■ 「硬貨投げ」の実験
硬貨を投げるとき、表が出るか裏が出るかは前もってわからない。便宜的に
としよう。このような1と0は、「確率変数」である。
「確率とは何か」を使うと、このような硬貨を投げるという実験(試行)が簡単にできる。試行は10万回まで繰り返すことができる。
「確率とは何か」では、
とし、最初の40回までの試行結果を表示する。
例えば、硬貨を5回投げると、
などと、硬貨を5回投げた試行結果が出る。もちろん、再度、硬貨投げの実験を行うと、
などと、異なった試行結果が出る。
とするなら、
は
となり、試行回数が多くなると、このような1と0の列は長いものとなる。
1(またはH)がいくつあるかを数えて、試行回数で割ると、「表が出た割合」が求まる。例えば、
ならば、
である。
試行の回数が多くなると、この割合は「表が出る確率」に近づいていく。
硬貨に何ら細工が施されていない場合、「表が出る確率」は「裏が出る確率」に等しく、1/2と考えてよいだろう。
■ 「ベルヌーイの試行」とは
「ベルヌーイ」とは、確率論で大きな業績を残した数学者の名前で、以下の条件を満たす実験(試行)を「ベルヌーイの試行」という。
■ 確率分布
「ベルヌーイ」の確率分布は、どのような分布になるのか。
「確率とは何か」を使って、硬貨を40回投げて、表示された「H T T H H・・・」の結果を「1 0 0 1 1・・・」に書きなおして、「正規分布とは何か」を使ってヒストグラムと基本統計量を得た。
「1 0 0 1 1・・・」という1と0の列(数列)の和は、「表が出た回数」である。平均が0.55ということは、
なので、40回の試行で表が22回出たことになる。
「確率とは何か」を使ってシミュレーションすれば分かるが、試行の回数を多くすると、表が出る割合は0.5に近づく。
したがって、ベルヌーイ試行の本当の確率分布では、2つの棒の高さは等しいはずである。硬貨を投げる実験は、「ベルヌーイの試行」を繰り返すことで、確率分布は「ベルヌーイの分布」と呼ばれる分布になり、表と裏の出方はほぼ同数期待されるため、この分布の平均値(期待値)は0と1の真ん中である0.5になる。
分布の平均が0.5というのは、けっして表と裏の中間の状態(硬貨が立っているような状態)を意味するのではない。
■ 平均と分散
「ベルヌーイの試行」によって得られる確率分布(「ベルヌーイの分布」)は離散分布である。「離散」とは確率変数が離散型で、0と1などのように「とびとびの値」を取るという意味。
離散分布の分散をσ2とするなら、
によって与えられる。p(x)は確率で、μは期待値である。
したがって、硬貨投げの場合、
であるから、分散は
となる。分散の平方根を標準偏差と呼び、これはσで示される。したがって、標準偏差は
となる。
試行回数が多くなると、μもσも0.5に近づく。
例えば、「確率とは何か」を使って、試行回数を
などと、徐々に多くしてみてください。表の出た割合(相対度数)が、少しずつ0.5に近づいていくことが分かります。
■ この講義の意義
「ベルヌーイの試行」は、「二項分布」という確率分布を理解するためには、重要な概念である。そして、ブラック・ショールズ式などのオプション評価モデルを理解するには、「二項分布」を理解しなければならない。
また、硬貨投げ(硬貨に何の細工も施されていない場合)の実験では、1回のベルヌーイ試行において表が出る確率は
と分かっている。
ところが、現実の相場の世界において明日、
という2つの可能性があるとき、上がる確率と下がる確率を、それぞれ等しいとする根拠は、特にない。もちろん、便宜的に等しいと仮定することはできるが。
「ベルヌーイの試行」は、オプションの理論などにも応用できるため、大切である。が、実際に理論を使うときは、「何が前提条件か」をきちんと理解しておくべきである。もし、相場が上昇する確率と下落する確率が等しいと仮定されているならば、その仮定(前提)がマーケットの状況において妥当かどうかを判断するのは、最終的には投資家なのである。