「霊感」の源としての9体の女神たち。「霊感」 in-spirationは字義的には、「女神の精気」 I-deaを吸い込むという意味である。ミューズは本来は3体の神、原初の三相一体の女神であった。その中の第1がムネーモシュネー(「記憶」)で、詩人はムネーモシュネーによって、聖なる英雄物語を記憶することができた[1]。
7つの音の高低からなる音階はミューズの発明したもので、彼女たちの奏でる天界の7層の「音楽」にもとづくと一般に信じられている。スキピオ(紀元前237-183。ローマの将軍、政治家)は、「天界の7層は7つの異なった音を出し、 7からなる数は存在するすべてのものの核である。そしてこの天のハーモニーを竪琴でまねる方法を知っている男たちは、音の跡をたどって至高の領域まで戻って行った」と言っている[2]。音楽一般を司るタレイアに率いられた古典世界のミューズたちは、クレイオ(歴史)、カリオペー(英雄詩)、テルプシコラ(舞踊)、メルポメネ(悲劇)、エラトー(恋愛詩)、エウテルペ(横笛、伴奏)、ポリュヒュムニア(聖歌)、恒星の中の、空のアプロディーテーと言われるウーラニアー(天文)の9人であった。アレクサンドリアにあるミ ューズたちの神殿は博物館であって、「古代世界が経験した近代世界に男最も近いもの」とされた[3]。この神殿は、異教徒が学問をすることを嫌悪したキリスト教徒によって破壊された。
Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)
ムーサ(「山の女神たち」〉は、もともと三人(パウサニアース・第九書・二九・二)であったが、これは三様の女神の狂乱の姿である。ゼウスが彼らの父だと主張しているが、これはずっとのちのことで、ヘーシオドスはムーサのことを大地母神と空(ウーラノス)とのあいだに生れた娘たち〔9人〕だと言っている。(グレイヴズ、p.84)
パウサニアースによると、三人のムーサとは、メレテーMelevth〔学習〕、ムネーメーMnhvmh〔記憶〕、アオイデー=Aoidhv〔歌唱〕である。
このように、ムーサたちの数は、デルポイやシキュオーンSikyonでは3人であるが、レスボスでは7人とされ、ヘーシオドスは彼らを9人とし、これが正規と考えられるにいたった。最も古い時代には彼女たちはトラーキアのピーエリアPieria(オリュムポス山北麓)とボイオーティアのヘリコーン山(ヒッポクレーネーの泉)に崇拝の中心を持ち、ピーエリデスPierivdeV〔ピーエリスたち=ピーエリアの女たち〕と呼ばれた。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)