俳句の読み方1

磯野 香澄   

< 夏 草 や 兵 ど も が 夢 の 跡 >  
   この句は有名なそして多くの人に愛されている句ですが、成句の前の句で「夏草や兵どもの」と「の」になっています。この「の」が「が」になった事で読み手は泣きたい程の良さを感じるのです。この「が」が何故そんな力があるかと言う事ですが、この「が」一字で兵どもの夢の全てが省略と云う形で表現されているからです。この「が」と「夢の」の間の省略と「夏草や」の「や切れ」とで読み手は非常に深い情感に同化するのです。※この句の場合夏草やのや切れと兵共がの省略が読み取れると同化出来ます。  
 
< 大 藤 に 虻 も 蜂 も や 正 法 寺 >  
   有名な日野の正法寺の見事な藤は、その花の甘い匂いに虻も蜂も一杯寄って来てその蜜を吸っている。虻も蜂もやの「もや」で人が沢山見に来ている情景が見えます。この句の読み処はこの「もや」で仮に「もと」としますとどうなるかと言いますと「大藤に虻も蜂もと正法寺」で、虻や蜂が来ていると、言うだけになってしまいます。「もと」「もや」「と」と「や」の違いだけで虻や蜂が一杯ぶんぶん来て蜜を吸っているし人も沢山来ていて、虻や蜂に混じって小さい虫も色々いて賑やかな様子が感じられ、お寺の優しさがバックに感じられます。
※この句の場合は「もや」によって多くの事を渡している処が読めると全体の情感に同化する事ができます。
 
< 無 住 寺 や 坂 に か り ん の 実 が 転 げ >  
   無住寺とは字の通り誰も住んでいないお寺です。「無住寺や」とや切れになっている事で、とっぱなから寂しくも詫びしい情感に引きずり込まれて「坂にかりんの実が転げ」と、人が住んでおれば見られない情景に読み手もその寂廖感に同化するのです。
※この句の場合「や」の切れ字の深みが読み取れる事が鍵です。
 

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