〔ギリシア・象徴〕 ヘーシオドス時代のギリシア人にとっては、トネリコは、力強い堅固さの象徴であった。種族に関するあの有名な神話の中で、「青銅の種族は、銀の種族とは全然似ておらず、トネリコの木から生じたものである。青銅の種族はトネリコの娘であり、恐ろしくて力も強い」〔『仕事と日々』144-145〕。
トネリコは、その木を用いて槍の柄を作っていたことから、やがて槍そのものを表すようになった。
〔北欧・文学〕 北欧の伝承では、トネリコは不死の象徴。宇宙の3次元の絆の象徴である。北欧のある詩にこう歌われている(CHAS、306)。
「大地の中心にまでもぐり込み、賢明にもつっ立っているこのトネリコの樹は……。
私は知っている、ユグドラシルと呼ばれるトネリコの樹の存在を。
この樹の頂は白い水蒸気の中にひたり露がそこから谷間にしたたり落ちていく。
トネリコはウルズの泉の上にとこしえに緑色をしてつっ立っている」。
トネリコは、巨人であり、豊穣の神である。
「ユグドラシルは身をふるわせる。
トネリコは立ち上がり
老いた幹をうならせる。
巨人は身をゆさぶる。
皆のものは身ぶるいする。
地獄の道の途上で」。
〔ゲルマン・神話〕 ゲルマン人にとって、ユグドラシルというトネリコの樹は、世界樹である。世界はこの木のつくる陰にそって広がっていく。数えきれないほどの動物がそこに住んでいる。すべての生き物は、そこから生じる。常緑であるのは、ウルズの泉から活気と再生の力を吸収するから。この泉の水を元に生き、それで宇宙を生かしていく。この泉は、運命の女神のノルニルの1人によって守護されている。
トネリコには、主な根が3本あり、そのうちの1本は、ウルズの泉の中に張っている。2本目の根は、ニヴルヘイム(霧の国の意)という氷河の国に張っていてフヴュルゲルミルという泉に達する。この泉は、水の源であり、世界のあらゆる大河はそこから流れ出る。3本目の根は、巨人族の国ヨーツンへイムの中に張っていて、その国では《知恵》の泉ミーミルが歌っている。
ゲルマンの神々は、裁きのためユグドラシルの下に集まる。ちょうど、オリンボスの頂にギリシアの神々が集まったのと同じである。
ある世界が消滅し、もう1つ別の世界が出現する、宇宙の大変動のときにも、ユグドラシルは不動で、毅然と立っていて無敵である。炎も、氷河も、闇も、この木を揺さぶり倒すことはできない。災難を避けて再び大地に住みつく人々には、この木は、避難所の役に立つ。トリネコは、何ものもこれを破壊することのできない、生の永遠性のシンボルである。
昔の、バルト海沿岸の国々では、トネリコは、そこつ者かバカ者のことをいうのに使われた。トネリコは、目が見えないと考えられていたからである。いつ春がくるのかも知らないし、長い間裸のままであった。秋になるとバカ者と思われぬために、一挙に葉を落してしまう。
トネリコは、ヘビを追い放つと考えられている。ヘビに対しては、魔力を発揮するらしい。ヘビは、トネリコの枝か暖炉の炎の間のどちらかを選ぶとき、後者をとって通りすぎる。
〔ローマ〕 プリニウスとディオスコーリデスとは、この木の特徴をこう指摘している。
「トリネコの葉の煎じ茶を、ブドウ洒にまぜて飲むと、ヘビの毒に大変有効である」
(LANS、6、第2部146-147)
〔カビリア〕 大力ビリアの地方も、北欧と同じく、トネリコを豊穣のシンボルと考えている。
「タスレントtaslentというトネリコは、とくに女性の木である。ウシの飼料にするため、この木の葉を切りおとすため、女性が木によじ登る。ある種のお守りも、この木に吊るす。とくに、人間の心臓の鼓動のお守りである」。
最初に創り出された木ではあるが、利用されたのは、オリーヴに次いで2番目である。飼料用のトネリコは、完全に安全なものではない。すべて魔力を持つものがそうであるが、この木も、脅威を与えるものである。
「ある男がトネリコを植えるとする。すると家族のうち女性を失うことになろう。あるいは、妻が死産児しか生まない。豊穣と生命のもとになるものすべては、その見返りに生命と豊穣を奪う危険を持つ」(SERP、252)。
(『世界シンボル大事典』)