奥の細道挿入句の読み方10

 

(三十四)市振
一っ家に遊女もねたり萩と月

〈推測する読み方〉
おなじ家に遊女も夏の夜を泊り合わせた。萩の花にほのかに月光がさしている情景にも似た、優艶でやさしい中にも寂しさを持った夜であった。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
枕かき寄せて寝ねたるに一間隔てて西の方に若き女の声二人ばかりと聞ゆ。年老いたる男の声も交りて物語するを聞けば越後の国新潟と言う所の遊女なりし。伊勢参宮するとてこの関まで男の送りて、明日は故郷に返す文したためて、はかなき言伝などしやるなり。白波のよする汀に身をはふらかし、あまのこの世をあさましゅう下りて、定めなき契、日々の業因いかにつたなしと、物言うを、聞く聞く寝入りて、あした旅立つに)偶然にも昨夜は遊女の隣の部屋に寝ていた。萩と月は同じ秋の風物だ。しかし相対していても、決して触れ合う事はない。芭蕉が遊女と自分が別世界の人間であると、芯から思おうとする切ない気持が読手に伝わり、首を振ってしまう程同化する。

(三十五)加賀入り
早稲の香や分け入る右は有磯海

〈推測する読み方〉
歌枕になっている有磯海が広々とひろがっている。豊穣の秋を思わせる早稲と豪壮な日本海、これが加賀百万石の国に足を踏み入れる印象でもある。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
担篭の藤波は春ならずとも、初秋のあわれ訪ふべきものをと、人に尋ぬれば、「これより五里磯つたいしてむこふの山陰に入りあまの苦ぶきかすかなれば、芦の一夜の宿かすものもあるまじ」と言いおどされて、加賀の国に入る)
早稲が花をつけて、一面に匂が漂よっている。こうして農道を行く事にしたが、右手に見える有磯海、あすこを伝って藤で名高い担篭へ行きたかったのに残念だ。読手は海を見ながら稲の花の中を歩く芭蕉に同化する。

(三十六)金沢
塚も動け我が泣く声は秋の風

〈推測する読み方〉
一笑の死を悲しんで墓も動けとばかりに泣く私の声、いま吹いている北国の秋風のように、はげしく悲しくあたりにこだまする。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
一笑と言う者は、この道に好ける名のほのぼの聞こえて、世に知る人待らしに、去年の
冬早世したりとて、その兄追善を催すに)
一笑の兄が墓前で追悼をしてくれた。一笑よ塚てもよいから動いておくれ、どんなに合
いたかった事か。感極わまって遂に鳴咽する芭蕉。秋風のようにもれるむせび泣きに読み
手は胸がつまり心がのりうつっている。

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