作句上のコツ

九、場所を書く

 内容のはっきりしない句で一番多い欠陥は、何と言ってもそれが何処であったかと言う事が書けていない場合です。何がどうなっていてこんな気がしたと書いてある句が多く、本人は自分が見た事だから場所はよくわかっているので、思った事を伝えるのに一生懸命に書いているのですが、読み手には一向に実態がつかめません。その上説明や思いが書いてあっても所詮は十七字、舌足らずで何を言っているのか分からないのです。場所と言うのは蛙が池にとか、庭に壷がとか崖に百合がの様に有り処の事です。こうしてはっきり書くとその情景が想像出来ます。例えば“思い切り足を踏ん張り跳ぶ蛙”と書いてあるとします。それを目撃した作者は蛙に感心したかも知れませんが、読んだ者は面白くも何ともありません。"畦道に足踏ん張って蛙跳ぶ”とあると、畦に蛙が頑張っている様子が想像出来ます。そして“畦道に足踏ん張って”とあると、蛙にとって余程高い畦だなあと言う事も想像できるし、蛙の跳ぶ瞬間を偶然見た作者が、よく観察しているのがわかると共に、一茶やないけれど蛙にエールを送っている気持も伝わります。この場合畦が場所です。庭の壷も“大ひでりこちらへ向きし壷の口"とあるとします。これでは壷が宙に浮いているみたいで、何を作者が言いたいのかわかりません。“庭の壷口こちら向き大旱”としますと、一と雨欲しいと思っている時に、壷に水を入れたくなる様に思ったと言う気分が伝わります。崖の百合も"風向きの匂いで見つけ百合の花”とすると百合の匂いがしたと言うだけでは当り前になります。又その百合は切って部屋にあるのか、庭に咲いているのかわかりませんから、崖なら崖とはっきり場所を書くのです。“風向きや匂いで見つけ崖の百合”とすると、百合は匂いが強いので崖に咲いていても分かるので、理に叶っていて、読み手に共感が得られるのです。場所とはその句の言わんとするものの有り処ですから、枝にとか手にとか棚にとか、何処になるかわかりません。この様に必ず何処と言う場所の分かる言葉を忘れない様に書くのが、初歩的な作句上のコツです。
平成二十年四月

 

 

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