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97年3月中旬 |
【3月18日(火)】
▼先日届いた Catherine Asaro の Catch the Lightning(Tor, 1996)をさっそく読みはじめる。SFマガジンのスキャナーでもご紹介した Primary Inversion の続編だ。おれはこの人、すごく買っている。くそ真面目な科学考証をやるくせに、こちらが赤面せんばかりのお約束と陳腐なストーリーをいけしゃあしゃあと繰り出す。アホなのではなく、もちろんわざとやっているのである。それでいて、どこか新しさを感じさせるものがあるのだ。どんな人だかあまり知らないのだが、パソ通とインターネットを駆使する女性物理学者で、既婚だというのはわかっている。日本で言えば、理系の学部を卒業して世間並みに結婚もしている女性が、じつはSF・耽美・パソ通と三重苦揃った隠れおたくで、物理学の知識を縦横無尽に駆使した邪な大人のおとぎ話を即売会用に書いてみたら評判がよかった――みたいなケースを想定してしまう。
前作は二大宇宙帝国の確執を描いた、超光速航宙ありーの、テレパシーありーのという遠未来の話だったのに、続編の冒頭で度肝を抜かれた。舞台は、いきなり1987年のロサンジェルス、17歳の少女の一人称である。なんじゃ、こりゃ。サリンジャーじゃあるめーし。来るぞ来るぞと思っていると、前作のスコーリア帝国の軍人が、時と場所をわきまえず、迷子になって現われる。どわははははは。きっとこの少女、未来の異世界で宇宙戦争に巻き込まれるのだろうな。とうとう十二国まで入ってきたか(笑)。
【3月17日(月)】
▼朝、ラジオから Bangles の Manic Monday が流れてくる。お若い方のためにご説明すると、これは十年くらい前に女の子バンドが歌って大ヒットした曲で、前の晩のセックス疲れで寝坊した女の子が、仕事に遅れちまうよ、飛行機でも間に合わねーよ、またけたたましい月曜日だよー、わてほんまによいわんわーとドタバタしているだけの、じつに他愛のない歌なのである。でも、月曜の朝に聴くとハマってるよなあ。切実なもんがある。
まあ、こういうノリの軽い歌なら朝から口ずさんで駅へと急いでもよいのだが、月曜日というと、おれはどうしても Boomtown Rats の I don't like Mondays を思い出してしまう。ご記憶の方もおられよう。一九七九年、当時十六歳のブレンダ・スペンサーという少女が、サン・ディエゴの小学校でライフルを乱射、校庭を逃げ惑う子供たちと警官を殺傷するという事件があり、これを題材にしたのが I don't like Mondays で、やっぱり大ヒットしたのだ。慣れというのは怖ろしいもので、いまでこそ、ヘンなやつが理由もなくライフルを乱射してもあたりまえになってしまった感があるが、犯人が十六歳の少女ということもあって、当時は世界中に衝撃が走ったものである。どうしてこんなことをしたのかという取り調べに対して、犯人の少女は「月曜日が嫌いだから」とカミュの小説みたいなことを言う。世間を当惑させたその名台詞が、曲のタイトルになっている。またまたお若い方のためにご説明すると、この Boomtown Rats のリーダーが、のちに史上最大のチャリティー・コンサート「ライヴ・エイド」を企画して、エリザベス女王からナイトの称号を賜った Sir Bob Geldof である。
このブレンダ・スペンサー事件の怖いところは、「月曜日が嫌いだから」という無差別殺人の理由が、われわれ正常な精神の持ち主にも、そこはかとなくわかるような気がする点である。きっと、みんなそう思ったので、あれほど世間は慌てふためいたにちがいない。いまの日本で青少年がひょいひょい持ち出せるようなところにライフルが置いてあったら、まずまちがいなく第二、第三のブレンダ・スペンサーが現われるだろう。さまざまな理由で月曜日が死ぬほど嫌いな子供があちこちにいるらしいからだ。太閤はんに感謝せにゃならん。
じつは、Boomtown Rats ばかりでなく、あのフィリップ・K・ディックも、ブレンダ・スペンサーの事件に作品の中でちらと触れている。『模造記憶』(浅倉久志他訳、新潮文庫)所収の「不思議な死の記憶」(深町眞理子訳)をご参照いただきたい。ああ、よかった、なんとかSFの話に持っていけた(笑)。
▼ちょっとコマーシャル。明日18日に創刊されるSF情報専門のオンラインマガジン 「SFオンライン」で、「S-Fマガジンを読もう」という連載をはじめた。早川書房とはなんの関係もなく(一応、仁義は切ってあるけれど)、一方的にSFマガジンを応援してしまおうという企画である。具体的には、掲載された小説のご紹介と寸評だ。あくまで応援であって宣伝ではない。「つまらないものはつまらないと言う」のが編集部の確固たる方針である。おれの連載はかなり初心者向けに書いているので、ここを読んでくださっているような方々にはもの足りないかもしれない。もちろん、おれみたいな木っ端ライターだけじゃなく、錚々たるライター・イラストレータ陣が、小説・映画・ゲーム・アニメ等々およそSFに関することならなんでも紹介している盛り沢山のWEBマガジンだから、初心者から通を自認する方までご堪能いただけるはずである。なにとぞご贔屓にお願いいたします。
【3月16日(日)】
