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臓器移植
臓器移植organ transplantation 本来存在している部位から臓器をいったん摘出し、
同一または他の個体にそれを移すことをいう。移植が成功すれば、
新しい場所でその周囲から栄養をとり、その臓器本来の機能を営むようになる。
しかし、臓器の血管を移植された部位の血管と速やかに吻合(ふんごう)して血行を再開させないと、
酸素と栄養分の欠如および有害な老廃物の蓄積のために臓器の組織が死んでしまう。
臓器移植は、廃絶した臓器にとってかわってその機能を営むので、
致命的な疾患では患者を救命することができる。
臓器移植には次の3種類がある。
(1)自己移植(自家移植) 腎(じん)動脈狭窄(きようさく)による腎血管性高血圧で、
腎動脈を狭窄部位よりも腎に近い部位で切除して腎を下腹部の腸骨窩(か)に移植する場合のように、
臓器を同1個体の他の部位に植することをいう。自己移植では拒否反応はおこらない。
一卵性双生児または遺伝的に同一な動物間で移植することを同系移植といい、
自己移植と同様に臓器は永久に生着する。
(2)同種移植 ある個体から得た臓器を、同一の種ではあるが
ドナー(提供者)とは異なった遺伝子型をもつ他の個体に移植することをいい、
免疫抑制法を行わないと通常、拒否反応がおこる。
(3)異種移植 異種の動物間で移植することをいい、
移植された臓器はたいてい速やかに拒否反応を受けてその機能が止まってしまう。
また、本来存在すべき位置に臓器を移植することを正位移植という。
これに対して、本来存在するところとは異なった部位に移植することを異所移植という。
たとえば腎移植では、本来腎が存在する肋骨(ろつこつ)と骨盤との間の腰部ではなく、
下腹部の腸骨窩に移植される。これは、手術手技上やりやすいためである。
臓器移植は比較的新しい手術的治療法で、
従来行われてきた治療法では十分に治すことができないときにのみ行われるべきものである。
現在のところ成績もよく、決まりきった慢性腎不全末期の治療法として広く普及し、
保険診療でも認められているものに腎移植があるが、
そのほかの臓器移植では心移植、肝移植、膵(すい)移植がある。
心(臓)移植は日本では、社会的に問題となった札幌医科大学の一例以後、
まったく行われていないが、欧米では実用的治療法に近い段階にまで進歩し、
1982年現在の成績では5年生着率50%という成績が得られている。
肝移植も日本では臨床的にまったく行われていないが、欧米ではすでに12年以上生着している例もあり、
免疫抑制剤サイクロスポリンの出現以来、さらに成績が向上しつつある。
膵移植も臨床的に行われるようになり、2年半以上の生着例がみられている。
移植される臓器は、生体腎移植のように生きている人が自分の意志によって提供を申し出る場合もあるが、
死体腎移植のほか、心移植や肝移植では死体から臓器を摘出する必要があり、
従来、法律的にも問題があった。
しかし、1979年(昭和54)に「角膜及び腎臓の移植に関する法律」が成立し、
腎移植に使用されるための腎臓を死体から摘出することが法律的に認められるようになった。
細菌やウイルスが体内に侵入すると、生体はこれらを防御しようとして免疫機構が働くが、
移植された臓器に対しても同様な防御機転が働き、拒否反応をおこしてしまう。
この拒否反応をおこす因子を移植抗原または組織適合性抗原という。
一卵性双生児のようにドナーとリシピエント(移植を受ける患者)とが
まったく同一の抗原をもっておれば拒否反応はおこらない。
赤血球以外のすべての細胞は移植抗原をもっている。臓器移植に先だって行われる組織適合性検査は、
個人のもっている移植抗原を同定することにほかならない。
これにはヒト白血球抗原(HLA)について行われるほか、リンパ球混合培養法(MLC)も利用される。
また、赤血球の血液型も調べる必要がある。これは、
赤血球の型抗原が他の組織に存在していて拒否反応をおこすからである。
リシピエントが移植された臓器を永久に副作用をおこすことなく受け入れられるように、
免疫抑制療法が行われる。ある場合には免疫抑制剤の用量を漸減していき、
最後にはそれをまったく中止しても拒否反応をおこさないこともある。
免疫抑制剤としてはアザチオプリン(「イムラン」)、副腎皮質ステロイド(「プレドニン」)、
抗リンパ球グロブリン(ALG)などが用いられているほか、最近では新しいサイクロスポリンも登場してきた。
移植された臓器に対する放射線の局所照射も行われている。
臓器は血液の供給がないと急速に死滅する。
冷却によってその過程を遅らせることはできるが、完全に止めることはできない。
体温で臓器が不可逆性の変化を受ける時間は、
肝臓が15〜20分、心臓と肺が30〜40分、腎臓が50〜100分である。
死体腎移植では死後腎臓をできるだけ早く(できれば1時間以内に)摘出し、
4度Cに冷却した特殊な灌流(かんりゆう)液を腎動脈から注入して腎内の血液を洗い出すとともに腎を冷却する。
この簡単な冷却保存法でも50時間、腎臓を保存することが可能である。
また、持続的に腎臓を灌流保存する装置もつくられている。
この腎保存法の進歩により、腎臓を遠方、ある場合には国境を越えて空輸し、移植することも可能となった。