奥の細道挿入句の読み方5

 

五月雨の降りのこしてや光堂

〈推測する読み方〉
五月雨の降る中にたっている光堂。何十年何百年もの雨に耐えてきたその姿を見ると、低くたれこめた空の下薄暗い中に、一際光り輝く光堂の美しさが目にしみる。
〈体感する読み方〉
あたりは雨がしとしと降ってたっぷりと水を含み、重くのしかかる感じの中に、光堂は
そこだけ取り残してあるように、からっと光っていてほっとした気分になる。そして三代
将軍の威光が建立の当時のままに、今も輝やいていると芭蕉は感慨に耽りながら雨の中に立っている。読み手は光堂の金色がまばゆい感じに浮かぶ雨の中に臨場している。


蚤虱馬の尿する枕もと

〈推測する読み方〉
蚤や虱で悩まされる貧しい旅宿。同じ屋根の下に馬を飼っているので、馬の小便する音
が枕もとに聞こえる。これも旅の風物の一つか。
〈体感する読み方〉
蚤も虱とともに私は馬の尿する音を聞いている。それにしてもすごいなあ。蚤も虱ももぞもぞしているが一緒に寝ていると思えばわが友だ。これも乙なものだよ。と芭蕉は心やさしく寝ている。読み手は肌に虫をかこっているのを体感し風流な芭蕉に同化している。


涼しさを我宿にしてねまるなり

〈推測する読み方〉
夏には何よりも有難いこの涼しい環境を、まるで我家のようにくつろいで、お国言葉で申せば「ねまらせて」もらいます。
〈体感する読み方〉
ここは涼しくよい気持ちだ。気をゆるして自分の家のように思え有難いことだ。清風が土地の言葉で「ねまれ」と言ってくれた。それでは久し振りに心安らかに「ねまらせ」てもらおう。読み手は芭蕉が涼しくリラックスし、おどけて「ねまる」と言葉をまねしている嬉しさが伝わり同化する。


這い出でよ飼屋が下のひきの声

〈推測する読み方〉
(土地の人の蚕を飼っているところは、まるで万葉の世界。ひきがえるが鳴いているところまで万葉の歌そっくりだ)。なつかしいひきがえるよ飼屋の下から出てきて昔ながらの姿を見せておくれ。
〈体感する読み方〉
ひきがえるよこんな飼屋の縁の下にいるのか。声だけでなくお前の姿も見たいから、出てきておくれ、そして私の心を楽しませてくれ、と芭蕉は縁の下を覗きこんでいる。読み手はひきがえるに出て来て欲しい気分になっている芭蕉に同化して飼屋の庭に臨場している。

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