奥の細道挿入句の読み方2

 

(八)羽黒
夏山に足駄を拝む首途かな

〈推測する読み方〉
夏山のお堂の役の行者の1本歯の下駄を拝む。思えばまだ私の旅は奥州に入っていないが、ここを旅立てばもうすぐ奥州入り。足駄を拝みながら奥州の旅への門出に役の行者の健脚にあやかりたいとの思いが、ふっと胸をかすめる。
〈体感する読み方〉
早や山々は夏のたたずまいだ。長旅なれば足駄も拝み、さあ出かけよう。人間の心の弱さを自虐しながらも心満ちた思いの芭蕉。読手は目の高さに大きな下駄が見え、お堂が奥にしづまっている。そこを拝んだ芭蕉が、すたこらときびすを返すのに同化している。

(九)雲岩寺
木啄も庵はやぶらず夏木立

〈推測する読み方〉
寺をつついてこわすと言われる、あの木啄もさすがに此の庵だけはそのままにしておいたものか、昔ながらの小庵が夏木立の中に残って立っている。
〈体感する読み方〉
この庵は木啄さえも知らぬ顔なのだ。それより欝蒼とした夏木立は太い木がいっぱいだ芭蕉は庵が何とか保たれているのを喜ぶと共に、悲しい気分にもなって立ちつくしている読手はその、時の流れと木立の中に臨場し芭蕉の細やかな心に同化する。

(十)殺生石
野を横に馬牽きむけよほととぎす

〈推測する読み方〉
(痩せて貧相ななりをした俳諧師、馬も元禄の田舎馬。鎌倉の颯爽たる武士の面影には、ほど遠い。が、ところは那須野、馬の口とる馬子の言葉は古代のみやびをもつ。ならば私も鎌倉の武士さながらに命じよう)広漠たるこの那須野で今ほととぎすが鳴いた。口取りの者よしばし止まって馬のかしらをほととぎすの鳴く方に向けよ。
〈体感する読み方〉
ほととぎすよ馬がお前の鳴き声につられて、そちらえ曲ってしまう程に鳴いておくれ、お前は人の言葉みたいに上手に鳴くなあ。芭蕉はほととぎすが馬に号令をかけている様に鳴くのを風流に感じている。読手は広い原野に鳴くほととぎすと、馬上で楽しむ芭蕉。そして馬子の姿が見え自分もそこに臨場している。

田一枚植えて立ち去る柳かな

〈推測する読み方〉
西行ゆかりの柳の古雅な面影は、現実世界の田植をする農民と対照をなして、面白い風景をかたちづくる。私は西行の歌の「しばし」に似せて田一枚が植わってしまうまで懐古の思いにふけって立ち去った。
〈体感する読み方〉
やっと来た名高い柳のかげ、お百姓が田植えをしている。その人は一枚植えるとさっさと帰って行ったが、芭蕉はその間中立派な柳の木の姿を見たり、辺りの風景を楽しんでいる。読手は農夫の後姿が植え終って満足気に立ち去っていくのが見え、長いこと柳の下に立ち止まるっている芭蕉に同化している。

このページのトップに戻る

戻る  次へ

トップ 推敲 絵解き

アクセスト 出版ページ ギャラリー