奥の細道挿入句の読み方13

 

物書きて扇引きさくなごりかな

〈推測する読み方〉
いよいよ、ここでお別れ。句など途中書きつけて来た扇を二つに引きさくような感じで(折りから夏の終わりに当って扇を捨て去るのにも似て)去りがたい思いが尽きない。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
(金沢の北枝という者、かりそめに見送りて、この所までしたひ来る。所々の風景過さず
思ひつづけて、折節あわれなる作意など聞こゆ。今既に別れに臨みて。)
北枝と話し乍ら句を書いたりして来たが、これでお別れだ。この扇もよく使って来た。北枝に書いてあげた分は引きさいてあげよう。こうして扇を引きさくのは今の別れの気分にも似て。寂しさに耐えている芭蕉。手の動き心の動きが電波のようにびりびり伝わる。

(四十三)敦賀
月清し遊行の持てる砂の上

〈推測する読み方〉
秋の澄みきった月の光が遊行の運んだ白砂の上をしらじらと照らしている。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
(「往昔、遊行二世の上人大願発起の事ありて、みずから草を苅り土石を荷ひ泥停をかわかせて、参詣往来の煩なし。古例今に絶えず。神前に真砂を荷ひ給ふ。これを遊行の砂持と申し侍る」と亭主語りける。)遊行が砂を入れてこんなに歩きやすく、きれいになった松林で眺める月は何と言うすずやかなのだろう。松の木の間にもれる月光に芭蕉がしみじみと感謝の念でその美を味わっている。読み手もそこに臨場している。

名月や北国日和定なき

〈推測する読み方〉
待望の中秋名月。北国の天気は全く変わり易いものだ。昨夜はあんなに晴れていたのに
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)(十五日、亭主の詞にたがわず雨振る。)
名月の今夜は晴れていればきれいな月が観られる処だがやはり雨が降ってしまった。この辺の天気は余程よく変わるのだなあ。無月の空を見上げて残念に思ったり又昨夜宿の亭主に予告されたのを思い出している芭蕉。読み手もあゝあと言う気持がのりうつる。

(四十四)種の浜
寂しさや須磨に勝ちたる浜の秋

〈推測する読み方〉
この浜の秋の夕暮の淋しさは源氏物語等で有名な須磨の浦の秋の夕暮にも勝っている。
〈体感する読み方〉
(句の前書きとなる文章)
(ますほの小貝拾わんと種の浜に舟を走らす。浜はわずかなる海士の小家にて侘しき法華寺あり。ここに茶を飲み酒をあたためて、夕暮れのさびしさ感に耐へたり。)
何と言う寂しい処なんだろう。この浜のさびしさと秋の淋しさとが重なって、こんな寂りょう感は須磨の浦のあのさびしさよりはるかに身に迫る。夕暮れの海を見てたまらなくなっている芭蕉。読み手は寂しさもここ迄もとその気になる。

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