奥の細道挿入句の読み方11

 

語られぬ湯殿にぬらす袂かな

〈推測する読み方〉
恋の思いを語られぬままに袂をぬらすと言うのとはちがうが、私もこの山の行者の行ないを語るのを許されないまま、その沈黙の中に感動の涙で袂をぬらした。
〈体感する読み方〉
この湯殿山の事を書き残すのは御法度で、何も言えないけれど、私はここへ来てとても悲しい気分になって、どうしても涙が出てしまう。芭蕉は自分のやさしさ故にとても苦しい思いで湯殿と言う地に、どうしようもない気分でいる。読手は芭蕉の哀しみが体感されて涙がにじみそうになる。

湯殿山銭ふむ道の涙かな 曾良

〈推測する読み方〉
湯殿山のいたるところに散っている賽銭を踏みしめながら、のぼって行くその深い感動に涙をこぼす私であった。
〈体感する読み方〉
(曾良の句は体感しないので右の訳とほぼ同じような読み方になる。)
湯殿山の山道で私は銭を踏んで歩かされた。常識ではとても考えられない事でとても心苦しい思いなのです。涙があふれて来て仕方がありません。その訳は言えないけれど他にもあるのです。

(三十八)那谷
石山の石より白し秋の風

〈推測する読み方〉
長年月の風雨にさらされて、しらじらとしているこの石の山。古来漢詩で白いと形容されている秋風であるが、いま吹き通っていく秋風のイメージはこの白い山よりも白く感じられ秋の淋しさをいっそう強くする。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
(奇石様々に古松植えならべて、萱ぶきの小堂岩の上に造りかけて殊勝の土地なり。)このあたりの山はまっしろだなあ大津の石山の石も白かったけれど、ここはその比ではないわ。風も白く感じる。やっと秋風が吹くようになった白根山から山中へと通じるこのあたりの山々の白さに読み手も寂しい気持ちになって歩いている。

(三十九)山中
山中や菊は手折らぬ湯の匂

〈推測する読み方〉
昔、慈童が菊水を汲んで八百歳まで生きたという菊慈童の伝説があるが、ここ山中では菊を手折る必要もないほどの効能のある湯である。つよい湯の香は菊の香にもまさっているのだろう。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
(温泉に浴す。その効有馬に次ぐといふ。)

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