推敲指導6
原 酒を注ぐ妓の簪(かんざし)や藤の花 推 酒を注ぐ舞妓の簪藤の花 原句では“妓の簪や”と有りますが、[や切れ]にしますと“藤の花”が生きている藤の花に思えます。そして“簪”では単なる簪に思えて整合性が有りません。そこを深読みで藤の花の簪にすると今度は比喩の表現になります。そこで“舞妓の簪”にしますと舞妓さんが藤の花の簪で情緒たっぷりにお酒を注いでいる風景が見え、簪が今の季節に合わせて有り、そして藤の花も想像されて良い作品になりました。 原 五月雨や祭りの足袋を染めてゆく 推 五月雨や祭りの足袋が染みてゆく 原句では“足袋を染めて”ですと、染色している様に色が変わって来た事になります。そこで“足袋が染みて”としますと、白い足袋が雨に濡れて色が変って来たと読めて、作者の細かい所に心を引かれている事が感じられ、美を求める感受性が凄いと思えます。雨の中足袋を濡らしながら進んで行く行列が見えて、足袋が濡れて行く所から大きい風景が表現出来た素晴らしい作品になりました。 原 潮風に吹かれ上総の芝桜 推 潮風に吹かれ岬の芝桜 原句では“上総”となっていて、一応これでも“潮風”と有りますので“上総の海岸”と言う事になりますが、これでは余りに大雑把過ぎて、折角の良い風景が見えて来ません。そこで一応“岬”としました。本当はもっと違った所かも知れませんが、そこは推敲の指導ですので“岬”としますと、風の強い岬に芝桜が一面に咲いていて、厳しくも美しい風景が見えて心情が表現出来ました。 原 目覚ましの前に目覚める鳥の声 推 目覚ましの前の目覚めや鳥の声 原句では“目覚める”となっていて全体的にお話になっています。そう受け取れば鳥の声で目覚めたと取れますが、文法的には“鳥の声”は先の言葉と繋がっていません。又“目覚める”は終止形で動きがありません。それを“目覚め”にして動詞が動いて現在進行形になりました。“目覚めや”と意識的に切ります。鳥の声で目覚めたとは言っていませんが鳥の声で爽やかな目覚めだと良い感じになりました。 平成二十一年五月 |
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