▼エッセイ「迷子から二番目の真実」をひさしぶりに書く。NIFTY-Serveで連載していたころは、緩やかとはいえ一応ノルマがあったから、毎回絞り出すようにして書いていたのだが、手前の気分次第で書くようになるとたちまち怠惰になる。ありがたいことに少数ながらファンもいらっしゃるようなので、月に一本は書きたいなあとは思っているのだが。
今回は、あちこちでいろいろ議論されているクローン人間について戯れ言を垂れてみた。ご興味のある方はご笑覧ください。
【3月15日(土)】
▼Dangerous Visions から、注文していた本が届く。UPSって速いけど高いねえ。先方の担当者が変わったせいか、送り状にペンネームだけしか書いてないので驚いた。宅急便の兄ちゃんも首を傾げていた。たまたまおれが家にいたからよかったものの、母しかいなければわからないところだ。おれのペンネームなど、母は知らない(教えてるのだが、憶えないのである)し、第一、英語だから読めない。先方の顧客データベースには本名が登録してあり、いままで本名で届いていたのだが。たしかに、西洋人にはペンネームのほうが憶えやすいにちがいない。メールでも、いつも“Hi, Ray!”だもんな。以後、気をつけてもらうようメールしておかねば。
【3月14日(金)】
▼動燃の話の続きである。昨日紹介した「原子力・不拡散情報」のカウンタがどうなっているか見に行ってみると、昨日はなかったリンクが張ってある。「詳細は動燃事業団ホームページのニュースを参照して下さい。(http://www.pnc.go.jp/news/news.html)」とあるのだ。おいおい、待てよ、動燃(動力炉・核燃料開発事業団)(http://ifrm.glocom.ac.jp/ifrm/ptn.pnc.hp.j.html)というのは、動燃のホームページとちゃうんかいな? とりあえず、(http://www.pnc.go.jp/news/news.html)へ行ってみると、そこにはもうひとつ動燃のホームページがあった。なるほど、こちらのURLはインターネット・ウォッチにも載っている。プレスリリース用のURLらしい。つまり、動力炉・核燃料開発事業団のホームページには、動燃(動力炉・核燃料開発事業団)と、動力炉・核燃料開発事業団とのふたつがあるというわけである。
前者には、「動燃:動力炉・核燃料開発事業団 〜核不拡散対策室〜 ようこそ!動燃ホームページへ! 皆さんに動燃の活動、核をめぐる世界の動向などを紹介していきます」と書いてあり、後者にも、「動力炉核燃料開発事業団 核不拡散と動燃 核不拡散対策室ホームページにようこそ」というコーナーがある。なにがなんだかわからない。前者は古いホームページで、後者があとから本格的に開設した公式ページなのかとも思ったが、だとすれば前者は更新が止まっているか閉鎖されているはずである。前者にも新しいニュースが載っているのだ。念のため、ODINで“動燃”をキーワードに検索してみると、やっぱりふたつ以上出てくる。はてはてはて? おれは頭が悪いので、よくわからん。
おれも相当ネットサーフィンしているほうだから、企業ホームページを見れば、その会社の広報体制のよしあしが大まかにはわかるつもりだ。広報のよしあしというのは、つまるところ、その組織内部の情報が迅速かつ的確に一元化されているかということにかかっている。なぜなら、組織の名を背負って外部に情報を流す公式窓口が複数あり、しかも、それらからの情報が食いちがっていたのでは、民間の営利企業であればどえらいことだからだ。上場企業なら株価にすら影響を及ぼす。なにより、組織の社会的信用に関わる問題だ。
どうも、ホームページひとつ追いかけても、動燃という組織は内部の情報の流れすらコントロールできない状態にあるのではないかと勘繰りたくなる。
【3月13日(木)】
▼動燃(動力炉・核燃料開発事業団)ってのは、バカだね、ほんとに。そう、ホームページも一応あるのだ。Yahoo! Japan で検索すると、驚いたことに「動燃」ではヒットしない。試しに「動力炉」でサーチするとようやく出てくるのだ。暇な人は見に行ってみてはいかがだろうか。今回の事故に関しても、ちゃんと「号外:動燃・東海村情報」として経過が発表されてはいるのだが、トップページをちょっと見ただけではわからない。「原子力・不拡散情報」とかいう、わけのわからないホットテキストをクリックすると、おずおずと「号外」が出てくるんである。ど阿呆。ホームページひとつ見ても、この団体の性格がよーくわかる。こういうときは、トップページでこういうふうに
【3月11日(火)】
▼齋藤冬樹さんとおっしゃる方から、リンクを張らせてほしいとのメールをいただく。齋藤さんはご自分の名前がとても気に入っていて、あちこちの「冬樹さん」を集めたリンク集「冬樹な方々」を作るのだとのこと。齋藤さんのページに行ってみると、東京大学気候システム研究センターなどというものものしいところにいらっしゃるわりには、どうでもいいようなくだらないことがやたら気になる人らしい。「最近気になること、あるいは気になっていたこと」というコーナーは、なんだかおれみたいなノリで、はなはだ親近感を覚える。おれの「迷子から二番目の真実」を気に入ってくださったとのことで、さもあらむとぞ思ふ。そういえば、たしか全国の我孫子さんを集めているという人もいたなあ。意外なことで繋がりができるから、インターネットというやつは面白い。
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