トーマス・リアモントはエルセルドゥーン Erceldoune のトーマスとしても知られていた、 14世紀のスコットランドの詩人-魔法使いであった。エルセルドゥーン(現在のアールストン)は「エルセルの丘」の意で、サクソン族の女神エルセル Ercel またはウルセル Ursel またはホルセル Horsel の住みかであった。ホルセルはトーマスを愛し、彼に秘法の手ほどきをした「妖精の女王」であった。トーマスはハントリー・バンクで、この女神の地上における化身である、当時の「エルファムの女王」に呼び止められた。女王は彼に魔女崇拝の秘密を教え、すでにキリスト教を棄てていた彼に「真のトーマス」として再び洗礼を施した[1]。
『トーマス・ライマーのバラッド』によれば、妖精の女王はトーマスに3つの道を示した。天国に至る道、地獄に至る道、「美しい妖精の国」に至る道、の3つである。第3番目のものは、キリスト教的でも反キリスト教的でもない場所に至る道であった。彼がこの3番目の道を進んで行くと、「血の川」のほとりにやって来た。この川は、ギリシア人の生誕の川であるステュクス川、または、トール神が先住民族の崇拝した神々の国へ赴く途次に渡った、女巨人たちの経血の川と比較しうる。ここからトーマスはいとも不思議な場所に入り込んで行った。「40日間、昼となく夜となく、彼は膝まであ る赤い血の川を徒歩で渡って行ったが、太陽も月も昇らず、聞こえてくるのは海鳴りの音だけであった」[2]。
この伝承は、女性の生命-精髄との霊的交渉によってもたらされるタントラ風の啓示を暗示している。妖精の女王は、自分の膝には「赤ブドウ酒」claret wine があると述べ、そこに頭を載せるようにとトーマスを誘った。 claret の原義は「知覚」または「啓示」であった。普通の英語用法では claret は「血」と同義語でもあった。ケルト神話では、妖精の女王は「赤い蜂蜜酒」red mead を差し出したが、妖精の女王はマブ Mab(Mead)であるから、この酒は女王自身のことでもあった[3]。トーマスの北欧版はサー・ボスマーであり、彼が向こう岸に立っている小妖精の女王のもとへ、「渦巻く洪水」を泳ぎ渡って行くと、女王は、「ようこそ、サー・ボスマーよ! 我が家へおいでなさい、私はあなたのために蜂蜜酒とブドウ酒を造りました」と声をかけた[4]。上述のような話は、経血 Menstrual Blood は魔女が霊的な交わりの際に用いるブドウ酒である、と主張する聖職者たちの考えをさらに強固なものにする働きをする。
秘密の天国に旅をし、そこに7年間(七重に巡るステュクス川を思い出させる)留まった後、トーマスはマーリンやトリスタンのような古代宗教の聖人と並ぶ、偉大な魔法使い、詩人、予言者となった[5]。
Barbara G. Walker :The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)