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[41] かくして、〔父が〕あなたがたに対して良くしてきた事柄からのみならず、あなたがたのせいでひどい目にあった事柄からも、父の好意を知るのは容易である。なぜなら、明らかに民衆を援助し、あなたがたと同じ国制を欲し、同じ連中によってひどい目に遭い、国と同時に不運に見舞われ、あなたがたと同じ相手を敵とみなし友とみなし、ありとあらゆる仕方で危険に身を挺したのである。 [42] ある点ではあなたがたのために、ある点ではあなたがたの所為で、ある点ではあなたがたに代わって、ある点ではあなたがたとともに。 カリクレスとは似もつかぬ市民としてである。あの男は、父の義兄弟であったが、敵国人たちには隷従することを欲し、同市民たちに対しては支配しようとし、亡命中はおとなしくしていたが、帰還するや国家に仇をなしたのである。はたして、いかにすれば邪悪な友となったり、価値なき敵手となったりすることができるのか。 [43] しかのみならず、貴方は、父の姻戚でありながら、「三十人」時代には評議員であり、関係なき人たちにわざわざ遺恨を残し、自分が国に住める所以の協定に違背していることを恥じず、過去の出来事に報復を為すのが善いと思われる場合には、もともと、危険を冒すべきは、私よりも先に、また、私よりももっと深く、貴方であるということに思いを致すこともないのか。 [44] もちろん、私からは父が行ったことの償いを受けるが、貴方には自分の犯した過ちにさえ容赦を与える、というようなことはなく、ましてや、父と同じような口実を有していないことも明らかである。なぜなら、祖国から追放されたのではなく、為政者仲間だったのであり、強制されたのでもなく、故意だったのであり、身を守るためでもなく、自発的に仲間に不正したのであり、その結果、彼らから弁明の機会を得る資格さえ貴方にはないのである。 [45] とにかく、テイシアスに為政された事柄については、おそらく、いつかこの男の危難の際に長々と述べる機会もあろう。が、しかし、あなたがたにお願いしたいのは、私を敵たちの手に委ねず、また取り返しのつかぬ災禍に陥らせないように、ということである。なぜなら、今までにも害悪をたっぷりと味わってきたのであり、生まれるとすぐに孤児となり、――というのは、父は亡命し、母は亡くなったからであるが、その時まだ4歳にもなっていなかったのに、父親の亡命を理由に身命を賭して危険に巻き込まれ、 [46] なおそのうえに、子どもであるにもかかわらず「三十人」によって国から放逐されたのである。しかし、ペイライエウスからの人たちが帰還し、その他の人たちも家産を取り戻したのに、私だけは、没収された財産の代わりに民衆が私たちにくれていた土地を、敵たちの権力によって奪われたのである。これほどの不運に前もって見舞われ、二度〔414、404〕、家産を喪失したにもかかわらず、今、5タラントンの私訴の被告となっているのである。しかも、この訴訟は財産を賭したものであるが、争っているのは、私にとって国に参政すべきかどうかということである。 [47] なぜなら、同一の罪状については同一の罪科が規定されているにもかかわらず、危険は誰にとっても同一というわけにはいかず、財産を所有している者たちにとっては罰金刑を賭しているが、私のように窮乏している者たちにとっては、市民権剥奪刑を賭しているのであり、この刑は追放刑よりも重い災禍だと私は信じているのである。なぜなら、自分の同市民たちのもとで市民権を失って生活することの方が、他国人たちのもとに寄留することよりも、はるかに惨めだからである。 [48] だから、あなたがたにお願いしたいのは、私を助けてくださるようにということ、そして、敵たちによって凌辱されるのを見過ごさず、祖国を奪われるのも、このような運命によって衆人環視の的になるのも〔見過ごさ〕ないようにということである。義しいのは、働き〔事実〕そのものに基づいてあなたがたの同情を受けることである。たとえ言葉によってはあなたがたを目指す方向へ導くことがたまたまできなくとも、同情すべき相手は、危険〔=争訟〕に巻き込まれること自体が不正であるにもかかわらず、最も大事なものを賭して争っており、自分たち自身にも祖先にも相応しない境涯にあり、最多の財産を奪われ、人生の最大の浮沈を経験した者たちであるからには。 [49] さて、わが身を嘆くに足る多くの理由を私は持っているが、特に、憤懣やるかたない所以は、先ず第一に、私にとって受けてしかるべき当の相手に私が償いをするようなことになること、第二に、オリュムピアでの勝利によって、他の人たちなら 諸々の特典を受け取るのに、父の勝利が原因で、わたしが市民権喪失するようなことになること、 [50] かてて加えて、テイシアスは国に何ひとついいことをしたことがないのに、民主制下においても寡頭制下においても、強大な権力を握ることになるが、私の方はどちらの派にも不正していないのに、両派からひどい目に遭わされるようなことになり、その他の事に関しては、あなたがたは「三十人」と反対なことを実行しながら、こと私に関しては、連中と同じ考えを有し、かつてはあなたがたといっしょに、しかし今はあなたがたによって、私が国を奪われるようなことになることである。 |