作句上のコツ

十三、写生からの脱皮

 俳句の基本は「何が何処でどうだ」と景色を書く様にと言っていますが、今回は少し写生の上を書く話をしましょう。例えば“畑に桃の花が咲いている”この場合〈家の裏広い畑に桃が咲く〉これで何が何処でどうだと書けたのですが、これでは当り前で、この様に唯見た物を並べるのを写生と言いますが、写生は俳句の第一歩ですから、その桃の花の景色にどう思ったのかと言う事になります。桃は自分の家の畑に咲いているのか、よその畑にか、よその畑に咲いているのを見たのならどんな状態で咲いていたか、それでどう思ったか同じ様な花でも千差万別です。咲いている場所で随分思いが異なります。私は以前知積院と言うお寺の修行堂の庭に、満開の立派な桃の木が並んでいるのを見て、非常に奇異な気分になりました。これは私の偏見ではあるのですが、若い修行僧の修練する堂の庭に、花の中でも最も女性を意識する花がこんなに繚乱と咲いていて、修行僧達はどんな思いでこのむせ返る様に美しい光景を毎日眺めているのだろうと、下世話な気がしたものでした。こう思ったのは下世話だろうが偏見だろうが、作者の私がそう思ったので、この思いを曲げては嘘になりますから〈修行堂庭に爛漫桃の花〉としました。これは本当の景色でその通りに書いているのですが、俳句にして読むと私の思いが表れました。この様に単なる写生から次はその景色で何を思ったのかを書くのです。その時にこう思ったと自分の気分を文字にして書かない様にしましょう。有った通りの景色だけで充分心が書けるのです。又俳句は意味や物語性が書けてないとまだ俳句とは言えないのです。〈膝に来てじゃれる子猫よ読書中〉と
言うのがありますが、子猫と作者の心の触れ合う姿が作品になって、子猫が相手になって欲しいと、じゃれるのを、作者は本を読んでいるのでいい加減にあしらっている姿が見えます。この様に成るべく奥の深い内容である程、読み手が楽しめる作品になります。〈傘の杖雪の深さをさぐりつつ〉とても良い句に仕上がっています。思いが深かった句材程読み応えがある作品になるのは当然です。
 句材を賜った時の心をきちっと渡せる様に書くのが作句上のコツです。
平成二十年八月

 

 

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