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ダクマ〔沈黙の塔〕(Dakhma)

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 屋根のないイランの「沈黙の塔」。昔は死者を置いておくために使われた。死体がそこに置かれ、ハゲワシがさらって空へ飛んでいった。 point.gifVulture. 大きなものは今でも残っている。この世のものとも思われない鳥が死体の肉片を運んで安置した谷間へ、船乗りシンドバッドが冒険したという話があるが、これは、伝説上の賢人がと再生の儀式を行うために沈黙の塔にしばし逗留した、という話からきたものと思われる。


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 西洋人は、ダクマ〔沈黙の塔〕と鳥葬とを直接結びつけるという誤りをおかしている。もちろん、バーバラ・ウォーカーもそうである。しかし、ダクマは、死体を聖なる土と火から遠ざけようとしたところから帰結した葬法にすぎない。

 古代のペルシア人は土葬を原則とした。一方、マギ〔マゴス僧の複数形〕の導入した葬法は、独特のものであった。
 マギによって導入されたこの葬法は、アヴェスタが編纂された時代には、ほぼ完成されていたものと考えられる。アヴェスタのウィーデーウ・ダード書にはこの葬法に関する規定が詳しく述べられ、そこには沈黙の塔に関する記述も見出せる。それによれは、死体は、人家や草木、さらに水や火より遠ざけられたの頂上に、大地と直接接触することを避けて、石で作られた床の上に置かれなけれはならぬとされた。この目的のために建造されたのがダクマ(沈黙の塔)である。

 ダクマは、高さ20〜30フィートの厚い壁で囲まれた円筒型の建造物で、その天井は空に向って開いている。入口は東の方位に作られ、堅く錠をかけられた鉄の扉がつく。塔の内部は、真中に位置する地に垂直に穿たれた井を囲んで、三重の輪になった石製の台が設けられている。この台は内側に向って傾斜し、雨水等が井に流れ込むような構造である。大なる輪の台にある*くぼみ*には成人の男の死体が、中なる輪のそれには女の死体が、小なる輪のそれには子供の死体が各々置かれる。

 これらのくぼみと中央の井との間は狭い溝で結ばれ、液体分は最終的には井の中に流れ入るようになっている。そして、井の底は砂と木炭の層になっており、液体中の不純物が濾過されて、大地を汚すことなく、地中に水分が吸収されることになる。

 さて、二人の死体運搬人によって塔の内部に運ばれた死体は、裸にされる。これは、人がこの世に生まれ出るとき裸であった故である。さらに、この塔へ入る時の死体は、誕生の時と同様に頭からである。と生とは表裏の関係にあり、この事を儀礼は象徴する。ゾロアスター教徒は、猛禽を、死体を食うように神が創り給うたと考える。それ故、この鳥に自己の死体を与える事は、人間にとって、この人生最後の布施行である。死体が塔内に置かれるや、猛禽はたちまちのうちにそれを食いつくす。後に残るのは骨のみである。この骨は、強い太陽と乾燥した空気にさらされて、数日のうちに白くなる。これら漂白された骨は集められて、中央の井に投げ込まれる、そして、くだけて土と化す。この土は層をなし、塔を洗う雨水を濾過することになるのである。かくてゾロアスター教では、富める者も貧しき者も、男も女も、大人も子供も、すべてがによりこの土となって混じり合うのである。
 以上のように、この鳥葬はその奇異なものにもかかわらず、衛生学上からは非常にすぐれた葬法であった。なお、教徒にとってこのダクマを建設することは最大の功徳の一つとされている。(岡田明憲『ゾロアスター教:神々への讃歌』p.34-38)


[画像出典]
<http://www.skiouros.net/voyages/iran2001/ir2001_413.en.html>