R


レアー(+Revaor+Reiva)

rhea.jpg

 エーゲ海の「宇宙の母」、すなわち「太女神」のクレータ島における名。太女神は、父権制社会の古代ギリシアの人々がクレータ島に侵入してくる以前に、を持たずに至高の権力によって統治していた。レアー三相一体の女神の原型であり、彼女のそれぞれの機能を暗示するいくつかの添え名を持っていた。すなわち「甘美な乙女」、ブリトマルティス、「法を制定するディクテ山の母神」ディクテュンナ、「エーゲ文明の創設者」アイギアである[1]。彼女のもう1つの名はコロニスであり、ハシボソガラス(の女神)と、偉大な治癒英雄アスクレーピオスの処女母(virgin mother)(生命の女神)の両方を意味した。アスクレーピオスは、ティーターン族の彼に対する崇拝を怒った古代ギリシアのゼウスによって破滅させられた英雄である。

 レアーはエーゲ海沿岸にのみ存在したのではなかった。南ロシアの古代の種族の間では、レアーは「赤き者」(Rha)と言われた。子供であるすべての神々を食い尽くすとき、血の衣装を着た「時-母神」としてのカーリーの変形と見られる女神である[2]。同じ「時-母神」が、同じく自分の子供を次々と食い尽くすケルトの女神リアンノンとなった[3]。この子供を食う母親は、自らの生んだものを食い尽くす「時」としての女神、あるいは同じ行動をとる「大地」としての女神の、各地に見られる典型的な型である。古代ギリシアの神話でレアーが与えられたとき、レアーの夫はクロヌス、あるいはクロノス(「時-父神」)と呼ばれ、レアーの行動をまねして、自分の子供を食い尽くした。彼はまた、自分の父である天界の神ウーラノスを去勢して殺し、その代わりに彼自身の息子ゼウスに脅かされた[4]。これらの神話には自分に取って代わった者によって去勢され殺された聖王たちの原初的な継承が反映されている。 point.gifKingship. 本来は、去勢を行う三日月鎌、あるいはスキタイ人の武器である大鎌を使ったのは「時-母神」のレアー・クロニアであり、この道具を用いて「天界の父」が刈り取られたのである。すなわちレアー自身がグリム・リーパー(無慈悲な刈り手、死神)であった。

 ローマ時代以前のラティウム(古代イタリアの都市国家)では、彼女はレア・シルヴィア(森林地帯のレアー)として知られていた。レアー・シルヴィアは「女神」ディアーナの初期の型であり、最初の「ウェスタ神殿の処女」で、ロムルスとレムスの母と呼ばれた。レア・シルヴィアの支配の下では「ウェスタ神殿の処女」は、のちの時代のような、禁欲的な修道女でも国家の召使でもなかった。彼女たちは初期のラティウムの王を選ぶ者であり、また廃する者であって、支配者を支配し、を持たないマトロンmatronae (社会的地位のある婦人)の一団であった。したがって、レア・シルヴィア自身の子供たちがそうであったように、ウェスタ神殿の処女たちの子供もみな、人間ではなく「神」を父としていた。生まれるとすぐにレアーの子供たちは、すべてのローマの祖霊ラールLar(pl. Lares)の母でもあった「聖なる娼婦」、すなわち女大祭司のアッカ・ラレンティアAcca Larentiaに育てられた。 point.gifAkka.

 古代ギリシアの神話はレアーを、大神ゼウスの母であり妻であった女神と同一視した。ゼウスは、彼女に一夫一婦婚を禁じられたために(レアーの支配する人々は集団婚を行っていた)、自分の母であるレアーを「犯した」。その後再びゼウスは、レアーの娘であり、分身で、また彼女の処女相でもある妹-花嫁のヘーラーを「犯した」。ヘーラーの名は実はレアーと同じであり、へ・エラHe Era、つまり大地を意味した[5]

 レアー-ヘーラーとむりやり結婚したゼウスは、ギリシアにおける妻虐待のシンボルとなった。オリュムポスの神々の母と父は互いに軽蔑し合い、絶えず争い、議論をした。ゼウスは、地上に神を父とする多くの英雄を送るために多くのニンフを妊娠させたが、神話の著作者たちは、ゼウスに対するヘーラーの敵意ある「嫉妬」をつねに注意深く述べている。双子の兄であり息子でありであるゼウスを困らせるために、レアー-ヘーラーは古代の生誕呪術を再び用いて、受精せずに懐胎し、ヘビの神ピュートーンを生んだ — これは女神が、古代の添え名エウリュノメー Eurynomeの名のもとに、 1人で世界を 創造し、ヘビの神オーピオーンを生んだのと全く同じである。

 レアーのもう1つの名はパンドーラー(「すべてを与える者」)であり、へシオドスはパンドーラーを、その過剰な好奇心から人類に災害を与えるイヴのような女性に書き変えた[6]。この神話の起源は、女神が、その永遠なる時の周期の中で、あらゆる種類の運命を、生誕とともにを、喜びとともに苦しみを、与えるという考え方にあった。


[1]Larousse, 85-86.
[2]Mahanirvanatantra, 295-96.
[3]Squire, 286.
[4]Graves, G. M. 1, 40.
[5]Graves, G. M. 1, 51, 53-54.
[6]Graves, G. M. 1, 148.


 レアー(Rhea)の名は、たぶんEraつまり「大地」が訛ったものであろう。この女神にゆかりの深いハトで、獣では山岳にすむライオンがそうである。(グレイヴズ、p.68)

 実際の崇拝では、レアーは大地女神で、ガイアとの識別が困難であり、彼女の最初の崇拝はクレータに発し、のち小アジアの大地女神と同一視され、キュベレー、アグディスティス!AgdistiVなどと混同し、さらにこれらの大地女神の崇拝形式がディオニューソスのそれと酷似するところより、両神は密接に関係づけられるにいたった。(『ギリシア・ローマ神話辞典』)


[画像出典]
Daughters of Rhea