推敲指導7

原 若葉映ゆ八瀬のせせらぎ土手で宴
推 若葉映ゆ八瀬の川原や茣蓙で宴


 原句の一番の難点は若葉映ゆ≠ニ八瀬のせせらぎ≠ニ土手で宴≠フ三つが同列でその中のどれを主として書きたいのか判らない事です。そこで川原で宴をしている事を主として推敲してみます。上五の“若葉映ゆ”を中七に繋けます。“八瀬のせせらぎ”のせせらぎを省いて、“川原”を入れます。“若葉映え八瀬の川原や”として“や”で一旦切ります。これで十分せせらぎの音は聞こえています。“茣蓙で宴”としますとその状態が見えて、川原の良い風景の中で宴をしている情景が書けました。

原 物干しに夏至の月待つ缶ビール
推 物干しで夏至の月待ち缶ビール


 この作品の面白い所は原句では缶ビールが月を待っている事になります。この光景を想像すると、物干台に擬人化された缶ビールが月の出を待っているアニメの世界です。俳句としてそれは可笑しいので物干し“で”と月待“ち”と助詞を二字替えるだけで、人が月を待っている事になりました。又この作品の良い所は中七“月待ち”で切って下五で一気に“缶ビール”とした所で省略の仕方は抜群です。

原 葉の闇に朱を点しいる花石榴
推 葉の陰に朱を点じおり花石榴


 原句では比喩の作品になります。現代俳句は比喩の世界をどれだけ高度に言うかですが、この場合作品の良さは作者の自慢になっています。そこを超えて本物の俳句は読み手に良い感じを受け取って貰う事ですから、この作品を一段高めて“葉の陰に”として“朱を点じおり”と普通の表現にします。これで石榴の花の可憐さが感じられて、そんな細かい所を発見した作者の目や優しさが書けました。

原 青楓ならの小川に風が吹く
推 青楓のならの小川や風が吹く


 原句では“青楓”と“ならの小川に風が吹く”の二つが別々になっています。一句が二つに分かれて繋がっていないのです。又中七の“ならの小川に風が吹く”と下五が繋がっています。結果的に上五と中七下五がはだはだになっています。そこで上五と中七をくっつけて反対に中七と下五を切ります。“青楓のならの小川や”と“や”切れにして“風が吹く”とします。青い楓が沢山美しい葉を見せている下に小川が流れている。そこへ風が吹いて揺れている風景になり、古典的な風雅な情景が書けました。

原 雌を追う鳩の求愛河川敷
推 雌を追う鳩は首下げ河川敷


 この作品は鳩の行動をよく見ています。ただ“求愛”と熟語で書いてしまうと情景が見えませんので、そこでどんな風に求愛していたかを具体的に書きます。たとえば首を低くして雌を追っているとしますと“首下げ”として“雌を追う鳩は首下げ”とするとその状態が見えます。その後に“河川敷”としますとこれで河川敷で鳩が求愛している情景がイメージ出来て面白い作品になりました。

平成二十一年六月

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