磯野香澄俳句の世界ー京都抒情まえがきより

歩いて巡る京の都

 京都抒情と題した本書が日の目を見る時が近づいて来ました。
ここで私がこの書に至る迄長年研究した俳句について大まかに綴って見る事にします。
 俳句は今から六百年程前の室町時代にその発芽を見たと言われます。
その後俳諧とか連歌とかを経て俳聖芭蕉が連歌の発句(第一句目)いわゆる連歌の挨拶句を発達させて、五、七、五文字からなる十七音で完結する世界最短の文学形式を完成させられました。
この形式は十七文字なるが故に文法的に、巧みな活用が出来てどんな内容でも綴る事が出来ます。
広さで言うなら宇宙の広さ、時間で言うなら宇宙の時間、そして深さなら人の心の深さだけを表現する事が出来ます。
又芭蕉翁は有情と言う生きとし生きるものの、現在只今生きて動いている情景を書く、所謂有情の句を発生させる手法を確立させて純文学の域に、昇華させ日本固有の文学形態を完成させられました。
 そして弟子や追従者にその作風を伝授されました。
其の中の一人京都の嵯峨に住んでいた去来と言う人が、二、三句その域に達した句を残しておられますが、深い精神性が基礎になり又四次元とも言うべき、高度な芭蕉の手法は解りにくく理論的に解明されていなかった為、完成された句は百五十年後の一茶が作成に成功される迄、殆ど作品として残されていません。
又それ以後今日まで百五十年間多くの方が、芭蕉の域にと精進されたと思いますが、芭蕉の域に達した作品は数える程より有りません。
又多くの俳句愛好者が色んな手法を編み出していわゆる比喩を基にした作風や作品が隆盛を極めた時代が続きました。他の芸術でも日本ばかりでなく、世界的な抽象的表現が隆盛を極めた時代が続きましたが、千九百八十年頃から影を潜めて、今は模索の状態にあると思います。
 私磯野香澄は二十年程前に比喩を元にした作風に限界のある事を悟り、比喩を元に書く虚実の手法の上に芭蕉の到達された超実景、又有情の世界がある事を知るに至りました。その後芭蕉俳句の研究を徹底的に行い、その有情に至る俳句の書き方を解明しました。そしてその理論をピラミッドの様に組み立てて完全な理論として発表しました。
又その理論を元に書いた俳句壱千句を[磯野香澄俳句の世界、真珠彩の四季、瑠璃彩の四季、珊瑚彩の四季、琥珀彩の四季、黒真珠彩の四季]計六冊それに全ての人に読んで戴くのを目的に俳句一句づつに現代文訳を付けて本書“京都抒情として上下巻二冊”を完成しました。
 これらの句は芭蕉翁の手法を踏襲させて戴いて、自然と人との間に起こった現象を現在進行形で書いた十七文字のドキュメンタリーです。
普通物語りは起承転結があって完結するものですが、俳句は起承転迄を書いて、結の部分は読み手が俳句の中に同化してどんな感じがしたか、起承転結の結の部分をご自分で完結させて楽しんで戴く様に書いてあります。
こうした俳句は作者の元を離れて一人歩きして読み手のものになりますので、情景を読み手のイメージで楽しんで戴くのが、俳聖芭蕉の確立された世界に類を見ない文学形式の特殊性です。
私はこの作風を読んで楽しんで戴くと共に、全ての俳句愛好者の方がこの手法をご自分の物にして楽しんで戴けたらと思っています。

あとがき
 今回磯野香澄俳句の世界別冊“京都抒情”と題して京都で出会った情景を書いた俳句をまとめました。
この書は私磯野香澄が京都に住んで身近な京都のあちこちを歩いて、京都の自然と人との接点で心に響いた出来事を綴ったもので、観光地の由緒書きには無いいわば穴場の様な場面を掬って一句に仕上げています。
俳句と言うものは全てドキュメンタリーですので、京都の方々で心に響いた事、感動した事、面白いと思った事とか一般に観光された処で気付かれない様な状況を、アニメートドキュメンタリーで綴っています。
又それらの句を観光案内の様に配列しました。
 清水寺から京都東部東山の裾野に点在する多くの観光地を、北へ進み三千院から実相院、鞍馬から、市街北部を御室仁和寺へそして広沢迄辿り、南下して天満宮を経て上京を東へ進んで加茂川から下鴨で上巻を終っています。
又下巻は嵯峨の大覚寺から嵐山そして四条通りを東へ島原へ寄って中京を御所へ入って、平安神宮、祇園から五条、東寺へ寄って七条通り東大路を南下して伏見城南宮そして山科の醍醐から追分までを歩いています。
 こうして書いた本書を元に歩いて、京都を巡る手引きに又俳句で書いている場所を求めて歩いて下さるのも良いかと思います。又俳句のイメージで頭の中で旅して戴くのも一興かと思います。
 俳句の面白さと同時に京都穴場を巡って戴ける事を祈っています。
最後までお読み戴き、又作者の私に付き合って作品の中をご同道戴き有難う御座いました。心より感謝申し上げます。

磯野香澄

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