磯野香澄俳句の世界五の四琥珀彩の四季より

面白絵解き俳句 1

雀蜂座敷総立ち湖畔宿
すずめばち ざしきそうだち こはんやど

俳句の会で湖に面した大広間。向い合わせにお膳がずらっと並んでいる。
そこに座った皆は挨拶が終るのをもどかしく待っている。
「では皆さんごゆっくり」と幹事さんの言葉で皆はお箸を取ろうとした。
其の時大きな羽音がして、五センチもあるかと思える大きい雀蜂が飛んで来て、お膳のご馳走に止った。
そのお膳の人は怖いからのけぞって後へ逃げた。近くの人も立ち上がって退却した。
そのあおりで蜂は二、三人横のお膳に移動した。その近くの人達も大慌てで逃げた。
もう皆怖いので五十人ほど座っていた人は全部逃げた。大広間はご馳走が一杯乗ったお膳の列と蜂だけ。
皆は隣の部屋へ入ってしまった。
襖の近くにいる者は襖を細めに開けて見ている。大広間に美しく並べられたお膳。
一匹の大きな蜂が悠々とご馳走にありついている。思う存分食べた蜂はビューンと飛んで行った。

山頂や合わす唇大雷鳴
さんちょうや あわすくちびる だいらいめい

ワンダーホーゲルの人達に人気のある桟敷ガ岳に登った。
登山者には散歩位の山だがマイカー族に取ってはハードなものだ。
最初九十九折れの細い道を幾曲りしたか、それが終わったかと思ったら道が無くなった。壁のように垂直の所に細い雑木がしがみついたように生えている。人が擦れた形跡がある。『ええっこんな所を攀じるのか。登れるか』手で持てる所、足が掛けられる所、目測で考える。『何とか行けそうだ』こんな垂直に近い様なとこ、小学校のロクボク以来だ。やっとクリヤーしてそれから比較的楽な道だが、ようやく山頂に辿り着いた。
山頂の標識があった。憧れていた所へやっと来たのだと感激で二人は抱きついた。そして唇を合わせた。途端に激しい稲妻、ピカッゴロゴロッ頭のすぐ上で大きな雷。雨も落ちてきた。山頂の雷は怖い。大慌てで走って下山した

月ヶ瀬の梅一望や崖の茶屋
つきがせの うめいちぼうや がけのちゃや

奈良県の北部に月ヶ瀬と言う梅の名所がある。
そこは地震で断層が広がって谷を造っているので、山頂と思われる所が高原になっている。谷の両側が同じ高さで地面の裂け目が始まる所だ。辺り一面に梅が沢山植えられていて、変わった地形の様子と言い、谷川の流れが急に穏やかになったり、名所だけあって楽しい所だ。下の道路から見たら山頂と思えた所は梅畑だった。その端の崖の一番上に道がついている。崖っぷちだから見晴らしも良い。そこには観光客目当ての店が並んでいた。崖にも梅が沢山咲いている。一休みしてゆっくりとこの変化に富んだ梅どころの景色を見たくなった。そう思ったら丁度適当な茶店がある。早速入ってコーヒーを注文する。景色を見るのに窓際が良いだろうと崖に咲いている梅も良く見える処に席を取った。最高の眺めだ。月ヶ瀬でも此処が一番のお勧めの場所だと思える。崖の下も見ようと座っている窓の真下を見た。下には地面が無い。空中に居る気分だ。
こんな茶房、足をドンと踏みつけたら床は落ちてしまいそうだ。
そう思った途端じっくり座っておれない気分になってそそくさと店を出た。
あのよい景色を見た優雅な気持ちも何処へやら。二人は黙って引き返した。

平成十九年二月   磯野香澄

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