推敲指導8

原 樋伝い石榴の花は高々と
推 樋伝い石榴高々花開く


 原句では内容があいまいで何を言っているのか判りません。又“樋を伝う”と書いた場合石榴が、蔓性の植物の様に思えて不自然です。そこで中七を“石榴高々”と推敲した場合、同じ様に“樋伝う”と書いてもそれが不自然では無くなりました。そして下五で“花開く”としますと、これで背の高くなった石榴が高い所で花を咲き初めた事が判って、伸び過ぎた石榴でも高い所で花が咲いたと喜んでいる事が書けました。又“高々”と言う言葉は推敲する余地が有りますが一応こうして置きます。

原 桶を打つ梅雨のメロディー曲浮かぶ
推 桶を打つ梅雨の雨足曲浮かぶ


 原句では“梅雨のメロディー”では梅雨は季節を指す言葉ですから、そのメロディーとは“桶を打つ”との整合性がありません。又“梅雨のメロディー”とは比ゆの表現になりますので読み手に実景が見えません。そこで“梅雨の雨足”としますと梅雨独特の雨の降り方を意味しますので、そこに音階を感じたり、雨だれが桶に落ちる音のリズムを聞いていると、曲が浮かんで来たと言う事になって、音の世界を一句にした作品になりました。

原 竹薮に椎の木聳え夏いきいき
推 竹薮に椎の木聳え初夏の空


 原句上五で“竹薮に”と有りますがこの場合この言葉が生きていません。そして下五で“夏生き生き”となっていて、椎の木が夏でも生き生きしていると言う説明になっています。そこで下五を“初夏の空”としますと、初夏の空に椎の木が聳えて生き生きした様が見えます。そして竹薮に椎の木が一本突き出て茂っている景色が見えて、原句では働きをしなかった“竹薮に”の言葉が生きて、雄大な風景が書けました。

原 夕立やシャツを投げ込む部屋の中
推 夕立や部屋へ投げ込む洗濯物


 原句では身近な風景ですので、誰でも容易に意味が判ります。でも俳句として又日本語としてこれは可笑しい風景になります。どうしてかと言いますと“シャツを投げ込む”と言う事はシャツを一枚だけ投げ込んだ事になります。又“部屋の中”とは“投げ込む”との関係が可笑しいので、投げ合う部屋の中になります。“投げ込む”とするなら“部屋へ”と言葉をきちっと使う必要が有ります。又下五で“洗濯物”として複数の表現にします。これで夕立で大急ぎで濯ぎ物を取り入れている様が書けました。

原 松並木さつき根元に通勤道
推 松並木裾にさつきや通勤道


 原句では“根元に”となっていますが、これでは松並木の全ての根元と感じるのは無理です。そこで“裾にさつきや”としますと並木全体にさつきが植えられていて、松の青さとその下にさつきの赤い色が松の幹の色を介して、美しい道が続く景色になりました。この場合作者は松並木とさつきの様子を見ているのですが、読み手はその美しい道を自転車を漕いでいる風景が見えます。この場合“通勤道”と道を書いていますが、そこに今、作者が自転車で走っている状態が書けているのです。

平成二十一年七月

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