切れがない工夫をすれば万全です。
釣り糸の端に圧着端子をつけ,木の棒の先にフックをつけておくと,ロケットに糸を通したあとに木の棒に釣り糸を引っかけられる。この方法だと点火時の糸切れがなくなり万全! ※糸を通す筒は写真のものよりもっと長い方が直進安定性が増し,実験しやすくなります。 |
以上で15〜20mは簡単に走ります。糸の傾きが少しでもあると、低い方に飛ぶとき壁にブチ当たるくらいの勢いがあります。危険があるとすれば、エタノールの入れすぎによるボトルの発火または火のついたアルコールの噴出と、取り付け不良によるボトル脱落程度です。どちらも必ず消火の準備をし、絨毯など燃えやすい床の室内などでの実験を避ければ大きな事故にはつながることはないと思いますが、安全には十分配慮して下さい。(くどいですが事故の責任は負いませんよ!)
◆実験成功のポイント
☆ボトルの乾燥方法 ☆目の細かい霧吹き使用 (1分もあれば同じボトルで2発目の発射可です。)
◆注意!
※お茶など非炭酸系のボトルでは絶対に実験しないこと。たとえはじめの数回は成功しても,同じボトルで繰り返すと点火の瞬間にボトルが破裂するなどの事故が起こります。破片は10m以上飛び散ることがあり目などに当たると大変です。また,私は同じ炭酸系ボトルを100回以上使っていますが,アルコールの量を守り,表面に傷が付かないように注意して演示していますのでこれまで破裂・変形などはありません。しかし,私のように頻繁ではなく,たまにしか演示することがないようなときは,実験の度に新しい物に交換した方が無難です。
※風が強い室外での演示は点火がしにくく,また危険なのでやらないこと。また,気温が非常に低いときはエタノールが気化しないので演示には向かない。どうしても演示の必要があるときは,エタノールスプレーとペットボトルをずっと懐に入れて温めておき,スプレー後,直ちに点火してみる。それでもダメなときは潔くあきらめるか,ボトルを他の方法で温めてみる。決してエタノールの量が不足しているわけではないので,絶対に多量にスプレーして点火しないこと。