俳句の読み方2

磯野 香澄   

  俳句は世界最短の詩形だと言われ十七字の中に季語が入っておればそれが俳句と、殆どの人が思っている様です。もしそうだとしたら俳句は自由詩を短かくした様な物で、そんな単純なものならとっくに俳句は消滅している筈です。俳句は十七文字の奇術十七文字の科学です。言葉と言葉、文字と文字が科学作用の様に融合し分裂し合って、宇宙の時間と空間の出来事全てを書く事が出来、又読手を同化させる凄い機能を持った詩形なのです。  
< 荒 海 や 佐 渡 に 横 た ふ 天 の 川 >  
  「佐渡に横たふ天の川」ここをそのまま受け取ると、佐渡に天の川が寝ころんでいる様です。この「横たふ」と言うのは並行にと言った意味に使われていた様で、遠くに見える佐渡ヶ島と天の川が並行な感じで配置されていて荒海の白い波が見える。その神秘的な光景に感動している心理描写が「荒海や」の「や」で余す処なく表現されていて、読む者もその情感に同化し、美しくも荘厳な感じに憑って自然に対する畏敬の念さえ感じます。  
 
< 大 旱 寺 に 風 化 の 由 来 札 >  
  この場合「大旱」で「や」切れにはなっていませんがこれで切れていて、旱でからからになった様子がまず感じられます。次に「寺に」とあるので渇ききったお寺が見えるのですが、すぐに「由来札」と来るので視線は由来札に集中します。その由来札は風化している。寺が古いと言う事が文字の奥で表現されていて深層で感じています。見えるのは文字字も消えかけた木の札が重力を無くした様に存在している。心理的無重力に同化します。
 
< 渇 水 や 湖 底 に 日 の 目 城 の 跡 >  
  先の句と同じ旱の句ですが「渇水や」と、「や」切れになっていて水の渇れた状況に深い感傷が促されます。旱で湖の底があらわになり、城の礎石だった石組がその昔を語っている。この場合、「渇水や」の「や」が最後迄情感を引っ張り、重い感慨が憑ります。
 

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