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アラクネー(=Aravcnh)

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 「クモ」あるいは「紡ぐ人」を意味する。運命を織る女神アテーナーAtheneの添え名であり、トーテム虫である。人間が「運命の三女神」 Fatesの巣の糸にひっかかつて身動きできないのは、ハエがクモの巣の糸にひっかかって身動きできないことによって象徴された。ハエが人間の霊魂を表すシンボルであることは昔からであった。人間がある生涯から次の生涯に移るときに、霊魂は実際にある形あるものの姿をとるが、それがハエであると考えられた。そのためバール・ゼブブBaal-Zebub(ベルゼブブ)のような聖なる霊魂導師は「ハエの王」と呼ばれた。霊魂を導いたからである[1]。

 古代ギリシア・ローマの著述家たちは、アテーナーのトーテム虫がクモであり、そして巣を張ることから、アテーナーのイメージを誤解してアラクネー伝説を作ってしまった。アラクネーというのは人間の娘で、その織物の技術はアテーナーの技術を上回るものであった。そのため、アテーナーはアラクネーをクモの姿に変えてしまった[2]。


[1]Spence, 95-96.
[2]Graves, G. M. 1, 98.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 アテーナーがアラクネ一に復讐したという話は、もしその話がアテーナイ人たちと、クレータ島の出身であるリューディア=カーリア人の海上支配者(qakassokravtwr)たちとのあいだに行われていた古代の商業上の競争対立を記録しているとすれば、ただ美しい寓話だという以上の意義をもっているであろう。クレータ文化の影響のもとにあったミーレートス — カーリアのミーレートスの母にあたる都市で古代世界のなかでは染めあげた羊毛をもっとも多く輸出した貿易港 — で蜘妹の模様を刻んである印形がたくさん発見されているが、ここから想像すると、前第二千年紀のはじめごろ、ここでは織物業が一般にさかんだったらしい。しばらくのあいだは、ミーレートス人たちが利益の多い黒海貿易を独占していて、エジプトのナウクラティスには中継港をもっていた。アテーナーが「蜘妹」をねたんだとしても、十分に理由のあることなのである。(グレイヴズ、p.151)


[画像出典]
 クモの巣アート じつに美しい写真集である。