エタノールの燃焼を用いた作用反作用実験 


(「物理教育Vol.48 NO.2」掲載。科学の祭典等で多数演示。)

(サイエンス展示・実験ショーアイディアコンテスト 日本科学技術振興財団会長賞の受賞理由である「安全性を特に高めた手法」として評価されたものの一つ)

・・・「物理教育」にならって,論文調で記載します。

1.はじめに

 アルコールの燃焼を用いて,ペットボトルロケットを飛ばしたり,空き缶に差した紙コップを飛び上がらせる演示は以前から広く行われているが,その多くがメタノールを用いる手法である。メタノールはエタノールに比べ気化しやすく,また空気中での爆発可能濃度の範囲が広く,実験の失敗が少ないのが主な理由であるが,今回は,毒性がなく,入手や管理がしやすいエタノールを用いる手法を研究した。

 エタノールに限らず,アルコールを用いる実験では,特に火災や火傷などの事故に気をつけなければならない。過去の事故事例から考えた安全策は「点火時に液体のアルコールをペットボトルなどの容器内に残さない」ということである。ピペットで適量を測ったとしても,気化する前に点火しては爆発しないことがある。もちろん適量以上のアルコールを入れれば,液体のアルコールが吹き出したり,残火が出たりする。「容器を良く振る」や「ドライヤーで容器を温める」といった気化法は時間が掛かる。そこで,1回ずつの噴霧量が安定している目の細かな霧吹きを利用して,爆発に必要な量だけのエタノールの注入を行う方法を研究した。これだと気化に時間を掛ける必要がない。

 「液体を注入しない」  「適量を噴霧する」

という2つの安全策を達成するために,使用する霧吹きは,できるだけ細かい霧を出すことができ,かつ,1回あたりの噴霧量が0.2ml以下で安定している物をさがす。無水エタノールへの耐性がわからない容器も多いので,実験時のみガラス容器から霧吹きに取り分けるようにする。

2.空き缶と紙コップの実験

 空き缶にアルコールを封入し,紙コップなどをかぶせて点火し,飛ばすという実験は広く知られたものであるが,霧吹きを用いて行う方法をまとめておく。

・実験用空き缶

 まず,左図のように,350ml空き缶の上部をニッパで切り取り,ケガをしないように切り口をラジオペンチで押しつぶす。側面下部に直径5mmの点火用穴を,ドリルで1つ開ける。

 エタノール蒸気の空気中での最適爆発濃度は決まっているが,完全に気化しているかどうかまで判断することはできないので,飛び上がる紙コップの距離を測定して調べたところ,350ml空き缶では噴霧量0.2ml〜0.3ml程度でほとんど同じ最適爆発が得られるのがわかった。それ以上でも爆発するが,噴霧量が多いとエタノール液体が缶内に残り,爆発後も火が消えず危険であった。0.1mlの時は爆発の威力が小さかったが,霧吹き利用で気化が確実に起こるため爆発しないということはなかった。したがって本実験では「噴霧量0.2ml」を採用した。  

・紙コップを差し込む

 また,紙コップの差し込み(左図)の強さの違いによって,垂直に飛び上がる距離は変わるが,ある程度以上強く差し込んだときには,その距離がほとんど同じ(±0.2m程度)になることがわかった。これは意外な結果だったが,おかげで後で記述する「作用反作用の実験」の開発につながった。また,差し込みが弱いときは飛ぶ距離も減ってくるが,その距離を一定にすることは難しかった。

 点火にはチャッカマンを用いた。また爆発後は風船用両方向空気入れで5回ほどポンピング して内部の乾燥と換気をすれば 連続実験が可能であった。              

3.軽量台車を用いた作用反作用実験容

 厚手の段ボールをシャーシにし,すき間に金属棒を通して車軸とし,それに軽いプラスチック製のタイヤを取り付けた,非常に軽量の台車を製作した。エタノール爆発の手法が完成しているので,残火もなく,段ボールに火が移る心配もない。これに紙コップを取り付けた空き缶を装着し,点火することにより,「紙コップをエタノールの爆発により後方へ放出することで前進する車(作用反作用カー)」の実験ができる。

軽量台車による作用反作用実験

(「スーパー段ボールカー」と命名・・・)

 過去には力学台車とバネにより作用反作用を見せる実験が有名であったが,本実験はダイナミックで演示効果が高く,しかもバネの反動のようにその大きさがわかりにくい物でなく,純粋に「大きな質量を速いスピードで後方へ放出するほど前進する」ことが瞬時に理解できる。前述したが,この実験は「エタノールの噴霧量を同じにして,紙コップをある程度以上強く押し込むと,垂直に飛び上がる紙コップの高さはほぼ等しい」という手法の開発により,ほぼ同じ爆発力を何度も作り出すことに成功したことによるところが大きい。このことは多くの中学校教科書で紹介されている「水ロケットによる作用反作用実験」にはない,以下の長所を備えている。

 ・周囲を水などで汚す心配もなく,何度も実験室内で手軽にできる。
 ・紙コップの差し込みに強弱をつけることにより,簡単に放出する紙コップの速さを変えられる。
 ・かぶせる紙コップを増やしていくことにより,確実に放出する質量を増やすことができる。
 ・実験教卓の上で実験できるので,台車の移動距離がすぐにわかる。

 なお,台車の質量94,空き缶の質量49g,紙コップの質量は1個5.3g,2個10.6g,4個21.2g,8個42.4gである。

 毎回の台車の移動距離については,爆発力がほぼ等しいと推測されるとはいえ,厳密には一定でなく,正確な数値や平均等を出してもあまり意味が認められないので,台車の移動距離の範囲を記す。

 ◆ 紙コップを強く差し込んで爆発力をほぼ一定にした時:(各10回測定)

 ・紙コップ1個 25cm〜35cm(図左)

 ・紙コップ2個 50cm〜60cm

 ・紙コップ4個 90cm〜120cm

 ・紙コップ8個 150cm〜185cm(図右)

・紙コップ1個

・紙コップ8個

 ◆紙コップを軽く差し込んだ時:

 差し込み強度を一定にしにくく,飛距離のデータにはばらつきが見られた。しかしどれも強く差し込んだとき よりはあきらかに距離が短くなった(約半分以下)。  エタノールは同じ量でも,軽く差し込んだ時は,垂直に飛び上がる紙コップの距離がかなり低くなることから,紙コップの飛び出す速さが小さいと考えられる。

 以上の実験より,「台車から後方に放出する物の質量が大きいほど,速さが大きいほど,台車が前に進む速さが大きくなる」という作用反作用の基本的学習事項が理解できる。

4.終わりに  

 本論文で紹介したもの以外にも,小型霧吹きを用いたエタノールの燃焼を動力源にした実験をいくつか考案した。500mlのペットボトルをテグスに沿って水平に20m以上安全・確実に走らせる手法も完成し,教員研修や科学の祭典などで披露した。しかし,その派手な演示のせいで,丁寧な予備実験もせずに,安易に実演されることが多くなった。

 今回報告した「作用反作用実験」では,大きな事故が起こる可能性は低いと考えるが,アルコール燃料ペットボトルロケットはそうとも言えないと考える。ぜひ,論文などを見て安易に人前で演示したりせず,自分自身が安全について納得できる手法を確立するまで予備実験を十分繰り返して頂ければ幸いである。

 また,本実験は中学校向けの定性的な実験であり,高等学校等で応用されるときは,台車の質量や移動距離などに,数式的な関連性を持たせられるような,定量的実験を開発していただければと思う。

(開発された方,ぜひご教授下さい!)

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