L


トカゲ(Lizard)〔Gr. sauvra

比較・ヘビ〕 トカゲの象徴的意味は「ヘビ」から派生したとみなすことができ、トカゲはヘビの和らげられた表現だといえよう。トカゲのような「怠け者」、ヘビのような怠け者、という諺がある。しかし人間の永遠の敵であるヘビと違って、トカゲは、少なくとも地中海文化においては、家族同様の扱いを受けている親しい仲間である。

エジプト・象形文字〕 エジプトのヒエログリフでは、「親切」を表すイメージとしてトカゲが選ばれた。

アフリカ・美術・伝説〕 ブラック・アフリカの美術では、トカゲが装飾モチーフとして繰り返し繰り返し用いられる。そこにはトカゲがしばしば文明化の英雄、神々の仲介者ないし使者として現れる。カメルーンの伝説によると、「初めに神は2人の使者を地上に遣わした。カメレオンは人々に 死後の復活を告げよといわれた。トカゲは 永久のを告げる役であった。先に着いた 方の使者のお告げだけが効力を持つことに なっていた。トカゲはカメレオンを欺くた めに、こういった。《ゆっくり行くんだ、ゆ っくりと……走ると、世界が揺れるぞ!》 それからトカゲは先手を打って、永久の を告げた」(MVEA、61)。

 カサイのパンツ一族にあっては、トカゲ の夢を見ると男の子が生まれる前兆である が、隣のルルア族とルバ族は、オオトカゲ の皮で秘薬を入れる袋を作る(FOUG)。

メラネシア・神話〕 トカゲが大昔からいたことはメラネシアにおいて確認され、 そこではトカゲが社会の4階級を創始した4始祖中の最年長者とみなされている (MALM)。最後にトレス海峡の島民たちは、トカゲを文明化の英雄として意味づけている。彼らにとって、人間に火をもたらしたのは長い首をしたトカゲなのである(FRAF)。

聖書〕 旧約聖書は、次の1節を除くと、 トカゲ(ヤモリ)にはめったに触れていな い。「ヤモリは手で摘まえられるが、王の宮殿に住んでいる」(『箴言』30、28)。このトカゲ解釈は剣呑なようにも思われる が、しかし少なくともそこには、トカゲと人間との親密な交わり、トカゲの世俗的ヒエラルキーへの無頓着が示されていること は見てとれる。そこからは、トカゲが長時間じっと日なたぽっこをするのは「観想的恍惚状態」のシンボルである、という結論 が引き出せるのであろう。しかもトカゲ(ヤモリ)は聖書の中で、「この地上にあって小さいけれども、知恵者中の知恵者といえる存在」の1つとして引用されているのである(『蔵言』30、24)。

 『箴言』30:28に出てくるヘブライ語は「セマーミート」、七十人訳はkalabwvthVと訳している。欽定訳は誤って「クモ」と訳しているが、トカゲ目のヤモリ属を指していることは明白である。(『聖書動物大事典』p.400)
 『レビ記』11:30に登場するヘブライ語「レターアー」は、ヤモリ科Geckotidaeのある種のヤモリを指していると思われる。(『聖書動物大事典』p.250)

 トカゲはかくして、控え目に光を求めるを象徴するであろう。その点、翼をもって頂めざして飛び立つとは対照的である、と大グレゴリウスは指摘している。

Appolon_Sauroktonos.jpg〔ギリシア・神話〕 =Apovllwn SauroktovnoV〔トカゲ殺しのアポッローン〕は、シケリア東岸岸地方の、トカゲをトーテムとして崇拝し、それによって預言をしていた部族が、アポッローン崇拝に包摂されたものであると松村武雄『古代希臘に於ける宗教的葛藤』は云う。


[画像出典]
Apollon Sauroktonos
der Eidechsentöer.
Marmorkopie nach einem Original des Praxiteles,
um 340-330 v. Chr. - Paris, Louvre